47 豚猫?
昨日はキサラさんにいいようにからかわれてしまった。
中身は大人のはずなのだが不覚だ。
次の日の朝、俺はいつも通りの時間に起きた。
「知らない天井だ。」
言ってみたかっただけだ。
初級魔法で水を出して顔を洗う。
使った水は同じく初級魔法のドライで乾燥させておく。
結構魔力を使うので普通はこんなことはしないが、俺は魔力が多いので使ってる。
便利だ。
水を入れ替えて、日課の素振りをしに宿の裏庭に行く。
この宿に泊まっている間はほぼ毎日やっている。
正式な型とかは相変わらず知らないので自己流だが、自分にあった動きを模索しながら素振りをしていれば、流れるように動けるようになる。
特に高速思考スキルのお陰で修正精度が高いため、上達しているような気がする。
素振りを終えて、宿の井戸の水で汗を流して部屋に戻る。
井戸の水を汲むのも一応筋トレの一環だ。
部屋に戻ると2人は既に起きていた。
「2人ともおはよう。起きてたんだな。」
「「す、すみませんでした!!」」
「え?」
「ど、どど奴隷の身分でありながら、」
「ソーマ様より遅く起きるなんて、」
「「すみませんでした!!」」
見事に2人で謝罪を言い切った。
すごい連携だ。
「よし、許す!面を上げろーい。」
「「はい!・・・え?」」
「まだ2人は本調子じゃないんだからしっかり休むことも仕事だよ。だから気にしないでいいよ。」
「許していただけるのですか・・・?」
「ああ。」
「叩いたりは・・・」
「しないよ。」
「本当に・・・?」
「本当だよ。」
2人は目を点にして、お互いを見詰め合ってまだ信じられないといった感じだ。
まあ追々慣れていけばいいだろう。
「それより。おはよう、2人とも。」
「「お、おはようございます。」」
「うんうん。あいさつは大事だよね。よし、じゃあそこの桶の水で顔を洗って、服を着替えて、朝ごはんに行こう!さ、早く早く!」
「「は、はい!」」
「下着もあるからね。ちゃんとつけてね。俺は先に食堂に行ってるね。」
「は、はい!す、すぐ行きます!」
2人を急かすように俺とシロは食堂に向かった。
シロは俺が食堂に向かう直前くらいにいつも起きる。
ギリギリまでぐうたらしてるとはいい度胸だ。
猫じゃなくて豚になるんじゃないかと心配だ。
ぶーぶー。
「にゃー。」
そんな事を考えているとシロから抗議の声が上がった。
心の声が読めるとは、こやつ、できるな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食堂では他に何人かの客が同じく朝食を取っていた。
俺は空いている席に座り、3人と1匹分の朝食をサラさんに注文して2人が来るのを待った。
「おはようございます。ソーマさん。」
ルカちゃんが朝食を運んで来てくれた。
「おはよう。ルカちゃん。」
「今朝も訓練してたんですか?素振りしてる音が聞こえたから。」
「ああ。ここに泊まっている時くらいはね。野営してる時は中々できないしね。迷惑だったかな?」
「いえ。毎日訓練されている冒険者さんってソーマさん以外では珍しいから。」
「そうなんだ。確かに朝に出会ったことはないなー。まあ冒険者なんてその日暮らしな人が多いから仕方ないんじゃないかな。」
「そうかもしれませんねー。」
そんな他愛無い話をしていたら2人が降りてきた。
「「お、おはようございます。」」
「おはようございます。」
3人のやり取りを微笑ましく見てしまう。
急に老けた気分だ。
まだまだ俺は若いぞ!13歳だし。
「2人とも中々似合ってるよ。」
今2人が着ているのは昨日買った服だ。
ゼンは黒のズボンと白地に黄色の縁取りの入ったシャツ、イチは白地に黄色の縁取りの入ったワンピースタイプのものだ。
中々の見立てだと自画自賛する。
「こんないい服を着させていただいていいのでしょうか?」
ゼンが遠慮がちに言ってきたが、2人とも中々気に入ったのかうれしそうだ。
うんうん。
「いいんだよ。安物だしね。よし、朝食を食べよう。ほら、座った座った!」
「「はい。」」
「じゃあごゆっくりー。」
「いただきまーす。」
「「いただきます。」」
「「おいしい・・・。」」
下級の冒険者や下町の貧乏な家庭では極々一般的なレベルの朝食なのだが、2人はまたも感極まったように用意されている朝食をあっという間に食べてしまった。
まだまだ栄養が足りていないのだろう。
「ルカちゃん、おかわりちょうだーい。」
「はーい。ちょっと待っててー。」
おかわりを頼むとルカちゃんが手際よく2人と1匹の皿におかわりを配膳してくれた。
「「え・・・」」
「ほら、腹いっぱい食べな。」
「「あ、ありがとうございます!」」
「にゃー。」
2人は涙を浮かべながら、おかわりも食べきった。
1匹も満足そうに鳴いた。
お前は食べすぎだ。




