76 大金
冒険者ランクも無事Dランクとなり、シールドの魔法道具のおかげで資金的にも余裕ができた。
そろそろ世界を見て周る旅にでるのもいいかもしれない。
そんなことを考え始めた。
ドーラと2人で量産した魔法道具を魔法道具屋のクラインさんのところへ卸しに向かう。
ドーラの魔力も増えてかなりの量を作成することができるようになったが、それでも完売しているらしい。
「こんにちはー。クラインさんいますかー?」
「いますよー!奥ですよー!」
いつものように元気な応対をするクラインさん。
返事だけは元気なのだが接客は適当だ。
「こんにちは。注文の品を届けにきましたよ。」
「おー。ありがとう。いやー、売れるねー。絶好調だよ!」
「そうなんですか。販売とか交渉とか全部お任せしていてすみません。」
「いやいやいや。その代わり物凄い見返りもらってるからいいんだよ。」
「そうなんですね。結構な量を卸してますけど本当に完売してるんですか?」
「ああ。即完売だよ。最初は冒険者ギルドにまとめて売れたんだ。今は落ち着いたけど今度は、王都の方からあるだけ流してくれって言われててさ。」
「?誰にですか?」
「親父だよ。王都に本店があってね。親父がオーナーなんだ。」
「へー。」
「王宮に献上したら、褒賞とまとまった数の発注が取れてウハウハだってさ。あ、これ褒賞ね。」
「え?いや受け取れませんよ。献上したのはそちらですし。」
「いやいや、これは製作者が受け取るべき褒賞だよ。僕らは運んだだけさ。だから君が受け取ってね。返却不可です!でもかなりの儲けが出てるから本当に気にせず、受け取ってね。」
「はあ、じゃあそう言う事なら。」
見ると見たことのない硬貨が入っていた。
えーっと、いくらだ?
金貨じゃない?
「これは・・・?」
「え?あ、見たことない?それ白金貨だよ。」
「へー。これが。」
青白い硬貨だ。
白金貨と言いつつミスリル製の硬貨だな。
トローラ王国のシンボルが彫られた精巧な硬貨だった。
それが10枚。
え。
白金貨10枚っ!!!!!?
10万貨!!??
一般市民が1日暮らすのに必要な金額は贅沢をしても10貨だ。
1万日分の生活費だ。
27年分だ。
ピンと来ない!
その上、卸売りの利益もある。
原材料なんてほぼ自前なので、丸儲けなのだ。
ウハウハだ。
やばい。
どこかでしっぺ返しが来そうだ。
この国の人間相手だけなら悪いようにはならないとは思うが、この勢いだと外国にも流れていくのも時間の問題だ。
この世界の大半には魔物が住み着き、その多くが人を襲う。
縄張り争いのため、生きる糧のため、ただの趣向など理由は様々だが、至る所に危険がある。
そんな世界の中で簡単に防御ができるこの魔法道具が爆発的に広がるのは必然だ。
価格設定が高めであるため、まだ抑えられているが、それでもお金と言うのはあるところにはある。
魔法板のコード自体は隠蔽はしていないが、ある程度サイズを小さくしてあるため、解析は出来無くはないが難しい。
解析が難しいとなると今度は製作者を狙う、というのはありそうな話だ。
狙われる未来しか見えないな。
旅立ちと言うのも考えないといけないな。
クラインさんに旅に出ようかなと、それとなく伝えたら、
「気をつけてねー。」
と軽く言われた。
長期で空けるって分かってるのかな?
「はーい。」
と、返事だけしておいた。
これで問題なしだ。
旅に出ようと思いたったので、準備をしようと思う。
あれがいる、これがいる、それはいらない?
旅行に行く前ってなんだかワクワクするよね。
準備と言えば食料やテントや薬やらだが、必要なかった。
イチが手の空いた時に作っておいた料理が既に鍋で30杯程と皿で50皿程ストックされている。
レパートリーが増えるのが楽しいようで、ガンガン作ってくれる。
最近では宿の食堂にも顔を出しているようで既に看板娘の様相を出している。
むしろ、イチにここに定住したいかを聞かなければならないような気がする。
無理に俺に付いてくる必要もないし、旅となれば危険だし、自主性を尊重しよう。
聞いてしまったら、刺されるなんてことはないよね?
いや、イチならきっと大丈夫なはずだ。
と言うわけで知り合いに連絡するくらいで他に準備は必要無さそうだ。




