59 2人の初依頼
試験を受けた次の日、早速2人と1匹を連れて、2人の初依頼を受けに行くことにした。
ジェリーの迷宮の周辺では最初に戦った熊以外は特に高レベルの獲物が居なかったため、戦闘訓練としては微妙だったので、町の近くで獲物を探して訓練がてら依頼を受けてみることにした。
朝早くギルドに向かい、人ごみを掻き分け、掲示板を確認するとゴブリンの討伐依頼が残っていた。
ランク指定はF以上。
確認されているのは1匹ということだ。
依頼元はカルポの町から歩いて3時間ほどの距離にある村。
確認されているのが1匹だからランク指定はFとなっているが、場合によってはEランクの依頼になる。
ゴブリンは4,5匹で固まっていることが多いので、討伐依頼となるとあまりFランクの依頼にはならないのだが、報酬が低いのと達成条件がゴブリン1匹の討伐となっているからFランクになっているらしい。
周りに居た冒険者がご高説を垂れていた。
つまりは、割の悪い依頼ということだ。
遠いしね。
と言うわけで、これを受ける。困ってそうだし。
掲示板に張られた依頼書をペリっと剥がして受付に行く。
いつもの通り、秘書・・・キサラさんに受け付けてもらう。
もう一人の受付の人は見た目はいいが、話が聞き取りにくいので苦手だ。
スキルのおかげで言いたいことは理解できるのだが、耳障りなのだ。
他の冒険者たちに何言ってるか分かるか聞いてみたが、「わからん。だが、そこがまたいい。」と言っていたが理解に苦しむ。
「これお願いします。」
「はい。あらソーマくん、これ受けてくれるの?」
「誰も受けそうにない依頼だと思うので。」
「そうなのよね。遠いしね。でも複数出てきたら危ないからすぐに逃げるのよ?捕まったら大変なんだから!」
「シロが居るので大丈夫ですよ。引き際は弁えてます。」
「シロちゃん?よしよし。」
「にゃー。」
「シロが大体の強さとかもなんとなく分かるみたいなんで、引く時は引きますよ。」
「あら、そうなの?それな安心かしら?がんばってね、シロちゃん。」
「にゃ!」
「では、受付完了です。お仕事宜しくお願いします。気をつけてね。」
「はーい。いってきます。」
「と言うことでゼンとイチの初依頼はこれです。」
ゼンとイチに依頼書を見せて宣言する。
「「はい!」」
2人が元気よく返事をしてくれたので、早速出発だ。
目的の村は町から南の街道を1時間進んでから、東に2時間ほど進んだところにある農村だ。
素直に歩くと3時間の道のりだ。
町からある程度離れて、周りに人影が無くなったところで旅人の道標で目的の村の近くに転移する。
前に行ったことがあるのでマーカーは設置済みだ。
村から15分程の位置に転移して、そこから歩いて村に行く。
村で依頼者である村長さんに話を聞くと、村の狩人が村から少し離れた森の中で遠目にゴブリンを見たということだ。
確認したのは、2日前で村では被害は出ておらず、それ以降ゴブリンの姿も見ていないと言うことだ。
もしかしたら、もう村の近くからは離れてしまっているかもしれないと言っていた。
見つからなかったら討伐失敗で依頼も失敗になるのか?
それは嫌だなと思ったら、安全が確認されたら、それでいいと言うことだった。
なので村の周囲を探索して、居ないことを確認してこよう。
居ないことの証明って逆に難しいけど、シロがいるから痕跡を見つけることくらいはできるだろう。
早速、みんなで狩人がゴブリンを見たと言う場所まで行き、痕跡を探す。
「に゛ゃー。」
シロが低い声で鳴いた。
「ゴブリンのにおいか?」
「にゃー。」
どうやらゴブリンとは違うらしいが、何か見つけたようだ。
詐欺か?
シロについて森を行く。
シロ、俺、イチ、ゼンの順だ。
まだゼンに一人で前衛を任せるのは早いので、盾持ちだが後ろの警戒を任せている。
しばらく進むと複数の足跡があった。
「ソーマ様。この足跡がゴブリンですか?」
「いや。オークだね。ゴブリンもいるが。」
「兄貴。足跡多くないか?」
「多いね。少なくともゴブリン5匹とオークが3匹以上はいそうだ。」
「ご・・・。」
ゼンが息を呑む。
ゼンの俺の呼称が「兄貴」になった。
口調も砕けた話し方になって親しくなった気がしてちょっとうれしい。
イチは相変わらず丁寧な話し方だが、崩す気は無いらしい。
楽にしていいのに。
2人との距離も段々と縮んできて、2人の性格も分かってきた。
ゼンは元気でビビリで不器用でお兄ちゃんだ。
イチは丁寧で大胆で器用でちょっと黒い。
双子なのに、差が激しい。
どうしてこうなったのか。
世の中は不思議がいっぱいだ。
「シロ、追跡できるか?」
「にゃ。」
「よし、じゃあ、このまま進むよ。」
「「はい。」」
流石に初の魔物討伐がオークは厳しいか?とも思うが、これがクリアできるなら何でもできそうだしいっか。
数が違うがゴブリンを見たと言う狩人の見間違いではなかったらしい。
詐欺じゃなくて良かった。
シロを追ってまたしばらく進む。
ゴブリンどころか動物すら見かけない。
遠くで鳥が飛んでいるのは見られるし、小動物の気配はするので、生物がいないという訳ではなさそうだが。
足跡から2時間ほど歩いたが、魔物は見つからない。
シロは魔物の痕跡は続いているというので、見失った分けではないが、これだけ村から離れると一先ずは危険はなさそうだ。
周囲250mに危険は無さそうなので今のうちに昼ごはんをとって置く。
イチが朝に作っておいたサンドイッチだ。
宿の厨房を借りたらしい。
具は鳥っぽい肉とレタスとソースといった簡単なものだったが美味い。
サンドイッチと言えば、マヨネーズが欲しくなる。
材料は卵と油と水を混ぜたらいいはずだ。
詳しい作り方はよく分からないが、イチに今度試してもらおう。




