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俺、英雄になる?  作者: 黒猫
トリスタ編
98/200

96 和食モドキ

お宿の部屋で一休み中だ。


「ソーマ様。これからの予定はどうしますか?」


イチがそう言うとみんなもこちらに目を向けてきた。

ここは男部屋である。

それぞれ思い思いにくつろいでいる。

ゼンは床で武器の手入れ、ドーラは俺のベッドの上に森で手に入れた素材を並べてブツブツと呟き、俺とイチはテーブルに腰掛けてお茶を飲んでいた。

お茶と言ってもそう大層なものではなく、お茶っぽい葉を煎じて煮出しているだけだ。

葉の名前は“チャノハ”。

“チャノキ”に近い名前なので、ほぼお茶だろう。

緑茶より若干渋い気がするが、これはこれでいい。


「みんなは何がしたい?」


俺は逆に聞いてみる。

出た意見は、

料理屋さん巡り。

道具屋巡り。

狩り。


誰の意見かはまあそのままだ。


「とりあえず、直近の予定として狩りは却下。」

「なんでさ!」

「昨日まで狩りしてたじゃないか。」

「あれは狩りじゃなくて移動だよ!魔の森とか北の山とか高レベルの魔物の地があるって聞いたよ!行ってみたい!」

「うちは嫌やで。少しは休みたいわ。」

「ゼン兄。わがまま言わないの!」

「ちょ、お前らまで・・・。」

「と言うことで狩りはしばらくはなし。少なくとも情報収集が終わったらかな。」

「情報収集?ですか?」

「ああ。この町に来た一番の目的なんだけど、ルームの弐番がこの辺りにあるはずなんだ。」

「ルームって英雄の間ってやつ?サクセスルーム、だったっけ?」

「そうだよ。サクセスノートによると次に行くべきおすすめなんだってさ。」

「おすすめなんてあるんや。」

「何でかは分からないけどね。“絆が試される”ってメモがあったけど、具体的なことは不明。」

「絆?なんやろ?」

「さあ?行ってみれば分かるでしょ。と言うわけでルームの入り口探しと攻略がこの町での最大の目的の一つです。」

「おお!なんだか楽しそう!」

「そうやな!」

「魔物とか出たりするんでしょうか?」

「出るかもね。サクセスルーム<壱>の本来の入り口は爆竜深淵迷宮の深層にあった。探索には最低でもレベル70相当が必要な難関だ。だから次もそれ相応の力が必要になると思う。」

「・・・」


レベル70と聞いてみんな黙り込む。

俺たちはステータスのブーストがあるとは言え、まだレベル30にも届いていない。

そんな俺たちが挑むには無謀すぎる挑戦かもしれない。

無理そうならレベルアップを目指すか、一旦スルーしてレベルアップしてからまた来ればいい。


「何にせよとりあえずは情報収集だ。情報収集がてら町にあるお店でも回ってみよう。」

「「はい!」」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




翌朝。


「ご飯、美味しかったですね。」

「そうだね。」

「食べたことの無いお料理でした。」

「あっさりしてて、うちも結構好きかも。」

「僕はちょっと物足りなかったかなぁ。薄味っていうか。」

「店員さんは和食って言ってましたね。」


はい。そうです。

宿の食堂で和食モドキが出てきました。

モドキです。

米なし、味噌なし、しょうゆなしでどこが和食だ、と正直思ってしまったが、味はそこそこいけた。

白米の代わりに麦飯、味噌しょうゆ代わりによく分からないエキスが使われていた。

このエキスはどうやら魔の森の浅めにいる魔物から取れる素材らしい。

しょうゆと酢を1:2で混ぜたような味ですっぱい。

それでもその酸味を上手く利用して調理してあった。

こうなると南の島に行ってみたくなるね。

味噌とか作れないかな。

テレビのドキュメントで見た気がするんだけど、うる覚えもいいところだ。

分かることだけでも思い出してメモしておこう。

無理かもしれないけど。





宿の食事がアタリだったので、とりあえずは市場巡りからはじめよう。

食事って大事だよね。

と思ったら、ゼンはギルドに行ってみると言う。


「情報収集なら分かれた方がいいよね!」


と尤もらしい事を言っていたが、昨日の今日で我慢できなくなったのだろう。

遠くには行かないこととシロとクロを連れて行くことを約束させた。

シロが居ればまあ何とかなるだろう。


「そういやクロの武器を用意しないとな。」

「クロちゃんの武器ですか?」

「ああ、角は斬っちゃったし。」

「やったんは兄ちゃんやけどな。綺麗に斬れてるからくっ付くんとちゃう?」

「うーん。たぶん、クロは望まないと思うんだよね。角を無くしたがってたみたいだからさ。」

「そうなんですか?」

「たぶんね。執拗に角を武器にぶつけてたのは角を無くすためだったみたい。」

「ああー、そういうことかー。いっちゃんのハンマーにめっちゃぶつかっていっとったしな。」

「そういえばそうでしたね。」

「だから新しい武器、ってなるんやね。何か考えてるん?」

「まあね。後で作ってみようか。」

「おう!」



ゼンと分かれ、俺たちは市場に向かう。

市内にはいくつか大小の市場が開かれているが、これから向かうのは主に冒険者が訪れやすい市場だ。

扱っているのは中古の武具から探索に役立ちそうな道具や保存のきく食料などだ。

正直、今の俺たちには必要そうなものは扱ってはいないだろう。

食料は生鮮食品の方が欲しいし、防具はドーラが作った。

よくて掘り出し物を探すくらいだ。

ただ目的は買い物ではなく、情報収集だ。

なので冒険者相手に商売をしている商売人たちから話を伺うつもりだ。

その中で変なものを買わされてもまあ多少は大目に見ようかと思う。

思った。


「さーて、どんなもんがあるんやろなぁー。うっしっし。」

「ドーラちゃん、笑い方が変だよ。」

「うっしっし。ええやん笑い方ぐらい。初めてのところやし、わくわくすんのはしょうがないねん。兄ちゃんだってそうやろ?」

「そうだね。こうごちゃごちゃとしてると何かありそうでいいよね。」

「そうですね!ソーマ様!」

「いっちゃん。それでええんか?」


ドーラの呟きはスルーされたのだった。


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