68 ビースト迷宮
カルポの町の近くにある迷宮の1つに今日は来ている。
ビースト迷宮だ。
何気に俺たちはこの迷宮が初挑戦なのだ。
この迷宮の難易度もそれほど高くなく、レベル6~17程度の獣系の魔物が出現する。
ゴブリン迷宮とそんなに変わらない。
つまりは素材としてもそこまで旨味がないのだ。
もちろんゴブリンよりは高く買い取ってくれるし、買取素材も多いが、レベルが知れているため、外で薬草を集めて薬を作った方が余程儲けが出る。
ゼンとイチに出会った森の方まで行けば、迷宮ではボスとして出るような魔物とも遭遇することもあるため、狩りとしても外の方がいい。
まあ外の場合は出会える確率がかなり下がるから、確実に稼ぐには迷宮に行った方が効率がいいが、狩りでの稼ぎはそこそこでいいため、あまり迷宮には行っていなかったのだ。
今回この迷宮に来たのはドーラもパーティに加わったからだ。
もちろんゼンとイチも始めにやったピコドラゴン狩りも実施済だ。
だが、ドーラはまだ俺たちのレベルには届いていないため、レベルアップのためと連携を深めるため、そしてドーラの武器の実射のために数をこなせる迷宮に来た、と言うわけだ。
ドーラの戦闘スタイルは遠距離からの射撃だ。
ドーラは小人族の例に漏れず、あまり腕力はない。
そのため、あまり重いものは振り回せないため、小人族の多くは短剣や細剣もしくは弓などを使う。
もちろん例外はいるし、高レベルになれば相応に腕力も高くなるため、斧やハンマーだって使うことはできる。
とは言え初心者には荷が重いし、態々そちらを目指す必要も無い。
ドーラの趣向も遠距離からの狙撃の方があっていた。
ならば弓を使っているのかと言うとそうでもない。
ドーラはロマンの分かる工作好きメガネ女子だ。
俺の発言から仕組みや構造が簡単なものなら何でも作ろうとしてしまう。
その中のひとつをドーラは武器に選んだのだった。
「ここがビーストの迷宮ですか。ソーマ様。」
「そうらしいね。」
「兄ちゃん。人がいっぱいやんか。」
「ビースト迷宮は狩りをするには効率がいいからね。」
「ゴブリンの迷宮はガラガラだったのにな。」
「ゼン。そういうことは言うもんじゃないよ。」
「にゃー。」
「朝ごはんは食べたでしょ。後にしなさい。」
「にゃー。」
「はいはい。」
「に、兄ちゃん。シロやんのゆうてること分かるん!?」
「ん?ああ。ある程度ね。さっきは「昼ご飯はイノシシの焼肉がいい」ってさ。」
「イノシシ肉って在庫ありましたっけ?」
「この前使っちゃったけど、ビースト迷宮だからイノシシくらいいるでしょ。魔物だろうけど。」
「そうですね。いっぱい狩りましょう!」
「にゃー!」
「ほどほどにね。今日の主役はドーラなんだから。」
「兄ちゃん。うち、あんまり自信ないんやけど。」
「大丈夫だよ。落ち着いてやればドーラなら当てられるよ。動いてる的にも当てられてたし。」
「でもアレは単純な動きしかしてへんかったやん。魔物は動いてるんやで!?」
「当たらなくても牽制になればいいくらいの気持ちでやったらいいよ。動きを阻害できれば、俺たちがフォローするしね。」
「そうです!頑張りましょう!ドーラちゃん!」
「そうそう!気楽に行こうぜ、ドーラ!」
「むー。わかった!よろしゅう頼むわ!」
気合を入れたドーラを連れて俺たちはビースト迷宮へと入っていった。
ビースト迷宮は草原の中にある岩場に入り口がある。
入り口を入るとすぐに地下に降りる坂があり、数分降りると分かれ道がある。
入り口は2人が横並びでぎりぎり歩ける程度だが、坂を降りるに連れて段々と広くなり、分かれ道では道幅は10m程度にもなる。
とは言え走り回れる程度の広さでもなく、隠れるところもないため、魔物と出会ってしまったら戦うしかない。
獣系は足が速いため、逃げるのも容易ではないため、ゴブリン迷宮よりもレベル帯は同じでも高レベルの冒険者向けの迷宮だ。
まあ走りまわれないのは相手も同じなのだが。
「暗いですね。明かり点けますか?」
「そうだね。」
「・・・マルチライトボール!」
イチが前方25mくらいに向けてライトボールを3つ浮かべた。
前方がかなり明るいが、俺たちの周囲は若干暗いくらいだ。
ライトボールの範囲に入ったらこちらを視認できなくなってしまうことだろう。
「いっちゃんすごいやん!あんな遠くに光の玉を浮かべるやなんて!」
「すごいでしょ!ソーマ様が作った魔法なんです。」
「やっぱりそうなんや。さすが兄ちゃんや。」
イチがすごいって話では無かったのか。
イチの俺至上主義が段々酷くなってきている気がする。
俺なんかただの捻くれゲーマーなんだがな。
「イチ、ドーラ。そろそろ静かにしようか。」
「にゃ。」
「近いってさ。」
ドーラが途端に緊張しだす。
ゼンとイチはいつも通りだな。
「まずは様子見でゼン、頼んだ。イチとドーラは控えてて。」
「おー。」
俺たちは小声で会話を終え、ゆっくりと前えと進んでいく。
イチが展開しているライトボールの結界に魔物が踏み込む。
現われたのはホーンラビットという角のあるウサギでレベルは8だ。
ライトボールの光で目がくらんだのかこちらのことが見えていないようだ。
ゼンは剣を引き抜き、素早く接近してから一閃。
あっという間にホーンラビットを倒した。
ゼンがこちらに向かってブイサインをしていた。
まあ当然か。
「ゼンくん、さすがやん!」
「へっへー、まあねー。」
「ゼン兄、あまり調子に乗っちゃだめだよ。」
「分かってるよ。ホーンラビットくらいでへましないよ。」
「そうだな。しっかり周りも見えてたみたいだし、油断もしてなかったと思うよ。」
「へへ。ありがと兄貴。」
「・・・。」
「ゼンくんはすごいなあ。」
「ドーラもこれくらいはすぐ出来るよ。さ、次行こうか。」
「うん。」




