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俺、英雄になる?  作者: 黒猫
ニューゲーム開始
64/200

63 望遠鏡

ダスターさんは後ひと月ほどはこの町に滞在して仕事をするそうだ。

その後は王都に戻るらしいので、それまでに闘気を物にしたいところだ。


訓練は続けつつも今日は町の工房に向かう予定だ。

ミンさんに紹介してもらった、ガラス工房に向かう。

前々から考えていたレンズの作成を依頼するためだ。

ストレージリングや旅人の道標(トラベラーズマーカー)に刻まれたコードを読むために拡大鏡を作成したいのだ。

正直どこまでの精度で作成できるかは分からないが試してみないと始まらない。


紹介してもらったのはミンさんの錬成工房と同じ区画にあるガラス工房だ。

店主は人族のゲンタさん。


「ミンさんが言ってたソーマってやつは君か。話聞いてやってくれって言ってたが、何用だい?」

「実はこんなものを作って貰いたくて。」


俺が書いたラフ画を見てもらう。

顕微鏡の仕組みとか詳しいことは分からないため、とりあえずは凸レンズを依頼する。

まず目指すのは2枚の凸レンズを使った望遠鏡だ。

筒の部分はムンさんにお願いする予定だ。


「なんだ?これ?」

「これはレンズというものです。これくらいのきれいな曲面で・・・」


俺は思いつく限りの仕様を伝える。


「うーん。難しいなぁ。完全に透明とか、この歪み無い曲面とか。まあ出来るだけやってみるけど、あまり期待はするなよ。」

「まあ難しいことは分かるので。お願いします。」

「ああ、やってみるさ。」




もっと渋られるかと思ったが、ミンさんの口利きがあったおかげでスムーズに依頼できた。

後は出来上がりを待つだけだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




後日、ガラス工房をムンさんと一緒に訪れる。


「よう!ゲンタ。調子はどうだい?イヒヒ。」

「ああ、ムンさんか。いらっしゃい。ああ、君も一緒か。ってことはレンズだな?こっちだ。」


ゲンタさんに店の奥の工房に通された。

今できたのはこれだけだ。

そこにはまぎれも無くレンズが置かれてあった。


「おお。これか!じゃ早速。イヒヒ。」

「透明度を得るために、材料にかなり気を使ったよ。あとやっぱり歪みの無い曲面ていうのが難しいな。魔法じゃ曲面が作りにくいから金型を作ってやってみたよ。」

「魔法で加工するんですか?」

「そうだよ。熱したガラスは変形しやすいから普通は変形の魔法で成形するんだ。まあ、コップとか同じ形で沢山作る場合は金型作って挟み込んで作ったりするんだけどね。うちはガラス工房だけど、細工物が主だからあまり金型は作らないんだ。コストかかるし。」

「お手間かけたんですね。」

「いやいいさ。面白そうだしね。」

「おし。出来たぞ。イヒヒ。」

「相変わらず悪そうな笑い方だね。」

「うるせぇ。・・・おお!こりゃすげーぞ。」

「どうなんだい?」

「すげーでかく見えるぞ!」


ムンさんが望遠鏡を目に当ててこちらを見ている。近い。


「もっと遠くを見てくださいよ。」

「わーかってるてーの。おおー。」

「おお、じゃ無くてこっちにも貸してくださいよ。」

「ああ悪かったな。ほら。イヒヒ。」


ムンさんから渡された望遠鏡を覗くと確かに望遠鏡になっていた。

2つの筒で2つのレンズの距離を変えてピントが合わせられるようになっていて、よく見える。

ゲンタさんも覗き込んで、「これはすごい!こんな使い方があったなんて!」と叫んでいる。


とりあえず第一段階はクリアといえる。

だが、恐らく顕微鏡を作るには足りない。

単純構造の望遠鏡ですら端々にレンズの歪みと不純物の陰が見えた。

望遠鏡として使うならありだが、顕微鏡として使うには品質が足りない。

不純物は材料の不純物をストレージリングで分別すればいいが、曲面をどうするか。

いや、そういう問題じゃない?

試しに望遠鏡でストレージリングを見てみたが、ピントが合わなかった。

ぐぬぬ。


「ソーマ、何やってるんだ?」

「最終目標を確認してるんです。」

「最終?」

「目標?」

「そうです。最終的にはこれの表面に書かれているコードを読み取ることが目標なんです。」


と2人が近づいて見て来た。


「コード?」

「これがかい?表面がザラザラしてるだけじゃなくて?」

「この端っこの方に空間を表すコードが見えたような気がするので。」

「ここ?」


俺のスキル【全言語理解(フルリンガル)】で何となく見えた気がしたのだ。

ほんの少しでも読み取れれば理解できるため、まず間違いなくコードが書かれていると考えている。

後は、解読できるくらいに拡大できれば応用できるはずだ。

見えないけど。


「まあ、お前が言うならそうなのかもしれねぇが、それを拡大しようと思ったら、台座とかがあった方がいいだろうな。」

「台座のラフ画もあるんですよ。」

「あるのかよ。先に言えよ。じゃあこっちも試してみるか。」

「はい。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



闘気の訓練と戦闘訓練は順調に進んでいる。

俺やゼンも【闘気】スキルを取得し、発動の感覚を掴めた。

一足先にスキルを得ていたイチは攻撃力だけでなく、素早さの強化や攻撃に雷撃をのせることも出来るようになった。

それを追うように俺やゼン、おまけにシロも闘気の扱いが出来るようになった。

元々魔力操作の訓練はしていたため下地は出来ていたのだ。

しかもまだみんな若いから飲み込みも早いのだ!

戦闘訓練の方もジャイアントワーム程の大物はいなかったがオークやウェアウルフの群れすらも余裕を持って倒せるまでになって、既に期待の新人から頼れる冒険者へなりつつあった。

慢心はすまい。



そんなこんなで冒険者としての活動の方は順調だが、顕微鏡の開発は微妙だった。

形にはなったもののコードが読み取れる程の拡大率は得られなかった。

その一方で、ムンさんとゲンタさんが望遠鏡を量産して一儲けしていた。

儲けの一部を貰ってはいたが、ほとんど何もしていないのでなんか悪い気がするのだが、アイデア料だといわれたのでありがたく貰っている。

既に王都の方へも出荷しているらしい。

真似される前に儲けるらしい。

アイデア料を使って特殊な集光レンズと固定器具を作ってもらった。

固定しておいて日光を集めるのに使用する。

凸レンズをいくつも半球状にくっつけた特殊レンズで日が傾いても日光を強力に集光できるようにしたものだ。

めちゃくちゃ燃えそうだ。

これを設置するのは、ソルの木だ。

ジェリー迷宮の近くの寝床の上の崖に育っている植物だ。

実ができるのはちょうど秋頃。

つまり今頃だ。

サクセスノート曰く、ソルの実を完熟させるには適度な水と強い風と豊富な日光が必要だ。

そもそも木が育っているのは適度な水と強い風がある場所なので2つ目までの条件はクリアしている。

そして特殊レンズを設置することで3つ目の豊富な日光をクリアするのだ。

後から思いついたが、こんな特殊なレンズを作らなくても鏡を置いても良かったなと思った。

せっかく作ったのでこれで行くが。

強い風を当てる必要もあるので、レンズの固定も一苦労だ。

崖に上り、木を固定して、レンズを設置する。

調子に乗ってレンズは100個も作ってしまったので、がんばって設置しました。

しんどかったが、完熟ソルの実が楽しみだ。

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