87 変態
「ブルファー!」
停止した群れからボスが1匹で出てきて、こちらに向かってきた。
他のワイルドディアーたちは離れた位置で様子を伺っている。
ますます分からん。
向かってきたボスの相手はゼンとイチがしている。
闘気を纏ったゼンの双剣を角で弾き返すのみならず、イチのハンマーすら弾き返している。
ドーラも援護射撃をしているが、ボスの動きが速く、捉え切れていないし、当たるかに見えた弾丸も寸前で僅かに逸れてしまって当たらない。
このボス、やはり強い。
「この!」
キン!キン!
ゼンの双剣がまた弾かれた。
ボスがイチに突撃してくるのをイチはハンマーで迎え撃つ。
ガキン!!
ハンマーを受けて少しだけ体勢が崩れたが、逆にイチはハンマーごと吹き飛ばされてしまった。
どんな硬度の角だよ。
少なくとも鋼鉄より強い。
キン!キン!キン!キン!
あ、またゼンの双剣が弾かれた。
ゼンは力を上手くいなして連撃を加えている。
一方でボスの方はゼンの連撃を悉く角で受けきっている。
「にゃー。」
「あれ?シロ、どうした?」
「にゃー。」
「うん?」
シロが何だかうんざりした様な反応を示している。
「なあなあ兄ちゃん。どうするん?」
「ドーラまで。2人のフォローしてたんじゃないのか?」
気付けばドーラもこちらに寄ってきていた。
「そうなんやけど、うちの方には向かってこんし、2人が近すぎて誤射が怖いねんもん。てか、なんか寒気すんねん。」
「うん?寒気?」
「うん。何やろ、こう生理的な何かがぞわっと。」
「にゃんにゃん。」
シロも同意している。
「ふーむ。」
「てか、さっきからいっちゃんの方にばっかし向かってってる気がするんやけど。」
「そういえばそうだな。」
先ほどからイチの方にばかり突撃を繰り返しているように見える。
と言うか、イチのハンマーに当たりに行っている気がする。
なぜ?
武器破壊か?
なぜ?
わからん。
イチはハンマーに雷の闘気を込めて、叩き付ける。
角でハンマーの攻撃が弾かれる。
が、纏っていた雷は角を伝ってボスを襲う。
雷で動きが鈍ったボスに対して、ゼンが切り込んだ。
寸前で、ゼンの双剣は角で防がれたが、まだイチは近くに残っていた。
咄嗟に弾かれたハンマーを手放していたようだ。
イチの雷の闘気を込めた強力な蹴りがボスの体を捉え、轟音と共に炸裂した。
バリバリバリバリー!!!
「ブルリァーー!!!」
イチの雷蹴りで吹っ飛ばされたボスから黒い煙が立ち上り、唸り声があがる。
「うわー。すごい威力。」
「いっちゃんすごーい。」
「にゃー。」
シロだけ何か違う気がする。
ボスはすぐに立ち上がり、興奮しているようだ。
「ブルルー!!」
なぜか嬉しそうである。
え、なにそれ。
「なあなあ。なんかあの魔物、嬉しそうにしてへん?」
「ああ。俺にもそう見える。」
「なんで?」
「さ、さあ。」
「にゃー。」
「え。」
「なんて?」
「『もっと蹴って』って・・・。」
「え。・・・キモ。」
「にゃー。」
シロはやれやれといった感じであきれている。
ドーラは引いている。
俺も引いているが、イチの一撃でも大してダメージになっていない所を見ると体全体にも闘気を纏っていることが伺える。
レベル以上に強力な個体だ。
立ち上がったワイルドディアーのボスは再びイチに向かって突進を仕掛けてきた。
ゼンが横から闘気を込めまくった双剣で斬りつけるが角で受けきられ、逆に弾き飛ばされた。
イチ、というかイチのハンマーに向かって再度当たりに来てはどちらも弾かれると繰り返している。
弾かれるたびに「ブルルー!!」と喜んでいるようでキモイ。
よく分からんが角に自信があるようだし、叩き切ってやる!
イチに近づくな!変態め!
「ちょっと行ってくる。」
「行ってらー。」
「にゃー。」
懐から武器を取り出し、魔力を込める。
薄く鋭く強いをイメージした魔力剣を作り出す。
イチに再び突撃を敢行したワイルドディアーに接近する。
こちらに気付いたボスの角に向かって魔力剣を振るう。
「ブルファー!」
交差する俺とボス。
辺りに張り詰めた空気が満ちる。
落ちるボスの金色の角。
「ブルルルルルー!!!!!」
響く唸り声。
逃げる他のワイルドディアーたち。
こうして変態ワイルドディアーのボスは倒された。
死んでないけど。




