58 ギルド地区長
俺から許可が出て決心が付いたようで、それぞれの武器を構えて、距離を図る。
2人のレベルは10だが、ステータスは2.5倍なので、レベル17相当のステータスを秘めている。
戦えるだけの十分な身体能力はあると言うことだ。
まだ、戦闘訓練を始めてから日が浅いので動きは子供の遊びの延長にしかならないが、舐めてかかると痛い目を見る。
大男は自分から動く気は無いらしく2人を見ながら好戦的な顔をしていた。
「どうした?来ないのか?来ないなら試験は不合格だぞ!!」
軽い挑発をかましてきた。
ゼンが盾を構えて一気に踏み出す。
まっすぐダッシュするスピードは子供とは思えないほど速く、鋭い。
大男は手に持つ大剣を大きく振る。
それほどスピードは出していないようだ。
ゼンは難なく回避。
その間にイチが回り込んでいて男の死角から近づいて、メイスを振るう。
踏み込みが甘い。
男は完全に見切っているようでギリギリで回避して、イチに近づいて大剣を振るった。
メイスを振った跡の隙を突かれたが、何とか回避しようと後ろに下がる。
ゼンが反対側から急接近して小剣を突き出す。
いつの間にか振るっていた大剣を引き戻して、ゼンの小剣を難なく弾き、盾毎ゼンを吹き飛ばす。
「うわっ!」
「ゼン兄!」
「隙ありだ!!」
ゼンが吹き飛ばされて、思わず気を逸らしてしまったイチもメイスでガードしたが吹き飛ばされてしまった。
2人が地面を転がり、起き上がろうとするが、吹き飛ばされた衝撃で上手く立ち上がれないらしい。
「はっはっは!!戦闘中に隙を見せるとは何事だ!!仲間をカバーし合うのはいいが、敵から目を逸らしたら生き残れないと思え!!」
2人は吹き飛ばされはしたものの怪我をしている様子はない。
受身も取れていたみたいだし、よくやったと思う。
手加減をされていることはわかったが、心配はしてしまうな。
何度も手を出しそうになってしまった。
気付けば握っていた手は汗でびっしょりだ。
気持ち悪い。
「はっはっは!!だが2人ともいい動きだったぞ!!試験は合格だ!!はっはっは!!」
上機嫌の男。
「ダスターさん!!!!!何やってるんですかーーーーー!!!!!」
「ぬ!?」
後ろから大男よりも大きな声が聞こえた。
「おお、キサラ!!何って、試験に決まってるじゃないか!!」
「『おお、キサラ』じゃありません!!!Fランクの試験を地区長がやるなんて何考えてるんですか!!!」
「地区長?」
鑑定では職業がギルドマスターになってたんだが、ここのギルドマスターじゃないのか?
先ほど2人に思いっきりやれと言ったのはそういうことだ。
鑑定で事前に確認したところ、レベル64の達人だ。
今の2人では手も足も出ないくらいの雲の上の人間だ。
普通にレベルが違う。
「いいじゃないか。スピカには断っているぞ!!せっかく期待の新人とやれるんだから、やらないなんてできるか!!」
「期待の新人でもまだ子供です!!!何かあったらどうするんですか!!!そんな大剣まで持ち出してー!!!大人気ないと思わないんですか!!!というか仕事はどうしたんですか!!!まだ確認してもらう書類は沢山あるんですよ!!!事務所に行ったら、未確認の書類の山は減ってないし!!!本人はいないし!!!というかギルドマスターはどこいったんですかー!!!2人して仕事サボらないでくださいー!!!」
「お、おお・・・」
「わかってるんですかー!!!??しーごーとー!!!!!」
「わかってるわかってる。やるさ。」
「ふぅーふぅーふぅーふぅー!!!」
「そう興奮するな。坊主が驚いてるぞ。」
「ふぇ?・・・!!あ、いや、えーっとー。」
「キサラさんってそんなキャラだったんですね。」
「いや、えっと、これは違うの!そんなこと無いからね。だからえっと、ち、違うからね!」
「えーっと、はい。わかってます。大丈夫です。」
慌てるキサラさんというのも珍しい。
いつもはキリっとしていて堅そうな雰囲気だが、今の彼女はわたわたしていてかわいらしい。
俺はそんなキサラさんを分かってます、というように生温かい目を向けて頷く。
うんうん。
「ち、違うんですー!!!」
魂の叫びが聞こえた気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
落ち着いたキサラさんの話を聞くと、大男は、ダスターという名前でトローラ王国(この国)の王都のギルドマスターであり、かつトローラ王国近辺の冒険者ギルドを統括する地区長という存在らしい。
冒険者ギルドは国をまたがり活動する組織で、多くの国々にその支部がある。
支部が多すぎて一括で管理することができないため、近隣の支部をひと括りとした担当地区を決めているらしい。
で、目の前にいるダスターさんがこの辺りを統括するギルドマスターの上の地区長さんと言うことらしい。
そんな説明をしてもらったが、ゼンはいまいち分かっていないようだ。
「冒険者ギルドのすごい偉い人だよ。」
「おおー。そうなんですね。偉い人なのですね。」
「ゼン兄、大丈夫?」
「ああ!分かった!」
分かったらしい。
まあ分かってなくても困らないから問題ない。
俺たちはキサラさんに連れられて受付に戻り、ランクアップした2人のギルドカードを受け取った。
ダスターさんは別の職員の人に連行されていった。
「またな!!」バシっ!!
最後に叩かれた肩がめちゃ痛かった。




