50 初めての転移
「よし、しゅっぱーつ!」
「「はい!」」
俺たちは今町の近くの平原を森に向かって歩いている。
「ソーマ様、これからどこに行くんですか?」
「とりあえずあの森かな。目的地は、うーん、なんと言うか。秘密基地、かな。」
「秘密基地、ですか?」
「そうだよ。まあ付いてくれば分かるよ。」
「はい。」
よく分かっていないような顔だが、秘密基地と聞いて少し期待している雰囲気をしつつも素直に付いて来るふたり。
これから転移するって言ったら、どんな顔をするかな?
軽く森に入ってから周囲に誰もいないことを確認してから、手を繋ぐように指示する。
「これでいいですか?」
イチがゼンと手を繋ぎ、確認してきた。
「うん。いいよ。じゃあもう片方はこっちね。」
俺はそう言って、イチのもう片方の手と繋ぎ、旅人の道標を起動した。
小さな光が溢れ出し、幻想的な雰囲気を発生、させたりはしない。
俺が起動した次の瞬間には目的地への移動は完了している。
もうちょっとエフェクトがあってもいいのではないかと思ってしまうのだが、隠密性や展開速度から考えると効率的なのは確かだ。
目的地はもちろんルームだ。
到着したのはルームの隣にある移動部屋だ。
出口となる転移魔法陣が設置してある部屋で、刻印を残しておいた場所だ。
「え?」「ほえ?」
ちょっと間の抜けた声が聞こえた。
「ようこそ。俺の秘密基地へ。」
「「・・・」」
驚きすぎてフリーズしてしまっている。
「おーい。戻ってこーい。」
「「ええーーーーーーー!!」」
「うわっ。びっくりした。」
「びびびっくりしたのはこっちですよー!」
「何ですか!?ここ!?」
「どこですか!?ここ!?」
「「どういうことですかー!!?」」
「はっはっはっはー。とりあえず、こっちへおいでー。」
「にゃー。」
俺は叫び声を上げる2人をルームの方へ先導して移動した。
ルームでイスに座り、なんとか一息ついた2人にルームのことと旅人の道標のことを話した。
「転移ってすげー。」
「どんなところへでも一瞬で移動できるなんてすごいです。」
「行ったことなかったら無理だよ。それに1回使ったら、丸1日くらいは待たないと復活しないしね。」
興奮したのかゼンの素が出ている。
普段からそんな感じでもいいんだけどな。
「それでもすごいです。離れたところに一瞬で移動できるなんて。」
「そうだね。流石は幻想級のマジックアイテムだよ。」
「幻想級?」
「ああ。アイテムの希少性を示す等級でね、下から普通、希少級、伝説級、幻想級、創世級、神級という様に位分けされているんだ。聞いたことない?」
「あ!確かお父さんの使っていた剣が希少級だって言ってた気がします。」
「へえ。そうなんだ。名の知れた冒険者でも希少級以上の等級の装備を持っている人は少ないから、すごい人だったんだね。」
「はい!お父さんはすごかったです!」
お父さんが大好きだったのがよく伝わってくる。
いいお父さんでもあったのだろう。
「じゃあ落ち着いたところでここへ来た本題だ。」
「はい。」
「まずここでは称号を取得してもらいます。」
「称号ですか?」
「?」
2人はよく分かっていないようだ。特にゼン。
「称号は、困難を乗り越えた人とか、名誉ある地位に就いた人とかが取得するものだ。その中でも誰でも取得できるけど、取得が困難な称号を今回は取ってもらう。」
「困難・・・。」
「と言ってもこれからやるのは裏技だけどね。だから、そんなに身構える必要はないよ。安心して。」
困難と聞いて強張った2人だが、身構える必要はないと聞き、少し肩の力が抜けたようだ。
もちろん取得するのは称号[竜殺し]だ。
称号[無敵無双]は強力だが取得条件が困難だ。
俺やシロがやったジェリー潰しでは取得できない。
レベル6ともなるとちょうどいい相手がいない。
ゴブリンでは強すぎる。
竜殺しを取る際にレベル10のピコドラゴンを運良く100匹連続で無傷で倒せることを祈るくらいだ。
完全な運なので、狙っては難しいだろう。
取れたらラッキーと思っておく。
なので、まずは魔法のしゃもじを使いこなすことからだ。
使いこなすと言っても魔力を流して大きなしゃもじを展開できれば、後は素早くスイングするだけだ。
1万のドラゴンを倒す必要があるので、100匹連続討伐も1回くらいはありそうだ。
早速はじめよう。




