45 やっぱり名物シチュー
2人を連れて猫の宿に戻る。
宿のご飯が美味しくて家も借りずにずっとここに宿を取っている。
美味しいご飯は何物にも代えがたいものだ。
宿に戻って受付に行く。
「ただいま戻りました。」
「あらあら。お帰りなさい。今回は長かったわねー。そちらは?」
「新しい仲間、です。部屋は空いてますか?」
「えーっとー。3人部屋で良ければ空いているけど、2人部屋は今は空いてなくてー。1人部屋なら空いてるけど割高よー?」
「うーん。どうするかな。でもイチは女の子だし別の部屋がいいよなぁ。」
「一人は嫌、です。」
袖を掴まれて上目使いで懇願された。
中々の破壊力でした。
イチ恐ろしい子。
「う、うん。分かったよ。3人部屋にしよう。ね?」
「はい!」
うん、いい笑顔だ。
まあまだ2人とも心細いだろうし、落ち着くまでは仕方ないよね?
3人部屋を借りて、とりあえず裏庭の井戸のところに行く。
2人は満足に体を拭く事も許されなかったようでかなり汚れている。
髪の毛も辛うじて銀髪だと分かるが、くすんでしまっているし、くっついてしまっていたりする。
という事で日の高い内に体を洗っておく。
井戸から水を汲み、初級魔法のヒートで水を温める。
ヒートは温水を作る魔法だ。
熱湯は作れない。あくまで温水が作れる魔法だ。
こういう時は便利だが、こういう時にしか使えない用途が限られた魔法だ。
魔力もそこそこ消費するので、一般人が多用することは難しい。
まあ改造してあるので俺のヒートは熱湯も作れるけど。
これまた便利魔法だ。
温水を作ってはぶっ掛け、作ってはぶっ掛けてきれいにしていく。
石鹸も使って洗っていく。
この世界にも石鹸はあった。
正式にはアポと呼ばれる木の樹液を固めたものだが、まるっきり石鹸なので、俺はそう呼んでいる。
リンスやトリートメントはない。
なので髪の毛はギシギシだ。
お金持ちは油を使っているらしい。
今度調べてみようかな。
そうこう言っている内に洗い終わった。
ついでに自分とシロもまとめて洗って、途中から若干遊びになっていた。
楽しかったです。
ドライの初級魔法で乾かして、服を着たら、食堂に行く。
中途半端な時間だが、誰かいるだろう。
と思ったが食堂には誰も居なかった。
奥の厨房に声を掛けてみる。
「ロードーさーん!」
しばらくすると奥から熊のように大きい厳つい大男がゆっくり出て来た。
2人が緊張しているのが分かる。
うんうん。そうなるよね。
「ロドさん。こんにちは。何か食べさせてくださいな。」
「・・・3人か。座ってろ。・・・」
「はーい。」
大男、もといロドさんはそう言ってまた厨房の方へ戻っていった。
「あ、あのご主人様。あの人は・・・。」
「あの人はこの宿の主人で料理人のロドさん。無口で熊みたいだけどいい人だよ。」
「はあ・・・。」
「それよりご主人様は止めない?なんかこそばゆいよ。」
日本人の頃の記憶からちょっといいかもとか思ってしまったが、これから仲間として動いてもらうし、あまり奴隷というのを表に出す気は無いので呼び方は変えたい。
ただの貧乏冒険者がご主人様呼びされてたら、ギョっとするだろうし。
するよね?
「あの、えっと、では、お名前は・・・?」
「あれ?言ってなかったっけ?ごめん。俺はソーマだ。こっちはシロな。今はしがない冒険者兼練成師かな。」
「ではソーマ様で。」
「いやソーマでいいよ。俺も2人のことをイチとゼンって呼ぶからさ。」
「ですが・・・」
そういう訳にはいかないと誇示されてソーマ様になってしまった。
まあ仕方ない。
ロドさんの代わりにルカちゃんがお盆に名物のシチューとパンを載せて持ってきてくれた。
「お帰りなさい。どうぞー。」
「ルカちゃん、ありがとう。」
シチューとパンの入ったバスケットが目の前に置かれるといい匂いが漂ってくる。
ゼンとイチの目は釘付けだ。
若干ヨダレも垂れている。
「いっただっきまーす。」
俺は早速シチューを食べる。
「やっぱりうまーい。」
見るとゼンとイチはまだ手をつけていなかった。
「見てないで冷めないうちに食べな。おかわりしてもいいぞ!」
あるかどうかも分からないのに適当に発言する。
最悪屋台にでも行けば、何とでもなるのだ。
ようやく2人はスプーンに手を伸ばしてシチューに手をつけた。
「「おいしい・・・。」」
それだけ呟くと2人は夢中でシチューをかき込んだ。
そんな2人を微笑ましく思いながら、俺もシチューとパンを食べる。
「「・・・・・・グッ、ンーンー、」」
慌てて食べた2人は同時に咽に詰める。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。おかわりもちゃんとあるからね。」
ルカちゃんがみんなに水を持って来てくれた。
「「ゴクゴクゴクゴク。ぷはー。た、助かりました。ありがとうございます。」」
「いえいえ、どういたしまして。」
「ルカちゃん、シチューのおかわりちょーだい。」
「はい。ちょっと待ってくださいね。」
「僕も!」「わたしも!」「にゃー!」
「はいはい。」
そう言ってルカちゃんはおかわりを持って来てくれた。
そのおかわりもぺろりと平らげてなんとか落ち着いたようだ。
「ありがとうございます。美味しかったです。」
「はい。どういたしまして。」
イチとルカちゃんが丁寧にお礼を言い合っていて、なんだかほっこりする。
イチは美少女と言ってもいい顔立ちをしており、服をもうちょっと整えれば文句なしの美少女の誕生だ。
ルカちゃんは宿の看板娘で、元気でしっかり者でお客さんたちからも人気が高い。
顔立ちもかわいらしいので、人気が高いのも頷ける。
美少女が2人も並ぶと目の保養にいいね。
早めにイチの服を揃えてあげよう。そうしよう。
「ルカちゃん、ありがとう。ごちそうさま。ロドさんに美味しかったって伝えておいてね。」
「はい。お父さんも喜びます。」
あの熊のような厳ついロドさんが喜んでいる姿は想像ができないが、親子の間では分かるものがあるのだろう。
2人もルカちゃんにお礼を言ってから、食堂を後にした。




