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37.お弁当ですが、なにか?

 お弁当と言えば青春の香りがする。

 クラス内でもお弁当持ちは多い。

 特に委員長妹から兄に渡される光景は日常茶飯事で、妹のお弁当を高々とあげて嬉しそうにするのはどうかと思う。それをニコニコと受け入れる妹もどうかしている。後、兄の彼女もニコニコとそんな様子を受け入れているのもどうかしている。


「お弁当ねー」


 とはいえ、羨ましくはある。

 あんなにも嬉しくなってくれるものなのかと。あんなにも嬉しく食べたいものなのかと。

 私、初音は料理が得意だ。

 確かにプロ級というわけではないが、和洋中なんでも出来て、得意料理は肉じゃがだ。

 ビッチらしくない?

 私もそう思うが、家でママ代わりに作っていた賜物だ。

 けれども、お弁当を作ったことは数えるしかない。


「風紀委員としても止められないのが難題よね、あれ」

「まぁ、不順異性交遊でも何でもないからな」


 さておき、私達はそんな混沌めいた教室から抜け出し、いつも通りに食堂だ。

 私はサラダうどんで、しどー君は焼き魚定食が定番にし、テラスの端に陣取る。

 割と指定席になっている感がある。

 噂ではカップルがいちゃついてるから居づらいらしい。

 困ったカップルもいたモノだ。


「絶対、あの兄妹はズブリしてると思うんだけどなぁ……」

「学校でズブリとかいうのはヤメロ。

 風紀委員の前だからな、一応」


 いつも通りにお堅いセリフが彼氏から飛んでくる。

 今日はマジメガネスタイルしどー君である。


「家でなら獣でもいいもんね?」

「っ」


 日曜日にやりすぎて、朝起きた時間は既にセットする暇が無かったのだ。

 私もしどー君も、何というか、タフでね?


「後ろもあと少しで三本入りそうだし、フフフ」

「食事中はそう言う話をだな……」

「ある意味で食事だからいいじゃないの。

 兎な私が狼なしどー君においしく食べられちゃうのよ」

「初音?

 流石に公序が乱れた発言で反省室行きしたいか?」

「バッチこいよ?

 反省という名の精神棒を受け入れることもやぶさかではないぞい!

 というか、やれ!」

「……はぁ」


 しどー君が呆れてくれるので、追い打ちを仕掛けることにする。


「お仕置きプレイとかよかったわよね……。

 風紀委員と援助交際少女の更生プレイ。

 しどー君もノリノリだったし」

「だから、TPO考えろと……」


 これぐらいはコミュニケーションだ。

 しどー君も随分、ただれたモノである。


「そういえば、しどーくんは私のお弁当食べてみたい?

 委員長のバカ騒ぎ見てて思った訳だけど」

「初音のスケジュールが過酷になるから無理だろ……」

「まあね」

 

 通学は京都市内から西舞鶴。

 朝仕度は手慣れたモノで時間は掛からないが流石にお弁当を作る時間はない。

 とはいえ、否定が来なかった。

 つまり、食べてみたいのだ、彼は。


「エッチした翌日は難しいかなぁ。

 ムラっと来るのもその日の気分だし、お互い」

「初音はいつもだろ……」

「うん、そうよ? 悪い?」

「開き直るな!」

「今更よ、い・ま・さ・ら。

 ビッチだもーん」


 それにだ、


「しどー君とするの好きだもん」


 ニコっと彼にだけ向ける微笑みで本心を伝えてやる。

 それを受けた彼は顔を赤らめてくれるので、心の栄養が補給されていく。

 えへへへ。


「……僕も、初音とするの好きだがな」

「ふぁ⁈」


 その一言で一気にゲージが突き抜けた。

 普段、こんな所で言われない発言で意表を突かれ、心臓がダイレクトに愛撫されたかのようにバクバクしてる。


「うう、恥ずかしいセリフぅ……」

「ちゃんと伝えないと、初音、不安になるし」

「それはそうなんだけどぉ……」


 ちゃんと私を理解してくれる彼氏が素敵すぎてまぶしい。

 

「TPO……考えよ?」

「お前が言うのか、お前が」

「だってしたくなっちゃうもん」


 発情スイッチが入りかけている自分が居る。

 普段、どんな場面でも抑えきれている私だが、今日は緩い。

 だって、今日は危険日で、性に貪欲になっている。

 出されたら、っと思うとお腹の奥の方がキュンキュンと興奮してくる私はヘンタイチックだ。


「初音まで、燦みたいになるのは勘弁してくれよ?」

「流石に妹と同列はイヤね」


 とはいえ、ちゃんと欲をコントロール出来ないのはタダの淫乱だ。

 妹を例に出されては自重せざる得ない。

 さておき、


「お弁当、食べたいんでしょ?」

「……」


 無言で返してくれる。

 基本、嘘がつけない上に素直に返してくれるしどー君だ。

 彼が今、私の事を思って言葉にしないことは良く判っている。


「私は作りたいな、と思う訳ですよ」


 彼の負担にならない言葉を選びながら、続ける。


「私自身、誰かの作ってくれたお弁当というモノを食べたことが無いのよねー。

 ママは料理出来ないし。

 それでよく今の仕事、スナックのママが続けられている気がするけど……ともあれ、小学校の時代から羨ましく観てたのよね。

 どんなモノか作ってあげたいし、食べてみたい。

 だから、作りたいのよ?」


 フンスと鼻息を荒くして、言い切ってやる。


「その上で、聞くわ。

 私のお弁当食べたい?」

「……勿論。

 ただ初音の負担にならないようにだけは頼む。

 結構、色々やって貰ってるから」

「よろし!

 まぁ、同級生メイド兼ねてる部分は仕事よ仕事。

 ビッチはちゃんとお給金分働くし、そこを気遣うのは筋違い。

 ね、おぼっちゃま?」


 食べ終えたので前の席のしどー君に近づき、耳元で囁いてやった。


「おぼっちゃまはやめろよ……」

「めんごめんご」


 珍しく本気で嫌そうにするので謝りながら席に戻る。

 まぁ、しどー君、全くお金の匂いさせてないのは、そういうステータスを着飾るのが嫌いな節がある。

 私も家に行くまで知らなかったし。


「僕も、誰かに作って貰ったお弁当は食べたことないからな。

 初音と同じように両親、共働きでな。

 大抵はハウスキーパーさんの作り置きを温めるか、外食で気を使ってた」

「そういえば、注文追加しろはさすがの私も初めての経験だったわよね……。

 それに注文やドリンクも手慣れてた感が……なるほど」


 懐かしい話だ。

 奢って貰った一番初めの記憶である。

 あの時はこんな関係になるとは思わなかった訳だが。


「そしたら今日は控えめにして、やるとしますか。

 覚悟しなさいよ!」

「あぁ、楽しみにしてる」


 ビシィ! っと指を突き付けてやると、しどー君は嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういや初音の志望がしどー君と同じならむしろ彼女の勉強する時間がしどー君より必要のではないでしょうか? その上に家事.....しどー君ちょっと手伝って?
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