73 勉強
周辺国の情報を得ることが出来た護衛依頼だが、それ以外はこれといった収穫もイベントもなく恙無く終わった。
味をしめたゼンが時々脱走しては獲物を捕ってはロドリゴさんに買い取って貰ったとか、シロまで付いて行って体長1mはあるイノシシを捕ってきて途中の村で宴会騒ぎになったとか、イチのサンドイッチがサルポの町で大人気になって町長から料理人として勧誘されたとか、ドーラが途中の村で井戸を修理して求婚されたりとかあったが、特に問題はなかった。
おまわりさん!ロリコンがいます!
みんなにはもっと落ち着いて欲しい、と言うのは贅沢なのだろうか。
護衛依頼を終えてギルドに戻って報告をする。
「キサラさん、ただいま戻りました。」
「あら、お帰りなさい。ソーマくん。お疲れ様です。」
「これ証明です。」
「はい、確認します。・・・はい、問題なし。お疲れ様でした。護衛依頼はどうでした?」
「特に魔物に襲われたりはしなかったので、どちらかといえば退屈でしたね。ゼンなんか遠くに獲物を見つけたら飛び出してしまって大変でした。」
「あら、それは頂けないわね。」
「まあ、依頼主のロドリゴさんが買い取ってくれて、寧ろどんどん捕ってくれって感じだったので、ゼンも調子に乗ってしまって。」
「そうなのね。まあ依頼主さんが許可してるならいいけど、本当は護衛依頼中に狩りなんてだめよ。」
「はい、よく言い聞かせておきます。」
「しっかりね。えっと、これで護衛依頼も達成したし、Dランクへの昇格試験も受けられるけどどうする?」
「え?受けられるんですか!?確か条件には盗賊討伐も入っていたから無理だと思ってたんですけど。」
「本当ならそうなんだけど。ほら、この辺りって盗賊って中々いないでしょ?だから、実力と人格をギルドで判断して資格ありなら受けられるようにしてるのよ。盗賊討伐のために別の国に行かれたらうちのギルドの実績にならないからね。」
「なるほど。」
「で、どうする?ソーマくん。ゼンくんとイチちゃんとドーラちゃんもこれで条件は満たしてるんだけど。」
「お願いします。4人とも昇格試験を受けようと思います。」
「分かったわ。じゃあ手続きはしておくわね。試験の日時はまた明日にでも来てくれる?」
「分かりました。また明日来ます。」
「はい。じゃあこれどうぞ。」
ドサッ
「?これなんですか?教科書?」
「Dランクの試験は、筆記試験と戦闘試験の2つがあるのは知ってる?戦闘の方は問題ないと思うけど、筆記試験もあるから注意してね。問題自体は難しくない常識的な問いだけど、初めてだとどうしたらいいか分からない人もいるから教本を作ってるのよ。」
「これがその教本ですか。」
「そうよ。試験日までに勉強しておいてね。」
「わかりました。」
「最低限文字が読めないとどうしようもないんだけど、大丈夫かしら?」
「大丈夫だと思いますよ。ゼンとイチにも読み書きは教えてますし、ドーラは元々ある程度は知ってそうですし。」
「そう!なら安心ね。がんばってね。」
「はい。ありがとうございます。」
と言うわけでDランク試験を受けることになった。
試験は1週間後に決まった。
筆記試験の内容は、常識的な問いと言っていたが、教本には幅広い情報が載っていた。
冒険者ギルドの理念や依頼の種類、武器の図解、魔物の解体方法、主要な薬草について、お金や距離と時間の計算、この国の歴史に、過去の偉人についてと凡そ冒険者には不必要な情報も載っていた。
歴史とかいる!?
多くない!?
というかゼンは大丈夫か!??
試験までは勉強漬けだ!
ミンさんとムンさんのところで勉強させてもらった。
試験までは勉強するということで2人は机に噛り付いてうんうん頭を悩ませていた。
俺やドーラも教本を一通り読んだが、特に真新しい情報はなく、既に知っていたことばかりだったのでノー勉強だ。
俺は2人の勉強の様子を見ながら、有り余る魔力にモノを言わせて大量の普通品質下級ポーションを作成していた。
ドーラはシールドの魔法道具の量産だ。
いつも通りだ。
話が逸れた。
イチは順調に勉強を進めている一方、ゼンの方は予想通り歴史に躓いた。
読んでると眠くなると言っている。
トローラ王国の歴史は、一言で言えば何もない。
誰それが王になった。
どこそこの街道が整備された。
誰それが王になった。
どこそこの町が整備された。
こんな感じの歴史だ。
戦争もないし、すごい偉人が誕生したと言う話もないし、歴史的な転換期もない。
トローラ王国の始まりは今から222年前。
それ以降、特にこれと言ったイベントはないという平和な国だ。
歴史書としてはつまらないと感じてしまうのも無理はない。
が、そうも言ってはいられないので、ゼンが寝ている間にも耳元で歴史を囁いて刷り込んでみている。
効果があったらいいな。
そんなこんなで1週間、試験当日だ!




