27.5 攻め気な妹だけど、どうしよう……
「……あ、誠一さん、こんばんわ」
スラリとしたカッコいい彼を見つけ、走り寄る。
少し待たせてしてしまったようだ。
「お待たせしました?」
「いや。
僕の方こそ、少し授業が延長して遅刻してまたせてしまい、愛想をつかされたかと。
すまない」
と、頭を軽く下げてくれる。
彼は何も悪い事をしていないのに、生真面目であるなと思う。
同時に慌てて、
「いえ!
頭下げるのはこっちのほうですから。
遅れてすみません!」
と私も下げる。
結果、変な奴らだと、周りに見られてしまう。
「とりあえず、場所移しましょうか」
「そうだね」
二人で慌てて動いて、近くのチェーンのコーヒー店へ。
「この前はありがとうございました」
先ずはお礼だ。
その代わりと言っては何だが、コーヒー代は私が出した。
というより、先にコーヒー権を買っといた。
これも戦略だ。
姉ぇ曰く、「基本、先に気遣いを見せると相手からの譲歩を引き出しやすい! 後、チケットとかお金で無いなら相手はそれならと気遣いを拒否しない!」らしい。
それで男から一回何万円も稼いでいた姉ぇだ、真実だろう。
彼も一旦拒否をみせたが、というのは予想内で「お礼ですから」というと、それならと受け取ってくれた。
「ふぅ」
アツアツのコーヒーを飲み、一息いれ、思考をクリアにしていく。
浮かれてばかりはいられない、ここからが勝負だ。
そう話題だ。わ・だ・い。
沈黙は避けろとは、百戦錬磨な姉ぇの言葉だ。その点では信頼している。
「ああいう、対処慣れているんですか?
凄く男らしくて」
「君のお姉さんに慣らされたという感じだね。
何度か、あいつの援助交際場面に遭遇してね。
危ない場面もあって、それでね?」
「あはは……」
何というか、想像がつく気がする。
「だが、男らしいと言われるとちょっとね……そう言われると嬉しくはなるが。
クラス内の虐めを止めれなかったどころか気づきもしなかった、情けない男だから」
「そんなことないです!
少なくとも、私にとってはヒーローです!」
叫んで店内中の眼を集めてしまう。
ただ、この事実だけは伝えたかった。
うつむいた彼の表情が曇ったのを晴らしたかったからだ。
「ありがとう。
気が晴れたよ」
そしてそれは成った。
彼の整った顔が私を観て、微笑んでくれたのだ。
心がキューっとしまり、そして体の奥底が熱くなる感じを覚える。
鼓動が速くなる。
あぁ、やっぱり、私、この人に恋をしているんだ。
……この人としたい。
「……誠一さん。
明日、デートしてくださいませんか?」
その言葉はすんなり出てきた。
彼がちょっと驚いたように見えた。
いきなりこんなことを言う女子なんて、と思うが、伝えなければ伝わらない。
相手に察してもらうなんて、都合のいいことを信じるな。
進め。
という姉ぇの言葉が脳裏に響く。
それでも、審判を待つかのような沈黙はツライ。
だから、
「誠一さん、私、あなたに一目惚れしたんです!
私は初恋です。
これが間違いとは思いたくないですが、それが確かなのか、見定めたいんで一日付き合ってください!
彼女がいるかはしりませんが、我儘に付き合ってください!」
攻めた。
最後は椅子から立ち上がり、本気度を示す。
再び衆目を集めるが知ったことか。
「あー、うん。
そう言われると断りづらい」
彼はポリポリと頬をかき、そして、
「判った。
ただ、君の思うような僕じゃないかもしれない。
それで幻滅してしまうかもしれないけど、いいかな?」
「構いません。
逆が怖いぐらいです。
というより、こんな私に付き合って頂き、ありがとうございます!」
「まぁ、こんなとは言わない方がいい。
君の様に可愛い女子相手だからなら光栄に思えるよ」
頬が熱くなる。
こういったことを言われたことが無かったこともある。
けれども、何より、そう私の事を言ってくれる彼はとても好きな存在なのだと惚れ直した。
だからだろうか、
「ちなみに何ですが……エッチな女の子は好きですか?」
話題の中、抑えきれずこう言ってしまった。
彼は目を見開いて、驚きを示してくるので、慌てて取り繕うように、
「姉ぇがそのビッチなのに、誠一さんと親しいので気になってしまって、その」
姉ぇを矢面にたたせる。
便利な姉ぇである。
「……なるほど」
納得した彼は一旦、珈琲に口をつけ、考えを巡らせてくれる。
「僕は嫌いではない。
……ちょっとセクハラ染みたことになるが、いいかな?」
「私も聞いたことですから!」
コクリと私は頭を縦に振る。
同時に、私の中で性的興奮が目覚めようとするので、押さえつける。
「最近まで、エッチなことはイケナイことだと根拠の無い道徳心で縛られていた。
オナニーもしなかったし、エロイことに蓋をしていた。
よくあるよね、エロを否定する思春期みたいな話は」
「……ありますね」
何処かで、実感したような話だ。
当然だ、姉ぇが性におおらかでそれをハシタナイと感じていた私自身の経験と被っている。
「その上でエッチという解釈・視点はいくつかあるが……。
一つ目は相手を誘う、性的な魅力を高める意味でのエッチな女の子は有りだ。
つまり仕草だったり、言動だったり、オシャレだったりはスベキだと思うし、それは生物的に正しい。
孔雀とかもそうだしね?
