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俺、英雄になる?  作者: 黒猫
トリスタ編
92/200

90 クロ爆走

ワイルドディアーのクロを仲間に加えた俺たちは平原を進んでいた。

道中、クロの背に乗せてもらって走った草原はいつもとは違った世界が見えた。



「うわぁーー!すげーー!!ひゃっほーー!!」



あそこで変なテンションになって叫んでいるのはゼンだ。

気持ちは分からなくもないが、イチとドーラが苦笑いを浮かべて引いている。



「気持ちは分からんでもないんやけど、あそこまでテンション上げんでもよくない?」

「ゼン兄・・・。」



「男ってバカね」という心の声が聞こえてきそう。

ドーラも似たようなものだった気が・・・。


ギラッ


ドーラに睨まれた。


10歳児のお子様ににらまれても、かわいいだけだな。うん。

よしよししておこう。


「なんでや!」

「なんとなく。」


ついでに隣のイチもなでなで。

不公平はよくないよね。


「へへへ。」

「兄ちゃんはいっちゃんに甘いなぁ。」

「そうか?俺は大体みんなに甘いと思うけど。自分で言うのもなんだが。」

「まあ確かにそうかも。」

「でもダメな時はダメってはっきり言って下さるのでいいと思います!」

「お、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。よしもっとよしよししてやろう。ほれほれ。」

「へへへー///」

「はいはい。」

「にゃー。」


日常である。


「しっかりクロっていいガタイしとるよなぁ。」

「そうだね。町にいた馬たちより1回り、2回り、いやもっとでかいよな。」

「そうですね。わたしたちみんなで乗っても大丈夫そう。」

「確かにそうかもな。」


ゼン、イチ、ドーラはまだ子供サイズだからクロの体格だったら乗るだけなら大丈夫そうに見える。

落ちないように括り付けるものか、持つものがあれば何とかなりそうだ。


クロを呼び戻し、みんなで乗ってもいいか確認したら、「ブルル」と頷いてくれた。

大丈夫そうだ。

早速クロに乗って確かめてみる。

筋肉質なクロの首に手綱代わりのロープを括り、乗り込んで同じく落ちないようにロープで括る。

俺たち4人が乗ってもクロは平気そうに「ブルル!」と鳴いていた。

これならトリスタの町まで早く着けそうである。

順番はゼン、イチ、俺、ドーラ。

俺は一番後ろで支える予定だったが、ドーラが譲らなかった。

「うちの後ろに乗ったら怪我するで!」とか前に俺が教えたフレーズで押し切られた。

使い方がおかしいが、ロープでみんなを括るのでどこに乗っても大差はないからよしとした。

シロは乗らずに自分で走るみたい。


「いけそうだね。」

「ブルル!」

「じゃあ、しゅっぱつやー!」

「ブブルルル!!」


ドーラの掛け声と共にクロが砂埃を上げながら猛スピードで駆け出した。


「うわっ!」

「きゃっ!」

「ひゃっほー!」

「ぐえ。」


クロの急加速に驚いたドーラが俺の首に腕を回してしがみ付いてきた。

その拍子に俺の首が絞まる。

とは言えドーラの腕力ではちょっと苦しいで済んでしまうのだが。

加速が落ちついてきたら今度は普通の馬よりも大きい上下運動に振り落とされないように必死にしがみ付く羽目になった。


「うわわわー!兄ちゃん、ちょっときついで。うひゃ!」

「おっとっとっとっと。ドーラ!あんまりしゃべるな。舌噛むぞ。みんな!しっかりしがみ付いとけよ!」

「・・・はい///」

「うおーー!」

「ゼン!うるさい!」

「うおーー!」




クロの爆走によってあっという間にトリスタの町が見えてきた。


「クロー。速度を落としてくれー!」

「ブルル!」


ある程度、爆走したおかげで落ちついたクロが俺の声で速度を少しずつ落としてくれた。


「ふぅ。速かったなぁ。しかも揺れがヒドイ。おぇ。」

「おー!すごかった!またやりたい!」

「あー。死ぬかと思ったー。しばらくは勘弁やー。」

「うん///」

「ん?いっちゃんどしたん?」

「ひぇ?あ、いや何でもないよ。」

「ほんまかぁー?ニシシ。」

「もうー。ドーラちゃん!」

「こらこら暴れるな、2人とも。」

「はい。」「はーい。」


俺を挟んで言い合いを始めた2人を宥めて、トリスタの町の方を見る。

もう大分近づいた。

このまま行くか、降りて歩くか悩みどころだ。

クロはこの体格から、どう見ても魔物だ。

説明もなしに近づいたら余計な混乱を招きかねない。


と、俺が考えていたところで町の方から馬に乗った兵士と思われる人達がこちらに向かってきた。

手遅れだったか。

とりあえず降りるか。


「クロ。止まってくれ。」

「ブルル。」



やって来た兵士は3人。

同じような形の鎧を身に着けている。

槍や剣を装備して完全武装だ。


「こいつはお前たちの、従魔、なのか?」


巨体のクロから降りてきたのが俺たちみたいな子供だったことに驚いているようだ。

兵士の1人が半信半疑といった様相で問いかけてきた。

みんなが俺に目を向ける。

やっぱり俺が答えるよね。


「はい。テイムしたばかりなのですが、契約済みの従魔です。」

「そ、そうなのか。人に懐かないと言われているワイルドディアーを手懐けるとはいい腕だな。君たちは冒険者か?」

「はい。南の森と草原を抜けてやってきました。」

「なに!?あそこを抜けたのか!」

「マジかよ。」

「?まあ確かに道は悪かったですけど。」

「草がめんどかったなー。」

「あの雑草共は悉く燃やし尽くしたるでー!!」

「ドーラちゃん、どうどう。」


後ろで怒りが再燃したドーラをイチが宥めている。


「草?」

「あ、はい。ウェイブっていうツタの魔物に絡まれたのを根に持ってまして。」

「ああ、あれか。そりゃ災難だったな。あそこは最近、魔物の活動が活発になってて調査依頼が出てたところで、何が出るか分からない状態だったからその程度で済んでよかったな。」

「調査依頼ですか?」

「ああ、冒険者ギルドの方に市長から依頼が出されてるはずだ。」

「そうなんですか。」


吸血樹(ヴァンパイアトレント)の発生関係かな?とも思ったが、もう倒しちゃったし、ほっとこう。

めんどい。


「魔物は多かったので、ただの商人とかだと厳しい道程かもしれませんね。道も悪いですし。」

「そうか。やはり何かが起きているのか。ありがとう。情報感謝する。君たちはこのまま町へ?」

「はい。そのつもりです。クロ、こいつも一緒で大丈夫でしょうか?」

「ああ、門の方でもう一度、従魔かどうかの確認があるだろうが、大丈夫だろう。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「では。」


問答をした後、兵士たちは再び馬に乗り、颯爽と町の方へ戻っていった。

先導はしてくれないらしい。


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