64 ドーラ
ソルの実に仕掛けをしてしばらく経った。
実の完熟まではまだかかりそうだ。
今日は工房でお仕事だ。
イチは下級ポーションの作成くらいなら十分出来るようになり、ミンさんにかわいがられていた。
ゼンには丁寧さが足りず、早々にドロップアウトした。
それでもムンさんの荷物運びをしたりと仲良くやっていた。
練成魔法が必要なポーションの作成は、他の練成師の場合は1日に4,5本くらいを作成できれば一人前らしいのだが、俺の場合は一気に20本作ってもまだ魔力が余る。
ミンさんでも20本くらいが最大らしい。
薬は材料が必要なので大量と言っても限度があるため、1日の上限は今のところ不明だ。
俺の作るポーションは全て普通品質で一定だ。
なので店売りの一般品としては人気があったりするらしい。
ばらつきがないのは、それはそれでいいことだ。
うんうん。
...悲しくなってきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「望遠鏡作ったのって兄ちゃんか?」
「ん?」
俺が下級魔力ポーション×100を入れたバケツに向かって練成魔法で魔力を込めていたら後ろから声をかけられた。
え、俺に用?
振り返って目に入ってきたのは驚きの丸いぐるぐるメガネをかけた三つ編みおさげの小人族の女の子。
え、誰?
「えーっと。作ったのは、ムンさんとゲンタさんだよ。」
「ちゃうちゃう。アイデア出したんが兄ちゃんか、って意味やよ。でどうなん?兄ちゃんやろ?」
「あ、ああ、まあ、俺だけど。」
「やっぱりかー!そんなバケツでポーションなんか練成してる変な兄ちゃんなら、そうなんやないかって思ったんよー。」
「はあ。で、誰?君。」
「うち?うちはドーラだよ。」
「いやだから誰だよ。」
「いいやろー、そんなことはー。そんなことより、なしてあんなアイデア思いつくんや?魔法板を使わずにあんなこと実現するなんてすご過ぎるで!」
「あ、ありがとう。」
「ありがとうやのうて何でなん!?」
「何で、と言ったって思いついたから、としか。」
「かー!!これが天才ってやつか!」
「天才じゃないよ。出来ないことの方が多いしね。」
悪い子じゃなさそうなので、話しながら下級魔力ポーションの作成を続ける。
練成が終われば、後は瓶詰めして終わりだ。
ぐいぐい魔力を込める。
込めて込めて込める。
まだ魔力には余力があるが、ポーションの方の許容量が限界だな。
鑑定してみると品質が中品質になっていた。
素材が普通だとどれだけ魔力を込めても中以上には出来ないということがわかっている。
素材にいいものを使うと高品質までは出来る。
だが、高品質の下級魔力ポーションなんてそんな大量には売れない。
品質なんて鑑定スキルがないと分からないからだ。
高品質を作ったところで店では普通品質と一緒くたで売られてしまう。
そうなると商品の効果にばらつきが出てクレームになる。
すると店が困る。
なので、一々鑑定して値段を決める必要があり、店には喜ばれない。
高品質を作っているのは、魔力が余っているからで、自分たち用にするためだ。
自分たちが使うには下級だろうと1本で高回復する方がいいに決まってる。
なのでストックは高品質なものにするようにしている。
とは言え材料の関係上、今回のでまた材料を集めないといけないのだが。
最近、特に余り気味で薬を作成しても全く疲れないようになってきている。
夜寝る前に魔力が空になるまで旅人の道標に魔力を注いでいるおかげかもしれない。
よくあるやつだ
疲れたら超回復で魔力が増えるとかそういうやつだ。
これが唯の成長期だったらマジ無駄骨だ。
旅人の道標は転移アイテムであると同時に魔力タンクとしても使えるアイテムなのだが、魔力タンクとして使えるのは転移1回分を超えた分の魔力だけだ。
どういうことかというと、転移2回分の魔力を溜めておかないと、1度転移をしてしまうと魔力タンクとしては使えなくなってしまうのだ。
転移をするか魔力タンクとして使うかの二者択一だ。
どうにか2回分を溜められないかと毎日溜めているが、ちょくちょく転移を使ってしまうため、未だに溜まったことがない。
1週間ずっと溜めても無理なので相当な容量なのだと思われる。
コードが解析できたら分かる事かもしれない。
「出来ないことってなんや?なんややりたいことでもあるんか?」
「そうだなぁ。空飛びたいかなぁ。」
「空ぁ?空か!ええなあ!空ゆうたらあれや!翼人族の飛翔術やな。でもあれ術式が特殊過ぎて他の種族には向かんて話やで。」
「え!?そんなのあるのか!へー。いいなぁ。魔法もいいけど、空飛ぶ乗り物とかもいいと思ってるんだけど。」
「乗り物!?てことは魔法が使えなくても飛べるってことか!?ええな!」
「そうだろ?君、話わかるじゃないか。」
「ドーラや。さっきゆうたやろ?」
「そうだったね。ドーラ。俺はソーマだ。よろしく。」
「よろしくな。兄ちゃん!」
「名前言った意味ある?」
「ええやん。細かいこと気にしなさんなや。ハゲるで?」
「ハゲちゃうわ!フサフサや!」
「にいちゃん。ええツッコミやな!最高や!」
「まったく。で、君はどちらさんなん?」
「せやからドーラやって。なんべん言わすん!?」
「じゃなくてさ。」
なんだか話の噛み合わない子だなぁ。
「なんだい、喧しいよ!工房で騒ぐんじゃないよ!」
誰よりも大きな声で現れたのはイチを連れたミンさんだ。
「ドーラじゃないか。いつ来たんだい?来るなら連絡の一つも寄越しなよ。」
「ついさっきだよ。急に思い立っちゃってさ。堪忍や、ばあちゃん。」
え?
「ばあちゃん?」
「そうさね。この子は私の孫のドーラだよ。王都の息子夫婦と住んでだ筈なんだけどね。で、どーして急に来たんだい?」
「望遠鏡と魔蓄器を作ったやつに会いたくて!」
「ああ、ソーマにかい。」
「うん!」
「うーん。相変わらず変わり者だねぇ。」
「ミンさん、それどーゆー意味ですか!?」
「そのまんまの意味だよ。」
「ぐぬぬ。」
俺は地団駄を踏むことになった。自覚はあるけどさ!




