89 ソルの実とテイム
「なあ兄貴。どうするんだ?アレ。」
「どうしようかねー。」
「兄ちゃん、コレすごいよ。そこらの金属より重いんよ。」
「魔物素材だからじゃないかなー。」
「そろそろお昼にしますか?」
「そうしようかー。」
マイペースなイチに助けられる。
話題になっているのは、俺たちの後を付いて来ているワイルドディアーのボスのことだ。
俺がボスの角を魔力剣で斬った後、他のワイルドディアー達は逃げるように去っていったが、ボスだけはそのままその場に留まっていた。
「ブルルー!」と啼いていたのだが、どうやら喜びを表現していたらしい。
鑑定には、「角の立派さが強さの象徴」とあったので恨まれることはあっても喜ばれるとは思わなかった。
意味不明である。
その後、特にこちらに再び襲い掛かってくることは無かったため、俺たちは放置して先に進むことにしたのだが、なぜか付いて来たと言う訳である。
懐かれたのか?
草に埋もれた道の脇で昼食にする。
本日の昼食は昨晩に続いてブルーホーンラビットの肉と野菜で作られたサンドイッチだ。
余談だが、こちらの世界では「パン挟み」と呼ばれていたが、サンドイッチに訂正した。
パン挟みじゃ美味しそうじゃないじゃないか。
デザートに各種果物も用意した。
未だにドリアンには手を付けていない。くさいし。
俺たちが昼食を取っている間、ボスも草むらの草を食べていた。
ほんとに草食なんだ。
果物で思い出したが、以前、特殊レンズを設置したソルの実を見事に完熟させることに成功した。
驚くべき事にこのソルの木は年中実がなっている常実樹という植物らしい。
そんな言葉は日本でも聞いた事が無かったから、この世界の不思議植物なのだろう。
そんなことはどうでもいいのだが、常に実を付けることから特殊レンズを設置しておけば、定期的に完熟ソルが入手できる。
ソルの実はサクランボのような色と形をしているのだが、完熟すると赤黒いサクランボになる。
似たような見た目のサクランボがありそうなものだが、サクランボと言うよりもマンゴーのような甘さとみかんのようなさっぱりさが同居したような味でいくらでもいける。
完熟する前はサクランボの見た目でレモンを凝縮したような酸っぱさがあるため、1種で2度美味しい実だ。
いや完熟前は酸っぱすぎて食べられないが・・・。
そんな他愛もないことを考えながらもぐもぐ。
イチとドーラもこのソルの実がお気に召したようで幸せそうに食べている。
シロは肉、ゼンはリコの実の方が好みらしい。
「いっちゃん!ソルの実、旨いなあ!」
「そうだね、ドーラちゃん!このさっぱりした甘さがたまらないよね!」
「うんうん!このサイズもいいよな。1個でもいいし、2,3個口に放り込んでもまた違った味わいが!」
「うんうん!」
「あんまり食べ過ぎるなよー。おなか壊すぞ。」
「「はーい。」」
「兄貴、後ろー。」
「ん?」
!?
振り向くとボスがよだれを垂らしてすぐ後ろまで近づいて来ていた。
気付かなかった・・・。
というか汚い。
見るとその視線はソルの実に向いていた。
そういえば、忘れていたがこのソルの実は一部の魔物の好物だとサクセスノートに書いてあったような気がする。
つまりはそう言うこと、か?
「・・・いるか?」
「ブルブルブルブル!!!!」
「うおぉ!!」
ボスが勢いよく頭を縦に振る。
同時によだれが飛び散る。
汚い。
欲しそうだったので1つ放ってやろう。
ぽーい
ハグ!!
「ブルルッルルーー!!」
お、おおう。
すごい喜びようだ。
後ろ足で立ち上がって踊りだしたぞ。
面白いのでもう1つ放る。
ぽーい
すると目がキランと光り、ソルの実に飛びついた。
巨体にしてこの俊敏性はすごい。
食い意地もすごい。
更に5個ほど放り投げたところで用意していたソルの実が無くなってしまった。
面白くてつい。
「兄ちゃん!うちらのも無くなってしもたやんか!」
「ど、ドーラちゃんっ。」
「いや、ドーラ。お前いくつ食べたんだよ。10個以上食べてるだろ。」
「・・・そ、そんなこと、あらへんよー。」
「ど、ドーラちゃん・・・。」
ドーラは下手なウソをついた。
すぐばれた。
何やってるんだか。
「まったく。」
「にゃあ。」
「ブルル!」
俺たちがあほな会話をしている内にボスの方は落ち着いたようで、シロと一緒に大人しくしていた。
既に馴染み始めているがついて来る気か?
