91 交差する町トリスタ
「行ってしまいましたね。」
「そうだね。」
「ほな、またクロに運んでもらう?」
「あと少しだし、歩こうか。クロが走って行ったら、威圧感がありそうだし。」
「確かにそうですね。」
「せやな。」
「おー!」
問答をした兵士たちは颯爽と町の方へ戻っていってしまった。
残り僅かな距離だが、俺たちは歩いて町へと向かった。
歩くこと20分ほど。
町の周囲には畑が広がっている場所もあったが大半が草原となっていた。
町は高さ5mほどの壁で囲われており、古めかしい門が開かれていた。
門の前には町に入るために多くの人が列を成していた。
「大きな門ですね。」
「そうだね。」
「うわー。」
「ここが交差点の町トリスタかー。トローラの王都よりも人が多いんとちゃうかなー?」
「色んな人が並んでますね。」
「種族も職業も色々いそうだね。東西の大国と南の小国を繋ぐ交通の要所だからね。色んな人が行き交うんだろう。」
種族の多くは人間だが、犬や猫の獣人やよく分からない獣人、ドワーフっぽい人もいた。
列には商人や冒険者、楽器を持った人、踊り子と思われる人など様々だ。
馬車をはじめ、牛が引いていたり、サイのような魔物が引いている車もあった。
「うちらもその色々の中の1人やけどな。」
「僕たち何か、見られてるな。」
「にゃー。」
「ブルルー。」
「まあ、巨体のクロがいるし、子供ばかりだしね。注目はされるさ。それより、俺たちも並ぼうか。」
「はい。」
俺たちも町に入る順番待ちの列に並んで待つ。
列の進みは速く、すぐに入ることができた。
俺たちはみんなDランクの冒険者であるため、ギルドカードを見せたらすんなり入ることができた。
シロとクロについても俺の言うことに素直に従っている様子を見て、問題なしとして入れてもらえた。
従魔であることが分かるようにしておくようにとの注意は受けたがそれだけだ。
なんともゆるい検査だったが、入れたのでよしとしよう。
◇
「おおー!人がいっぱいだ!」
トリスタの町に入ったゼンの第一声だ。
なんとも子供っぽい感想だ。
見るとイチも目を見開いて驚いているようだ。
まあ確かにカルポの町に比べるとかなり人通りが多い。
町に入ってすぐの大通りにいくつもの商店が軒を連ねていた。
行き交う人の数も多く、馬車なども多い。
町に入る行列にも増して、人種も多様だった。
エルフはいなかった。
エルフはいなかったのだ。
残念だ。
「とりあえずどうするん?」
俺が悲観にくれているとドーラがこれからについて聞いてきた。
「とりあえず、宿を探すかな。」
「なんも分からんし、当てもなく歩き回るのはどうかと思うんやけど。」
「確かに。じゃあ、まだ日は高いし、冒険者ギルドを目指そうか。従魔を連れてても行けるだろうし。」
「そやねー。」
「はい。」
「で、どこだろうね。」
「わたし、門のところで聞いて来ますね!」
「いや、その辺の・・・、あれ?イチは?」
「もう行ったで?」
「そ、そう。早いね・・・。」
即断即決は美徳だが、拙速という言葉もあるし、もうちょっと話を聞いて欲しいな。
ま、ここはありがたく、イチが戻るのを待っていようかな。
程なくしてイチは戻ってきた。
「この道を真っ直ぐ進めばあるそうです。この大通り沿いだそうです。」
「そうなんだ。イチ、ありがとう。よしよししてやろう。」
なでなで。
「へへへー///」
まだ回りをキョロキョロと見回しているゼンとにやにやしているドーラと「行くなら早くしようぜ」といった雰囲気を醸し出しているシロとクロを引き連れて冒険者ギルドへ向かった。
ギルドへの道すがら、周囲の店の雰囲気や品揃えを遠目に確認しつつ進んだ。
カルポに比べて段違いの品揃えだ。
値段がどうかが気になるところだ。
あと、気になったのは建物の造りだ。
石造りもあれば、木造もあれば、崩れかけた石壁に継ぎ足して作ったような建物もあった。
三角の屋根に片流れの屋根、壁や屋根の装飾もごちゃごちゃだ。
どうにも建物に統一感がないというか、多文化の融合というか。
戦争が絶えなかったという過去が関係しているのかもしれない。
程なくしてギルドと思われる建物が見えてきた。
と、思う。
「あれ、か?」
「そうだと思います。大きな竜が目印だって言ってましたし。」
「おおー!すごい!カッコイイ!」
「攻めたデザインやねー。」
「そ、そうだね。」
見えてきたギルドの建物は大きな竜が目印のかなり変わった建物だった。




