77 北へ
「旅に出ようかと思うんだ。」
勝手に集会場と化しているミンさんとムンさんの練成屋の居間でみんなに伝える。
「兄ちゃん、旅ってどこ行くん?」
「とりあえずは北かなぁ。」
「北?北って森?」
「森じゃなくてその先だね。」
「なあじいちゃん。北の森のその先ってどこなん?」
「北にあるのはトリスタだな。魔物が多いから殆ど使われてないが、間道が北の森にはあるぞ。イヒヒ。」
「なんだい。わざわざ北の森を抜けようってのかい。」
「まーね。ちょくちょく狩りには行ってるから、抜けるだけなら問題ないはずだよ。」
「まあ、今のソーマ達なら心配はいらないだろうけどね。奥地にでも行かない限り、早々危なくなることも無さそうだしね。」
「トリスタってどんなところなん?」
「東西南の交通の要所だって聞いてるから、色々なものが集まってるんじゃないかと思うよ。」
「へー。そうなんや。」
「そうさな。あそこは色んなものが雑多に集まった場所だね。周囲の地形的にも色んな素材が入手できて、冒険者や練成師や鍛冶師やらも沢山集まってるよ。ここ最近は落ち着いてるって話だし、観光するにもいいかもね。」
「素材?」
「ああ。天竜山脈、魔の森、地竜の深谷と近場に高レベルの魔物の巣があるし、天竜山脈まで行かなくてもいくつかの鉱脈もあったはずさ。魔物のレベルが高すぎて計画的な採掘は出来ないって話だったけど、今はどうなってるのかねぇ。」
「へー。そうなんや。兄ちゃん、お土産期待してるで!」
「ん?いや、いつここに戻ってくるかは分からないよ?」
「へ?」
「ソーマ様、どういうことですか?」
「北に行った後は、どっちに進むかはまだ決めてないけど、そのままぐるっと大陸を回ってみようかと思ってるから、カルポの町に戻るのは少なくとも数ヶ月後にはなるかな。」
戻ろうと思えばすぐに戻れるんだけど。
「なるほど。」
「おおー!流離の冒険者って感じだね!なんかかっこいい!」
イチとゼンは乗り気かな?
「それで、ゼンとイチはどうする?ここに残ってもいいよ?」
「え・・・。」
イチが絶望の表情を顔に浮かべた。
あやばい。
「何言ってんだよ。兄貴に付いて行くに決まってるじゃん。なぁ、イチ!」
「え、あ、はい!お、お供します!」
あ、イチが戻っってきた。
よかった。
「そっか。よかった。2人が付いてきてくれなかったら寂しかったなって。」
「どこまでもお供します!わたしはソーマ様のモノなので!」
「えっと、ありがと。」
「はい!!えへへ。」
イチちゃん。あなたサラッと怖いこといってますよ。
ここは流しておこう。
「兄ちゃん、行っちゃうってこと・・・?」
「まあね。元々ある程度実力を付けたら旅には出ようと思ってたんだ。ドーラと一緒にシールドの魔法道具を作りまくって大儲けしたから資金的にも余裕が出来たし、若干やりすぎたかなとも思うからちょっと雲隠れしようかなとも思って。」
「ドーラの、せい。」
「ドーラのせいじゃなくて、ドーラのおかげだよ。で、ものは相談なんだけど、ドーラも一緒に行かない?」
「え・・・。」
「ドーラと居て楽しかったしさ、まだまだ一緒に作りたいものもあるしさ。どう?」
「ドーラちゃん。わたしもドーラちゃんと一緒だとうれしいな。」
「いっちゃん・・・。」
「うち・・・。」
ドーラはイチのことを見るも俯いてしまった。
「ドーラ。行ってきたらどうだい?」
「え、いいの?」
「悩んでるってことは行きたいんだろ?」
「・・・うん。でも、お母さんには春には戻るって言っちゃったし。」
「そんなもん次の春でもいいじゃないか。」
「え・・・。」
「いや、それは暴論だろ。イヒヒ。」
「だまらっしゃい!」
「イヒ!」
「ドーラはまだ若いんだから、多少無茶するぐらいでちょうどいいんだよ。ソーマ達なら信頼できるしね。」
「うん。」
「あたしたちだって若い時には色々したもんさ。魔の森にも入ったことがあるしね。」
「ええ!?おばあちゃん!?」
「はっはっは!若気の至りさ。」
「あの時は死ぬかと思ったね。イヒヒ。」
「笑い事じゃないよ!?」
「でもこうして無事に生きてるさね。だから笑えるんだよ。危ないことしても、楽しいことしても、辛いことがあっても笑い話にできるくらい強くなりな。」
「おばあちゃん・・・。」
「ソーマ、頼んだよ。」
「ああ。分かった。」
「何かあったらぶっ殺すからね。」
「いや、それはやめて。まじで。」
「はっはっはー。」
ミンさんは笑ってるがきっと本気だ。
そういう人だ。
まあ、みんながいれば何とかなるさ。
きっとね。
「ドーラ。これからもよろしくね。」
「うん!任せといて!」
こうして俺たち4人と1匹は北を目指すことになった。
「にゃー。」




