97 英雄所縁の館
「うわー。うわー。すごー。」
ドーラのうわ言である。
俺たちは今、市場の近くの食事処で休憩兼昼食を取っている。
「ドーラちゃん。お行儀が悪いよ。」
「せやかてこれすごいで!この細工!このデザイン!きっとすごい細工師の仕事や!」
「もー。」
ドーラがテンションを上げているのは市場を回っている時に見つけた飾りの付いた小さな杖だ。
特に魔石や宝石がついているとか、何かが付与されているとかいうことはない。
ただ精緻な細工が施されているだけだ。
うん。
確かにすごい細工だ。
作った細工師は相当な腕だろう。
多少デザインが禍々しかろうが、曰くのありそうな汚れが付いていようが。
鑑定結果としては何の効果も無い普通の杖だった。
鑑定の説明書きにも「見た目がやばい」とあったが。
そんな収穫(ドーラだけ)があっただけではない。
情報という意味でも収穫があった。
「英雄所縁の館」というのがあるらしい。
しかも町の中に。
言い伝えでは館の深奥には英雄の残した宝が眠っているらしく、多くの挑戦者たちが飛び込んで行ったところ、その全てが全身をグルグル巻きにされた上に気絶した状態で館の外に放り出されるらしい。
定期的に挑戦者がいるらしく、この町の風物詩になっているらしい。
実際のところ本当に英雄所縁の館かどうかすら定かではないそうだ。
まあとりあえず見てみよう。
◇
軽く昼食を取ってから聞いておいた「英雄所縁の館」へ向かった。
「ホンマにここなん?お化け屋敷じゃなくて?」
「屋台で聞いた限りはそうみたいだけど。」
その館は周囲の家々の3倍くらいのスペースを取った洋館だった。
外から見た限りでは部屋数20以上はありそうな3階建てで、広い庭もあった。
城といっても過言ではないくらいにでかい。
雑草が伸び放題で、館の壁全体にも蔦がへばり付いており、くもの巣も至る所にはっていた。
窓は埃が積もっているのか真っ白で中は見えない。
背景に雷雲が見える気がする。
特に誰某を示すようなシンボルなどは無く、聞いていなければ普通に幽霊屋敷、もとい廃墟だと思っただろう。
「とりあえず入ってみよう!」
「ええ!行くん!?下調べとかは!?」
「はい!お供します!」
「いっちゃん!?」
「わたしはソーマ様に従うのみです!」
「ドーラ。あきらめろ。行くぞ!」
「ええぇー。」
渋るドーラを引きずりながら館のドアを潜る。
鍵は開いていた。
気が付くと俺たちはロープでグルグル巻きにされて外に転がされていた。
どゆことー!?
◇
その後も何度か入り口から入ってみて分かったのは、正面の入り口は罠だということだ。
入った瞬間魔法的な罠が発動して意識を失い、何処からともなく現れたロープにグルグル巻きにされて放り出された。
ロープが流れるような動きで巻き付きから放り出しまでをひとりでに行っていたとドーラが言っていた。
被験者は俺。
観察者はドーラとイチだ。
と言うことで魔法を無効化できない現状では別ルートからの潜入を試みる必要があった。
試しに窓を開けてみたら、すんなり開いたのでそこから入ってみた。
気が付くと俺たちはロープでグルグル巻きにされて外に転がされていた。
デジャビュ
「もー!!なんなん!?どの窓もドアも入ってすぐに眠らされて放り出されるやんかーー!!」
「うーん。どこが正解なんだろう?」
「そもそも正解なんてあるん!?」
「さあ?」
「うがー!!」
「ドーラちゃん!落ち着いてー!」
「だってー!!」
うーむ。
分かったのは入ってすぐに眠りの魔法にかけられてしまうのとロープがひとりでに動いていることくらいだ。
ドアも窓も鍵は掛かっていないため、開けることは出来るが入ることが出来ない。
2階の窓も3階の窓も裏口も手当たり次第に開けて入ってみたが、全てに同じ罠が仕掛けられていた。
早速手詰まりだ。
「なあなあ兄ちゃん。今日はもうやめへん?」
「そうですね。もう日が傾き始めましたし。」
見上げると中天にあった太陽はいつの間にか大分傾いていた。
「そうだな。引き上げるか。」
「わーい!今日の晩御飯は何かなー?」
「また新しいお料理がいいなぁ。」
「うちはうまけりゃ何でもええでー。」
「もー、ドーラちゃんたらー。」
「なははー・・・ん?なんやろ?」
「どうしたの?ドーラちゃん?」
館の敷地から出ようとした時にドーラが何かを見つけたように足を止めた。
ドーラが見ているのは館の敷地を囲う塀だ。
門の裏手に当たる所を凝視していた。
「どうした?ドーラ。」
「んー?何か書いてある気がしたんやけどただの模様みたいやなー。文字っぽい気がしたんやけど。」
「どれどれ?」
「これや。」
ドーラ指差した部分を見てみると確かにミミズが這った様な『文字』があった。
「な?文字みたいやろ?ここだけ周りと違うから何か書いてるんかなぁとか思ったんやけど、ハズレやねー。」
「そうなんだ。」
ドーラとイチがそう話している横で俺はその『文字』を読んでいた。
「『目に見えるものが全てではない』・・・?」
「ソーマ様?」
「兄ちゃん?」
「『目に見えるものが全てではない』と書いてあるんだ。これはね。」
「え!?読めるん!?」
イチが息を呑み、ドーラが驚きの声を上げる。
「ああ。確かにそう書いてあるよ。」
「へー。ただの模様にしか見えんけど。」
「ソーマ様が言うならそうなんでしょう。」
「まあ信じがたいかもしれないけどね。これもスキルのおかげかな。」
「スキル?兄ちゃんのとんでもスキルか?」
「とんでもって。それは酷くないか?」
「せやかて兄ちゃんてば、ビックリ箱みたいに色々飛び出すから。」
「そういえば、ソーマ様のスキルについてはあまり知りませんね。」
「あれ?そうだっけ?そういや【鑑定】スキルくらいしか話したこと無かったかも。」
「そうやそうや。」
2人が興味津々で聞いてくるがそう大した話もないのだが。
「まあまあ落ち着けって。スキルについては帰ってからね。時間もないし、同じような『文字』が他に無いかもう一度だけ見て回ろう。」
「「はーい。」」
「素直でよろしい。」
2人の頭を撫でて、早速探し回る。
探した結果、館には無かったが別の塀と庭の石に探していた『文字』が見つかった。
別の塀『ここは英雄たちの集う館』
庭の石『ハズレ』
結局、最初にドーラが見つけたものだけが攻略のヒントになりそうなものだった。
ハズレまで用意してあるなんて、ここを作ったやつはせこ、小賢し、遊び好きだったようだ。
若干アトラクションのようなところがあるのは確かだが、ここでも何かを試しているのだろう。
何が試されているのかは・・・知力?
まあとにかく頭を冷やして再トライだ。
本格的にストックが無くなってきました。今後暫くは更新の間隔が開いてしまうと思います。
申し訳ありません。




