52 ピコドラゴンの罠
誤字報告ありがとうございました。
魔力操作に熟達した2人は、魔法のしゃもじの扱いも簡単にできるようになった。
直径1~2m程にしゃもじを大きくして素早くスイングできるようになったため、最終試練の部屋の天井に開いた穴から地竜の深谷へ向かう。
「ここが地竜の深谷の底・・・。」
「そうだよ。」
「地竜がいるんですよね?」
ゼンとイチがそれぞれ少し不安そうに言った。
そりゃあまあ地竜に出くわしたら、太刀打ちのしようがないし、仕方ない心配だ。
竜と人では、そもそもからして生物としての格が違う。
普通に成長して6レベルくらいにしかならない人と50レベルを軽く超えてくる竜では天と地の差がある。
だから、今も周囲の索敵には細心の注意を払っている。
シロの索敵でも周囲には危険な気配はないようだ。
なのでサクサク進めていこう。
「今は周囲には危険はないみたいだから予定通り[竜殺し]を目指していこう。」
「「はい。」」
まずゼンから魔法のしゃもじを構えて魔力を流しこむ。
俺の索敵でも周囲に無数のピコドラゴンの気配を感じる。
あんまりよく見ようとすると沢山いて気持ち悪いから見ない。
ハエみたいだし。
ゼンは魔法のしゃもじを展開して、思いっきりスイングした。
ナイススイング!
ん?
鑑定眼で見ているとワンスイングだけでゼンのレベルが上がった。
ピコドラゴンは大体が10レベルだから、今のゼンからしたら格上の相手ってことになるから、当然といえば当然だ。
その後もゼンが何度かスイングをすると称号が増えた。
「ソーマ様!なんか目の前にでました!」
「やったな、ゼン!ラッキーだ!でも目標の称号じゃないからもっとスイングを続けるんだ!」
「はい!」
元気に返事をしてゼンはスイングを続けて、またレベルが上がった。
今のゼンはレベルが8に上がり、称号[無敵無双]を入手した。
称号[無敵無双]を入手してからスイングスピードが速くなり、ガンガン倒せているようだ。
「ハアハア。」
見るとイチが肩で息をしていた。
ただ立って待っているだけなのだが・・・!
まずい!
「・・・ アクアヒール!」
俺は急いでイチに回復魔法をかける。
青く淡い光がイチを包みこむ。
「え?」
「大丈夫か?痛いところはないか?」
「は、はい。大丈夫です。さっきまで体が重いというか、苦しかったんですけど楽になりました。」
「そうか。良かった。」
俺は軽く安堵の息を吐いた。
「えっと、何があったのでしょう?わたしは立っていただけなのですが。」
「ピコドラゴンの攻撃を受けていたんだよ。」
「え?攻撃、ですか?」
「そうだ。体当たり攻撃だね。ピコドラゴンからしたら攻撃してるつもりはなくて、飛んでたらぶつかっただけなんだろうけど。イチはレベルが低いから少しずつ体力を削られていたんだ。放っておいたら危険だったよ。気付けてよかったよ。ホント。」
イチは自分が攻撃を受けていたことに衝撃を受け、青ざめていた。
そりゃそうだ。
気付かぬうちに致命傷となっていたかもしれないのだから。
そう考えつつ、ゼンにもアクアヒールで回復をしておく。
ゼンも同じ様にダメージを受けているだろうからな。
しゃもじスイングで露払いをしているし、レベルも上がり、称号もとったから多少はマシだろうけどダメージを受けていることに違いはない。
ゼンに回復魔法をかけているとイチが近くに寄ってきて、俺の服の裾を握っていた。
不安だったんだろう。
イチの頭に手を置いて撫でつつ、2人に回復魔法をかけていく。
ついでに火と風と土の下級魔術書で新しく覚えていたパワーアップ、スピードアップ、ガードアップの身体強化魔法も2人にかけておく。
これで大分マシだろう。
しばらく待っているとゼンがフラフラしてきた。
これは・・・
「ソーマ様。なんだかクラクラしてきました。なんなんでしょうか・・・?」
「今日はここまでだね。それは魔力切れだよ。少し休めば大丈夫だ。」
「はい。休むー。」
そう言ってゼンは座り込んでしまった。
一体今どれくらいの数を倒せているのかは分からないが、俺が前回やった時の時間から考えると3分の1くらいはいったんじゃないかと思う。
「ゼン。休むなら穴に戻ってからにしろ。ここは危険地帯だぞ。」
「は、はい!」
危険地帯と聞いて、ゼンはすごすごと試練の穴に下りていった。
「次はイチだ。」
「はい!」
イチは元気良く答え、ゼンから受け取った魔法のしゃもじに魔力を流していった。
一応、イチに掛けていた強化魔法の効果時間は切れている。
称号[無敵無双]の条件的に、かけていたらダメかもしれないからだ。
と考えていた矢先に、
「あ!称号取れました!」
取れたらしい。
「イチもやったな!身体強化も重ね掛けして補助するからガンガンいこう!」
「はい!」
レベル1の時にジェリーの迷宮でブルージェリーをコツコツ倒していたのが嘘のような早さで称号[無敵無双]を取得できてしまった。
こんな裏技があるとは・・・。
レベルの低い内はピコドラゴンによってダメージを徐々に受けることから、無傷で倒すことが難しい相手ではある。
魔法のしゃもじでの攻撃はスイングでの打ちかましだが、質量がないため、ある程度の速度で振らないと倒せない。
だからレベルの低い内はピコドラゴンでも条件を満たすことができるのだろう。
俺の場合はここに簡単に来れるから条件が崩壊しているが、普通に来ようと思ったら低レベルでは自殺行為だ。
ピコドラゴンにすらダメージを与えられる状態ではあっという間に疲弊して、死ぬことになるだろう。
色んな条件が整ったからこそではあるから、簡単に真似は出来ない。
運がいいってことだな。
徒然考えながら、イチのスイングを見守り、魔力切れまで続けてからルームに戻った。