あ、そうだ。
試してみるか。
「なあお前、俺たちに着いて来るか?」
「ブルル!」
「じゃあ、契約をしよう。」
「ブルル?」
「俺たちとお前が仲間だという証、みたいなものを結ぶんだ。仲間だって分かるようにな。」
「ブルル・・・。」
「にゃー。」
「ブルル!」
「にゃんにゃ。」
「ブブルルル!」
よく分からんが納得したらしい。
真っ直ぐこっちを見てくる瞳が何だか逆に怖いのだが。
とにかくやってみよう。
「××× %%% ○○○ ●□▼ ・・・」
俺は使役契約の魔法を唱え始めた。
呪文と共に魔力がスフィアを介して光となって周囲に生まれる。
多くの光の文字が列を成して周囲に浮かび、ある種、荘厳な雰囲気をかもし出す。
俺は目の前のワイルドディアーを見据え、宣言する。
「▼▼▼。コントラクト。」
宣言と共に光の帯が俺たちを包み、染み込んでいく。
光が消え去った後、俺は確かなつながりを感じた。
シロとの間にあるのと同種のつながり。
無事に契約が成立したようだ。
「おおー。なんやすごいなぁ。」
「うん。きれいだった。」
「ああ。」
「兄ちゃん、使役契約はできたん?」
「ああ。契約成立したよ。これで、これからはこいつも仲間だ。」
「おお!よろしゅうな!」
「よろしくお願いします。」
「よろしくな!」
「にゃー。」
「よろしく。」
「ぶるるるるるー!」
「よっしゃ。なら名前決めたらんとあかんね!」
「名前かぁ。どうするかな?」
「ブルル?」
「種族はワイルドディアーですよね?」
「角がすごかったな!」
「もうないやん。」
「種族から取るか?うーん。名前の案がある人!はい挙手!」
「アレキサンダー!」
「角!」
「ゼン、角もうないだろ。ドーラ、なんだそれは。どこから持ってきた?」
「なんとなくや!」
「角すごかったじゃん!また生えるかもしれないだろ。」
「イチは?何か無い?」
「えーっと。クロ、とか。」
「クロ?」
「えとえと、毛が黒いし、シロちゃんと対みたいでかっこいいかなって。」
「ああ、確かに。」
「でも単純すぎへん?」
「分かりやすくていいじゃん。」
「まあ、兄ちゃんのセンスならそうだよね。」
「どういう意味だよ。」
「そのままや。」
「ぐぬぬ。」
「クロ!これからよろしくな!僕はゼンだ!」
「にゃー。」
「ゼンくんとシロやんの中ではもう決まってもうてるみたいやね。」
「じゃそゆことで。」
「はい。」
と言うことで名前はクロに決定した。
ワイルドディアーのクロ。
とりあえず、野生と間違われないように首にマントでもかけておこう。
手持ちにあって扱いに困っていた赤いマントをクロにつけてみた。
気のせいか、凄みが増した気がする。
いいか?
何はともあれ、魔物の仲間を加えて俺たちは先の町で進んでいった。
名前:クロ
レベル:28
性別:男
種族:ディアー種
属性風
称号:ソーマの契約獣
スキル:闘気
説明:ワイルドディアーの成体。
馬と鹿を合わせたような見た目の鹿。
角の立派さが強さの象徴。角の折れた者は落ちこぼれと認識される。
広い地域に生息し、気性が荒く凶暴。
草食。
ステータス補正なし
装備品:
深紅のマント
特徴:
体長:2.1cm 体重:842kg
黒色の体毛
金色の瞳
金色の角(欠損)
誕生日:不明
リアルが忙しくて執筆が進まないです。ストックがどんどん減っていくので、いつか止まるかも・・・




