9.慰めてあげますが、なにか？
「よし、赤点回避！」
放課後、張り出された一覧を下から見ていき、赤点のラインまでに私はいなかった。
で、二人で頑張った結果がこれだ。
「って、真ん中より上⁈」
張り出された自分の順位を観て叫んだ！
それどころか平均点よりも上に行けた。
全くもってしどー君様様である。
そんな彼はどうかとみると……一筋の水が垂れていた。
そして人知れずにどこかへと足を向けていく。
「あ……」
上からテストの順位を観る。
一位、委員長とその妹。三位、お嬢様と順にみていく……七位でようやくしどー君の名前があった。
私は毎日見ている。
あんなに勉強していたのに勝てなかったのだ。
「そりゃくやしいよねー……」
ふと妹に被ったのもある。
別々に見に行ったのもあるが、その日、家に帰ると妹は泣いていた。
世界を呪いながら勉強に使っていたノートを破っていた。
妹はパパとママのおかげで持ち直した。
私はそんな妹に、何もしてあげられなかった。
「しどー君は誰もいないよね、助けてくれる人……。
よし！」
善は急げ。
私は彼を追って走り出した。
「くそくそくそ！」
いつもはそんな暴言を吐かないマジメガネの彼は校舎の裏で壁を叩いていた。
鈍い音が校舎裏に響いている。
手はすでに赤く腫れている。
「しどー君、痛いだけよ－、それ」
「初音さん……！」
気付けば彼の腕をつかんで止めていた。
彼は私を見て、言う。
「ありがとう……」
「私のせいだって言わないの？
私の勉強なんか見てなければ、もっといい点数を取れたんじゃないの？
それこそ委員長を抜けるような」
そう言われる覚悟はしていた。
「逆だ」
「逆？」
「ケアレスミスを何問かしている。
解けなかったのは一問しかない……！
それが悔しくて、悔しくて！」
「あー、順位がダメだったからじゃないのね？」
「そりゃそうだ、自分の結果は自分の責任だからね。
自分が許せないだけだ」
そしてもう一回、壁を叩こうとするので手に全身でしがみついてやった。
「やめなよ、自虐行為は」
「テスト前、緊張で寝つけなかったんだ。
いつもそうだ、大切なことがある前は、いつもいつも。
初音さんの言う通り、精神を落ち着けなきゃいけないのに……！」
はぁ、全くこの人はマジメガネすぎる。
と、彼がもう一回自分の拳を叩きつけようとした。
だから今度は、顔を自分のふくらみに押し付けてやった。
校舎内では初めてだ。
誰かに見られるかもと思ったが、みていられなくなったのだ。
「難しく考えすぎ。
今は私の柔らかさにゆだねてみ？」
「あ……」
それだけ言ってやるとしばらく抵抗が見えたが、すぐ落ち着いて黙って体を預けてくれる。
すすり泣きも始めてくれちゃったので、とりあえず、背中をさすってあげる。
母性？ をくすぐられたのかもしれない。
「落ち着いた？」
「ありがとう……」
「少しは甘えてもいいんだよー？
全く、ホントにマジメガネなんだから。
もっと楽しみなよ？」
「もういいから、大丈夫だから！」
顔を真っ赤にする彼に苦笑が漏れる。。
「あ、すまない。
びしょびしょにしてしまって」
言われ気付けば、制服の上着がびしょびしょだ。
気にしなくてもいいのにねー、と脱ぎつつ言ってやる。
こりゃ、ダメだ。
後でジャージを取ってきてもらおう。
幸い、放課後だ。
「いいのいいの。
私がしたくてしたんだから。
後で洗濯はさせてもらうけど」
「だが……」
「い・い・の！」
これぐらいはっきり言ってやってようやく黙ってくれる。
全く。
とはいえ、良いことを思いついた。
「代わりと言っては何だけど、土曜暇でしょ？
遊びに付き合ってあげる」
「それってデートってやつでは……」
流石に気付くか。
「そうよ？
この前した買い物もデートっちゃデートみたいなものだし、
色々してあげてるけど、女の子に慣れるならデートぐらい慣れないとねー、
テストのお礼よ」
意地悪い笑みを浮かべて、彼を上目遣いで見てやる。
彼の顔が真っ赤になったので、私の心は嬉しくなった。
