56 ソルの実
熊を倒してから少し休憩をして、いつも使っているキャンプ場に移動する。
簡単な柵と焚き火の跡があるくらいで特に何もない場所だが、切り立った崖と岩に囲まれていて一方向からしか入ることができない広場だ。
袋小路であるともいえるが、この辺りで追い詰められると言ったことはほぼないので、動物の入ってきにくい地形というのが重宝するのだ。
森も奥深いから村の人間も来ることはないし、森を進んだ先にあるのは更に深い森だけだ。
「ここが今日の寝床ですか?」
「そうだよ。テントと火の準備をしようか。」
「「はい。」」
ストレージリングからテントや道具を出して、途中で拾って来た薪を焚き火跡に組んで火の用意を手分けしてする。
イチには料理を担当してもらい、ゼンにはウサギの解体を教える。
「こうかな・・・?む?」
「こっちから刃を入れてみ。」
「こっちですか?」
「そうそう。」
「むむ。」
「ソーマ様。調味料が欲しいのですが。」
「ああ。はいはい。ちょっと待ってね。はいどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「うんうん。よろしくね。」
「はい。あ、あのちょっと気になったことがあるんですが。」
「なーに?」
「あの崖の上に実が生ってるように見えるんですけど、あれって食べられるんですか?」
「ん?ああ。あれかー。あれは食べられるけど美味しくないよ。」
「そうなんですか。」
「うん。食べたことあるんだけど酸っぱいんだよね。完熟したら甘くて美味しいらしいんだけど、あのままじゃ完熟はしないみたいで、食べられないんだよね。」
「そうですか。あれも何かに使えるかと思ったんですが。」
「もうちょっと待たないといけないんですね。」
「いや。待ってても完熟はしないんだ。特殊な植物でね。ソルという植物で、実を完熟させるには豊富な光が必要なんだけど、日光だけでは足りないらしい。」
「日光で足りないって、なんででしょうね。」
「さあ?不思議植物だね。熟した実を食べてみたいけど今後の課題かな。」
「へー。」
話している間にもイチは手際よく調理を進めていた。熊肉の筋も丁寧に処理している傍らでスープの準備をしたり、火の番までさせてしまって申し訳ない気になった。
「イチはいいお嫁さんになるだろうね。」
「ふぇっ!」
ガチャン
慌てたイチが出していた食器を倒してしまった。変なことを言ってしまったかな。
「ごめんごめん。そんなに慌てるとは思わなくて。」
「あわ。だ、大丈夫です。すみません。食器倒してしまって。」
「いいよいいよ。金属製の食器だし、掃っておけば大丈夫でしょ。」
「は、はい・・・。」
「ごめんね。変なこと言って。」
「い、いえ!あの、その、う、うれしかったので!えへへ。」
イチはホントにいいお嫁さんになると思うよ。
イチとの会話に夢中になってゼンのことをほったらかしていた。
ウサギの毛皮は使い物にならない位にボロボロになり、ゼンは耳をペタンと垂らして落ち込んでいた。
初めてなら仕方ないと撫でてやると、次はもっと上手くやると意気込んでいた。
料理ができるのを待つ間、今日集めた素材たちの下処理をしておく。
日干しによる乾燥はできないが、魔法で乾燥させることはできる。
上手くやらないとボロボロになってしまうが、何度もやってきたのでちょちょいだ。
その他、軽く刻んでおいたり、皮を剥いておいたり、下処理をしつつ、ゼンに生活魔法を教えてみたりした。
ゼンは魔力の操作は才能があったが、魔法は苦手みたいだ。
魔法と言うか、勉強が苦手という感じだ。
詠唱を暗記するのが苦手で簡単な生活魔法も四苦八苦していた。
ピコドラゴンの討伐に始まり、採取に狩りに熊さん狩りに下処理に魔法にと、1日に色々と詰め込んでいるのだが、2人とも楽しそうにやっていた。
明日もしばらくは同じように狩りと採取をして、経験を積ませていくつもりだ。
まずは竜殺しの称号だな。
熊鍋は絶品でした。
イチはいいお嫁さんになるね。きっと。




