42 料理スキル
ここから町までは歩いて数時間かかる。
今は既に日が暮れかけているため、今日のうちに辿り着くのは不可能だ。
森はもうすぐ抜けられるため、今日は森を抜けたところで野営する。
野営とはつまりキャンプだ。
俺は今手ぶらだが、ストレージリングがあるため、常にどこでもキャンプ装備完備だ。
森を抜けたところに大きな岩がある。
その横にキャンプを張る。
この場所は街道を行く人がよくキャンプを張っている場所のため、少しだけ整備されている。
柵などがある訳ではないが、テントや馬車が留められるように少し開けていて、焚き火がしやすいように石組みで竃が組んで合ったりする。
俺はそこにテントと薪を出す。
テントは2人用くらいのテントだが、まあ子供3人なら入れるだろう。
テントは畳まずにストレージに入れているため、杭で固定したら完成だ。
薪を竃に並べて、火の初級魔法で火を点ける。
薪と一緒に秋に山で拾っていた落ち葉も一緒にくべるとあっという間に焚き火が完成だ。
魔法のお陰で種火の勢いもライターより強いから楽だ。
魔力量は個人差があるから、俺みたいに多用する人はあまりいないらしい。
どうやら俺はレベル差がかなりあるミンさんやムンさんよりも魔力が多いみたいで、二人よりも練成魔法を連射できて羨ましがられた。
火が出来る頃にはあたりはどんどん暗くなっていく。
ふと二人を見ると肩を寄せ合って、離れたところからこちらを見ていた。
なんで?
「どうしたんだ?こっちに来なよ。」
「いえ、大丈夫です。」
「・・・?なにが?・・・ああ、もしかして奴隷は火の近くにいたらいけないとか言われてた?」
「・・・はい。」
答えたのは兄のゼンくんだが、妹のイチちゃんも揃って首を縦に振った。
うーん。根深いな。
「俺はそんなこと言わないからこっちに来なよ。そんな離れてたら話も出来ないし、寂しいだろ?」
「にゃー。」
俺の足元でシロも鳴いた。
シロは俺が作業をしている間、俺の後ろを付いて回る。
特に何をするでもなく、付いて回るのだ。
しかも段々と気配が分からなくなってきている。
恐ろしい子。
そんなシロに毒気を抜かれたのか、安心したのか二人は目配せをしつつもこちらに来てくれた。
うんうん。
火を囲むってキャンプの醍醐味だよね。
今日は人が多いので、スープでも作るかな?
狼の肉は固くて食用には向かないから、在庫から見繕う。
鍋に水を入れて、市場で買った野菜と奮発してオーク肉を適当に切って入れる。
味付けはとりあえず岩塩。
出汁の素が欲しい。昆布とか、鰹節とか。
無いものねだりしても仕方がないので、干した茸を入れる。
うーん。
野生の味。
あ、そういえば。
「ねえ、イチちゃんって料理得意?」
「え。」
「いやね、二人を鑑定させてもらった時にイチちゃんは料理スキルを持ってたから得意なのかなって思ってね。」
「あ、えっと、、。」
「イチは料理上手だよ。二人で暮らしてた時も上手だったんだ!」
ゼンくんが自分のことの様に答えてくれた。
誇らしいのかな。
「じゃあちょっとコレ味見してみてくれない?何か微妙でさぁ。どうしらたいいかな?」
おずおずといった様子で俺から作りかけのスープを受け取り、味見してくれた。
「・・・甘み。・・・」
「ん?甘み?甘みが足りない?」
「はい。たぶん。果物とかがあれば・・・。」
「おお、果物か!何がいいかな?リコの実かオレンの実かライチの実があるよ。」
「リコの実がいいと思います。」
「じゃあコレお願い。」
「はい。」
俺からリコの実を受け取ると手際よく皮を剥き、切ってから鍋に投入していた。
ちなみにオレンはみかん系、ライチはライチだ。
しばらく煮込むといい匂いがしてきた。
リコの甘い香りがいいアクセントになっている気がする。
「もういいかな?」
「・・・はい。」
イチちゃんは鍋を見ながら少し考えて頷いた。
「よーし。じゃあ食べよう!」
俺は人数分取り出した器にスープを注いで、パンを籠ごと取り出した。
市場で買い溜めしたパンだ。
こういう買い溜めを頻繁にするからお金が中々溜まらないのだ。
分かっているが、買える時に買っておかないと何があるか分からないのだ。
夕方に市場に行くと投売りされているのでそれを買っている。
ストレージのお陰で悪くならないからついつい多めに買ってしまうのだ。
安くても大量に買うと結構な額に・・・。
まあいいじゃん。
中々いい感じの夕飯になったと思う。
パンに温かいスープとオーク肉串。
うん、十分だ。
スープを作る傍らで適当に串に刺して焼いていたオーク肉串もいい感じに焼けた。
こっちは岩塩だけの味付けだが、これがまた上手いのだ。
シロは俺より大きい肉塊の串だ。
中はおそらくまだ生だが、もう食いついている。
なんて早業。
まじリスペクト。
「じゃあ食べようか。はむ。うん美味い。」
うん美味い。
串焼きももちろん美味いが、スープが絶品になっていた。
そんな特別な食材は入れていないはずなのだが、いつもより格段に美味かった。
リコの実の程好い甘さと酸味がオーク肉の旨味を引き出している。
おお、コレは美味い。
美味いぞ。
なんて語彙力がないんだ。
でも美味いからいい。
ふと見ると二人は手をつけていなかった。
やっぱりアレかな。奴隷は肉を食べてはいけないとかそんなやつ。
野菜代だけで他はタダなんだけどな。
「どうした?食べたくないのか?」
「こんな豪勢なもの食べたら・・・。」
やっぱり遠慮しているみたいだ。
でも視線は釘付けで、涎も垂れそう。
ぐぅー
うん、お腹の音も聞こえましたー。
「食べたいなら食べていいよ。材料なんて殆どタダだし。イチちゃんが味見してくれたから美味しくなったんだし。ここまで歩いて疲れたでしょ。食べな。誰も取ったりしないし、怒ったりしないから。」
「「・・・はい!」」
口に入れたら早かった。
二人は無言でスープを飲み、パンを食べ、串肉を食べた。
途中何度か咽たりしていて、俺が清水を差し出すと慌てて飲み、水の美味しさに驚いていた。
そんじょそこらの水とは訳が違うからな。
魔力を含む清水はその辺の井戸水よりもかなり美味しい。
清水は不純物の少ない美味しい水だが、魔力を含むと更に美味しくなる。
しかもどういう原理かは分からないが体力の回復も早くなるというおまけ付きだ。
俺は慌てる二人を微笑ましく思いながら、追加のパンを出して、自分も食事を続けた。
シロは俺たちが問答をしている間に食べ終わり、すぐに眠りについていた。
大物だ。




