55 狩り2
周囲を警戒しつつごろんと寝転がっていたシロが鳴いた。
何かが近づいてきたみたいだ。
「どっち?」
「にゃ。」
シロの向いた方に集中して索敵をする。
「な、なんでしょうか?」
「うーん。ちょっと大きいかな?鹿、かな?いや、もっと大きいかも。」
「鹿より大きいって何ですかね?」
「熊とか、イノシシとか。」
「大熊ですか!?」
ゼンが少し焦ったような声を上げた。
本当に大熊がいるんだとしたら、かなり危険だからな。
レベル18くらいの巨大な熊だ。
魔物ではなく純粋な動物だが、魔物ですら食料にする。
雑食である。
「いやあ、この辺りでは大熊は見たこと無いから、大丈夫じゃないかな。」
「そ、そうですか。」
「あ、でもこいつは熊だね。そこの岩くらいあるサイズの。」
「ひぇ!」
「熊鍋ですか?」
「いいね。下処理が大変だけど癖になるよね。」
「ネギやにんにくと一緒に煮込めば臭みもマシになりますし。」
「おお、それおいしそうかも。」
「カプリって言う香草を入れてもいいです。さっき摘みました。」
「でかした!イチはさすがだね。」
「えへへ。」
「イチは大物だなぁ。」
ゼンが遠い目をしている。
イチは肝が据わってるね。
ここはきっちり熊を仕留めないとね。
「じゃあ、ちょっと連携の訓練がてら、熊狩りをしようか。」
「「はい!」」
今回はボクが前に出る。
斜め後ろの離れたところにゼンとイチ、シロは遊撃だ。
熊さんがゆっくりと近づいてくる。
もう視認できる距離だ。
あれ?なんだか様子がおかしい。
その熊さんは顔や体に幾つもの傷を持っていた。
なんだか歴戦の勇士みたいだ。
口からはよだれをたらして興奮しているみたい。
予想していたのと違うぞ。
鑑定してみたら、熊なんだけど、レベルが12もあった。
この辺りでレベル12は異常だ。
ファントムキャットの時と同じくどこかから流れて来たのかもしれない。
よく流れてくるな。
俺はガードアップとスピードアップの強化魔法を全員にかけておき、前に出る。
熊さんの方からもこちらを見つけたようで、速度を上げて向かってきた。
「グゥゥゥゥ!」
えらい興奮している。
真っ直ぐ突進してきた熊さんをかわしつつ、顔面を蹴っておく。
「グゥ!?グアアァァァ!!」
もっと興奮した。
いい感じだ。
俺を標的にして何度も突進をしてきては顔面を蹴られる熊さん。
腕を振り回し、噛み付こうとする熊さんの攻撃をかわして、顔面を足蹴にする。
ちょっと楽しくなってきた。
熊さんの気が俺に逸れている合間をぬって、ゼンとイチが攻撃を加える。
ゼンの小剣とイチの槍が熊の足や腹を切りつけ、突き刺す。
「グゥアァァ!!」
一際大きな唸り声を上げて、猛烈な腕の振り下ろしが落ちてきた。
それまでと同じ様に俺はその腕を避けて、熊さんの顔面を蹴り上げる。
「グアァァ!」
蹴り上げられて大きく仰け反り、大きな隙を作った熊さんを2人の渾身一撃が襲う。
「や!」
「た!」
ゼンの小剣が首を切り裂き、イチの槍が心臓の位置に突き刺さった。
「グガァアァァ・・・」
どすーん、と直立していた熊さんが大きな音をたてて地面に倒れた。
「「ハァハァハァ」」
2人が肩で息をしている。
ほとんどの攻撃を2人に任せていたし、戦いがほとんど初めてだから仕方ない。
こんな大物との狩り、と言うよりは戦闘になるとは思っていなかったが、2人の動きも良かったし、いい経験になっただろう。
「2人ともおつかれさん。よくがんばったな。上出来だよ。」
熊さんの死体をストレージリングに格納して、ちょちょいと分解(解体)しながら、2人に声をかけた。
「ありが、とう、ござい、ます。ハァハァ。」
「ハァハァ。」
2人の疲労がピークのようなので、少し休憩する。
動けるようになったら、今日はここまでにして寝床に向かうことにしよう。
この森に来た時にはいつもキャンプしていた場所がある。
その内、小屋でも建てようかな。
まあ小屋なんてそんな簡単には建てられないけど。
何とかならないものかなぁ?




