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俺、英雄になる?  作者: 黒猫
トリスタ編
83/200

81 ウェイブ

大満足な夕食を終えて、俺たちは交代で周囲と火の見張りをして休息を取っていた。

テントは2つ用意している。

男女2人ずついるのだから当然だ。

イチだけは嫌だと駄々を捏ねていたが、リーダー権限を断行させてもらった。

分けられるなら分けたほうが情操教育的にもいいはずだ。

きっとだ。

たぶん。



今は俺とイチで見張りをしている。

夜の森で二人きり。

ドキドキだね。


あまり考えないようにしよう。

こういうときは別のことを考えるに限るな。

作業しよう。



「次は何作ってるんですか?魔法?」


俺が次の魔法道具用のコードを考えているとイチが話しかけてきた。


「ああ、これは武器を考えてるんだ。」

「ドーラちゃんの使ってる銃、でしたっけ?」

「いや、あれとはまた別の武器だよ。次は純粋に魔法の武器、かな。シールドの魔法道具が近いかな。剣とか槍とかの魔法武器を作ってみたくてさ。」

「魔法武器・・・?」

「魔法武器っていうのは、魔法で作り出した武器ってことかな。まあ、俺が言ってるだけだよ。」

「そうなんですか。どういうものなんですか?」

「そうだなー。例えば、火で出来た剣とか振り回せたら強そうじゃない?」

「火の剣。それは火の属性を持った剣、ってことじゃないですよね?」

「ああ。その名前の通り、火だけで構成するんだ。だから、剣というよりはただの火なんだけど。」

「火に剣の形を取らせるってことですか?」

「そうだよ。鍔競り合いは出来ないけど、実体がないから剣で防ぐことは出来ないし、盾で受けたら火傷じゃ済まない。まあ目立ちすぎるかもしれないけど。」

「なるほど。あ!じゃあ雷の剣とかも出来ますかね?」

「きっとできるよ。雷に関してはまだ分かってないことが多いからすぐには難しいかもしれないけど。」

「なんだか、夢が膨らみますね。」

「まあね。とりあえずは、属性なしで剣の形にして十分な強度が得られるかって言うのが課題なんだよね。ドーラに色々試して貰わないといけないや。」

「ドーラちゃんも楽しそうに作ってますもんね。」

「そうだね。もの作るのが楽しいんだろうね。」


イチと他愛もない話をするのも案外楽しいものだ。

内容がちょっとあれだけど。

料理の話にすればよかったかな。




「う、うわひゃひゃーーー!!!なんやこれー!!」


テントから叫び声が聞こえてきた。


「何だ!?ドーラか?」

「ドーラちゃん!?」


イチと一緒にテントに向かう。

イチとドーラのテントだ。


「兄ちゃん!いっちゃん!助けてー!!なんや動けへんー!!」


胸当てを外し、ラフなシャツ姿になっていたドーラの体に緑のツタが絡まり、右足と右腕、左足と左腕がそれぞれ拘束され、股裂き状態だった。

10歳ぼでぃのドーラの柔らかい体だからこその卑猥さの欠片もない、あられもない姿が晒されていた。


「ドーラちゃん!?何やってるの!?」

「イチには刺激が強すぎたか・・・。」

「兄ちゃん!!バカ言ってないで助けてや!!!締め付けが痛いんよー!!」


言うほど切羽詰った感じはしないが、とりあえず助けるか。


「どうしたー!?何があったー!」

「ゼンくんは入ってくるなーーーーー!!!!!」

「うをっ!!」


ドーラの叫びを聞いたゼンがテントに入って来ようとしたのをドーラが更に大きな叫び声で制止した。

え、俺はいいのか?


「ええか?!ゼンくんは入って来るんやないで!!わかったな!!」

「お、おおう。」

「兄ちゃん!早く何とかしてーや!!」

「お、おおう。」


俺はドーラを傷つけないように注意しながら、下位地竜の短剣でツタを切った。

硬そうなツタもチョンっと切れるすごい切れ味だ。


「ふー。助かったー。」

「ドーラちゃん、大丈夫?痛い?」

「ああ。絞められたとこがちょいとねー。」

「ドーラ。とりあえずポーション飲んでおきな。」

「お、ありがとうや。ゴクゴク。ぷふぁー。お、ちょっとだけフルーティになっとる。まだまずいけど。」

「味の改良は難しいんだよ。下手なもの入れると効果が下がるから。」

「うんうん。でもこれだいぶマシやで。傷もみるみる治ってきたわ。」

「よかったー。ねぇドーラちゃん、一体どうしてこうなったの?」

「んー。うちもようわからへん。気付いたら縛られとって身動きが取れんくなってて、痛くて起きたんやもん。」

「寝てる間にか。どれどれ。うーん。これが原因かー。」

「何ー?」




名前:ウェイブ

レベル:8

種族:植物

属性:土

説明:ツタの吸血植物系魔物。

自我はなく、近くの動物の血を求めて手を伸ばす。

力は非常に弱いが生命力が高く、千切られた程度では分裂して増殖するだけ。

燃やすのが一番。




「ウェイブ・・・?って魔物なん?」

「そうみたいだね。」

「生命力が高いって、これでもまだ生きているんですか?」

「いや、こいつはもう死んでるね。たぶん下位地竜の短剣で切ったからじゃないかな。普通に切ったりしただけじゃダメかもしれないね。」

「むー。こんなツタなんかにいいようにされたんか。ムカつくわー。」

「まあまあ。よしよし。」

「むー。」

「これって何かに使えるんでしょうか?」


そう言ってイチがウェイブの亡骸(ただのツタにしか見えない)を手に持ってみた。

勇気あるなぁ。

勇者イチだな。


「えいっ。」


え。


「あ。千切れちゃいました。」


いや、千切れちゃいましたじゃなくて、千切ったんじゃ・・・。


「いっちゃん・・・。どんだけ力入れてん・・・。」

「ええっっ。わたしそんなに力入れてないよ。」

「そないな分けないやん。うちが力入れても全然千切れんかったんやで?えいっ。あれ?」


ドーラがやっても簡単に千切れてしまった。


「もしかしたら死んだら脆くなるのかもね。」

「役にもたたんのかいな。ムカつくわー。」

「まあまあ。とりあえずは無事でよかったよ。まあ、まだもうちょっとお休み。」

「うん。ありがとう。」

「イチも一緒に休んでていいよ。」

「え、でも。」

「今、ドーラを一人にしたら可哀想でしょ?」

「そうですね。じゃあ。」

「うん。おやすみ。」

「おやすみなさいませ。」


そう言って俺はウェイブの亡骸を回収してテントを出た。


「兄貴、どうなったんだ・・・?」

「うん、まあ色々あったんだよ。」

「はあ。」


今夜は長くなりそうだ。

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