あれは雄だが」
成る程と思う。
「例えば、君のお姉さんである初音を例にあげる。
あれはあれで在りなんじゃないかと思う。
エッチな魅力というのは、異性を感情で動かすことが出来る力だ。
具体的に言えば、自分のモノにしたいと思わせる、そう所有欲求だとか、独占欲求が働く、そういう欲求を駆り立てる意味で魅力的を見せることが出来る。
初音はその意味でも凶悪だし、実際、それで何人モノ男に貢がせていた。
最近はレンタル彼女というのもあるし、その一種と初音を捉えれば、確かにプロ意識みたいなものではあって……って、オタクっぽくてゴメン」
「いえ、ちょっとそこまで考えて無くて……尊敬します!
姉ぇのことをただ単に悪く言うばかりなので、私なんかは!
姉ぇのことは嫌いじゃないですが……、どうも何人モノ男とデートとかは……」
と言っても、姉ぇのことは尊敬している。
コンプレックスは抱いているが。
「そう言ってくれると助かる。
で、もう一つは、性に溺れるという意味でのエッチはダメだと思う。
確かに、自然的な欲求だし、人間は快楽に流されやすい。
とはいえ、人間、つまり社会を構成する動物なのだから、理性は保つべきだね。
その上で、他人に迷惑かけずに、そして自分をコントロールしていて、行為を楽しむのならありなんじゃないかなと結論付けた。
カップルとかならお互いに同意があればなおさらいい。
一方方向なのはカップルといえども、性的搾取に近い」
ふと、誠一さんの顔が大人びて見える。
「まぁ、僕の実経験だが、初めて女の子を触ったとき、ドキドキしたんだ。
どうしたら良いかも判らないし、柔らかいしで、戸惑うばかりでね」
その顔が苦笑に変わる。
なにかを思い出すかのようで、
「……もしかして姉ぇですか?
機嫌がよくなったら、触れとか言いそうですし。
今は彼氏居るんで、しないとは思いますが」
「ノーコメントで頼む」
誠一さんはその言葉に意味ありげな苦い笑みを浮かべるだけだ。
触れて欲しくないことのようだ。
……姉ぇに振られた?
ふとそんな事が浮かぶ。
それを聞くか聞くべきか悩み、止めておく。
本人が嫌なことに踏み込むのはもうちょっと後でも良い。
「まぁ、色々と経験を重ねて徐々に慣れていく内に、自分の中にも性欲があることに気づき、またそれが当然だと受け入れられたんだ。
確かに、その甘美な刺激に溺れる人が居るのは確かだと思った。
それは僕の人生観を変えた経験だ。
とはいえ、同時に身体だけ気持ちよくなることが虚しい自分に気づいたんだ」
「……賢者時間とかそんなものですか?」
「単語の意味が分からないが、確かにその単語の通りで悟りを開いたような気持ちだから良い比喩だね?
体の興奮は満足しているのに、心が空虚だった。
なるほど、それを埋めるためにのめり込むのか。性依存だけでなく、ギャンブル依存にも言えることかと」
誠一さんは、コーヒーに口をつけ、続ける。
「もっとしたいという貪欲な自分は確かにいる。
ただ性欲のままに行動して、人間性の破綻とかは不味いことだとも、確信した。
依存性であるからにして、カウンセリングや病院に行くべきだと、これは当然だとも思うようになった」
グサッ。
ナイフで抉られたような痛みがくる。
確かに私は性欲に流され過ぎていて、先週なんかは学業に身が入らなかった。
それどころか、放課後、学校のトイレでもその……してしまった。
姉ぇに言ったら、「私でもさすがに学校でやったこと無い」と言われ、淫乱だとからかわれた。
ヤバイとは思っていてもあがなえないのだ。
確かに快楽依存し始めている。
「とはいえ、人間、慣れで耐性が出来る。
そこでもっともっととセーフティや法を犯していく人にならず、自制をも楽しめるのなら、エッチな子でも全然ありだと思う。
話が途中脱線したが、これでいいかな?」
「……はい」
誠一さんから向けられる笑みに罪悪感と反省が浮かぶ。
確かに、私はどうかしていた。
「所で何でそんなことを?」
私のことだと見破られたらしい。
鋭い。
「……引かないでくださいね?」
「僕の話に引かなかった君からだ。
当然の要求だし、大丈夫だ」
悩み、前置きをする。
そして深呼吸をして、
「……私、誠一さんとエッチしたいんです。
好きになって、知って欲しくて、知りたくて。
貴方の事を思うと、身体が火照って……」
言ってしまった。
恐る恐る表情を観れば、誠一さんは苦笑していた。
「――光栄に思う」
口元が、緩んでいるのが見えた。
嬉しがっているのは真実のように感じる。
「とはいえ、少し落ち着いた方がいい。
他の人ならタッチないしは、身体関係を持ってから、進めるかもしれない。
それは確かに感情やある意味としては正解だ。
僕だってそう君みたいな子に言われたら、自制を感じてしまうぐらいには普通の男性だ」
彼がグイっとコーヒーを飲み切る。
「きっかけは多分、君を助けたことだと思う。
吊り橋効果だと思うし、一時の風邪みたいなモノだろう。
だから、ちゃんと知って、それが正解か間違いかはちゃんと見て欲しい。
明日はちゃんと付き合う」
そして彼は立ち上がり、
「そろそろ時間だろう?
送るよ」
私に手を向けてきてくれた。
言われ観れば、私が家に帰れる電車の最終便の時間が近づいていた。
大人の余裕という奴なのだろうかと思うと、ますます思慕が募る。
ただ同時に、自身に自己嫌悪も抱いていた。
無意識に今日、あわよくば終電を逃すことを自身が期待をしていたことに気付いてしまったからだ。
「しっかりしなきゃなぁ……」
っと、誠一さんと別れた園部行きの電車でそう一人呟くのだった。





