53 魔水晶
イチと一緒にルームに戻るとゼンの姿が見えなかった。
「あれ?ゼーンー!どこだー?」
「あ、はーい。ここでーす。すぐ戻りまーす。」
誤って出口の魔法陣を踏んだのかと思ってちょっと焦ってしまった。
ゼンは魔法の倉庫の中にいたようだ。
「すみません。気になってしまって。」
「いや、いいよ。大したものはなかっただろ?」
「あ、はい。色々混じって山積みになってるところで、きれいな物見つけました!」
尻尾を振りながら、いいもの見つけたよ!とでも言いたそうにしてやってきた。
犬みたいだ。
狐なのに。
ゼンが持ってきたのは、魔法の倉庫で放置されていたゴミ山にあったものの一つだろう。
魔法の倉庫には大量の素材、特に鉱石関係が山積みになっていたが、その側にゴミ山と表現するに相応しい雑多な物の山があった。
ゴミにしか見えないとは言え、英雄が残した物であるため、もしかしたら使える物が混じっているかもしれないと少しずつ鑑定しながら片付けていた最中だった。
バラバラに積まれているだけなので、ストレージリングに収納するだけでも一苦労だったので、最近は放置していた。
その山の中から見つけてきたのだろう。
今のところ、切り崩せた山は1割程度で、ゴミばかりだった。
魔力の抜けた魔石とか魔鉱石、劣化して割れたスフィア、魔法板だったと思われる風化した板、何かの魔物の骨?の欠片などなど再利用も難しそうなものが多かった。
ストレージに入れて、分解してみても何も残らないことが多かったので、選別にやる気がなくなってきていたのだ。
ゼンが持ってきたのもその中の一つだ。
まあ恐らくはゴミだ。
「どれどれ。」
鑑定してみた。
こうやって前振りするってことはきっといいものなんでしょ。
名前:魔水晶
種類:魔水晶
品質:普通
属性:時
説明:長い時間の中で属性を持った魔水晶。
小粒。
うーん。判断に困る。
ゴミ山の中にあったにしてはアタリだ。
時属性を持った素材はレアと言えばレアだ。
まあ悪い物じゃない。
使い道はあまり無いが。
「おお。中々いいものじゃないか。良く見つけたな!」
「ホントですか!?やった!」
「そこで見つけられたものでは、今のところ一番いいものだな。ちゃんとした品質だし。」
「おおー!」
「ゼン兄、はしゃぎすぎ。どんなものなんですか?」
「魔水晶って言う水晶の一種で、時間を刻む時計なんかに使われる素材だよ。確か魔力を流すと一定のリズムで振動する性質があるって聞いたことがあるな。それ以外の使い道は知らないな。」
「魔法道具の部品になるってことですか?お金になるかな?」
「どうかな。ギルドの依頼には見たこと無いな。素材屋さんでも見たこと無いから、この辺りでは珍しい物ではあるだろうけど、どれくらいの価値があるものなのかは分からないな。」
「でも綺麗だし、見てるだけでも時間を忘れそうだぞ。」
「ゼン兄ってそういう綺麗な石とか集めるの好きだったもんね。石だと思ってたけど塩だったのとか。」
「宝石みたいに見えたんだから仕方ないだろ。」
「それで集めてた石が塩でべたべたになってくっ付いちゃって、水で洗ったら溶けて無くなったんだよね。」
「あったなー。めっちゃ減っててビックリしたよ。」
「まあ、塩の結晶って綺麗だからな。じゃあ、その魔水晶あげるよ。」
「え、ええええ。いえいえ、貰えませんよ。ここにあった物ですし!」
「いいよいいよ。あっても使い道ないしさ。あ、持ち歩くのに邪魔なら、そこの棚にでも置いとく?ゼンとイチの箱でも用意しようか。」
「いやそんな。僕たちが場所を占有するなんて恐れ多いです!」
「そんな大げさな。いいからいいから。自分の持ち物は自分で管理すること。これ約束ね。いい?」
「は、はい。分かりました。」
「うん。分かればよろしい。」
最初は渋っていたもののゼンの口元は少しニヤけていた。
小さい時ってなぜか無意味に集めたがるよね。




