38 カルポ半年
俺が町にやってきて約半年が経つ。
季節はもう秋だ。
秋でも夜は結構冷えるようになってきた。
練成台16号が完成してから、日々町で消費される薬類を製造する傍らで魔法道具の開発を行っていた。
色々と作ったが一番売れたのはやはり魔法のランプだ。
もちろんただのランプではない。
以前に村にいた時に行商のおじさんに見せてもらった魔力を充填できる魔法のランプ。
アレを完成させたのだ。
実はアレの試作品を作成したのはムンさんだった。
試作品は魔力の充填に10分かけたら、1分程光らせることができるといったものだった。
魔法語コードの開発が中々上手くいかずに停滞していたアイテムだったが、工房の端っこに転がっていたのを見つけて一緒に開発を再開することになった。
特にムンさんがハード寄りの魔石と魔法板の接続部分を作成し、ソフト寄りのコードを俺が改良した。
根幹となる魔力を蓄積するコードは出来ていたので、効率を上げるだけでよかったため、比較的簡単だった。
嘘だ。
1ヶ月間悩んで試行錯誤をした結果、まともに使えるレベルにまで持ってこれただけだ。
まだ品質は低品だが実用は可能なレベルになった。
魔力充填の効率アップとライティングの魔力消費効率アップが課題だが、魔力充填の効率アップが難題だった。
魔力消費効率はライティングのコードから余分な部分を消したり書き換えたりと手を加えれば倍の効率にはなったが、魔力充填の効率の方は寧ろ余分なコードが無く、必要最低限しかなかった。
この必要最低限のコードを実現したところは天文学的な確率ですごいことだが、この改良も中々の難題だった。
他のコードから参考になりそうなコードを加えたり、ループを加えたり、同じコードを並べたりと色々試して少しずつ効率アップに扱ぎ付けた。
実現できた効率は2倍だ。
正確には充填1分で2分ほど発光する。
6時間使うためには3時間充填しないといけないけど・・・。
3時間ずっと魔力充填に意識を割かないといけないけど・・・。
効率が逆転しただけでもすごいよね。
これはかなりの大躍進だぞ。
すごいでしょ!!
うん。
微妙なのは分かってる。
そんなに長時間魔力を充填し続けるって苦行だよね。
でもでも魔力操作の訓練にはなる。
ランプ本体を持って充填するのでは不便だと思って、乾電池の様にした。
魔蓄器という名前だ。
どちらかと言うとこちらの方が大発明だ。
この魔蓄器は、魔力の蓄積には魔石を使用し、魔石と魔法板を接続一体化させて、ケースに入れてパッケージングしている。
この魔蓄器をランプ本体のスロットに挿し込むとランプが点く。
元々はランプからの始まったが、魔蓄器単体の方が売れている。
なぜならこの魔蓄器は魔力を充填できるだけでなく、取り出すことができるからだ。
まだ取り出すのにはそこそこ時間がかかってしまうし、ある程度の魔力操作技術が必要なため、戦闘中のタンクのような使い方はできないが、魔力ポーションを使わずに魔力を回復できる手段があると言うのは魔法使いにとっては垂涎の的だ。
魔力の蓄積には魔石を使用しているため、貯めておける魔力量も少ないのが今後の課題だ。ともあれ、魔蓄器の発明はこの小さな町に革命を齎し、人気商品になって、俺たちの懐を温め手暮れることになった。
そんな訳で最近は懐に余裕もできてきたので、魔術書店でいくつか魔術書を購入して勉強したり、店を巡って美味しいものを発掘したり、新しい魔法道具を作ったりとやっている。
そうそう、魔術書と言えば、使役契約魔法の魔術書を手に入れて、シロとの使役契約を結んだ。
契約魔法を発動した時に契約スキルは発現しなかった。
当然、契約も結べなかった。
だが、諦め切れなかった俺はコードの改造に乗り出した。
だって高かったんだもの。
改造を繰り返して調べた結果、見事使役契約を結ぶことができた。
魔術書に書かれていたコードには契約スキルに関するコードが含まれていた。
その部分を削除した結果、契約スキルが無くても契約を結ぶことは出来ることがわかった。
ただ、契約スキルの補助がない場合、使役される方の合意が無いと成功しない。
コードを細かく調べて分かったことだが、俺が削除したところが合意に関する部分だったようで、契約スキルでその合意を補完する記述だった。
シロとの場合は既に合意済みのため、障害にならなかったと言うことらしい。
それはさておき、使役契約を結んだ変化は、旅人の道標での転移時に触れていなくても良くなったくらいで、ステータス面やコミュニケーション面での変化は特に無かった。
元々シロとは何となく意思疎通ができていたし、懐いていたし。
発見と言えば、スラムで見た奴隷契約と使役契約のコードは違うということだ。
関連する魔法語やコード部分はあるが、全体の構成が異なっていた。
これはそれぞれの性質が異なるせいだと思われる。
奴隷契約は一方的に制限を設けるのに対して、使役契約は相互の助け合いのようなものだ。
そして契約魔法には契約をする魔法とそれを解除する魔法というのが別々になっている。
そのため、俺が使える奴隷契約の魔法は契約だけで解除は別の魔法を覚える必要があるということになる。
契約の変更や解除には権利者の同意が必要で、勝手に奴隷を解放したりすることはできないみたいだ。
奴隷か。ファンタジーだな。
いや魔法が既にファンタジーか。
入手した魔術書はどれも下級のもので、とりあえずは数で攻めた。
使役魔法魔術書 使役契約、使役解除
下級魔術書(火) ファイアボール、ファイアボールズ、ファイアアロー、パワーアップ
下級魔術書(風) ウインドボール、ウインドボールズ、トルネード、スピードアップ
下級魔術書(土) ストーンボール、ストーンボールズ、ソールウォール、ガードアップ
この4冊で3800貨だ。やばい。
この魔術書の購入に稼ぎの殆どを注ぎ込んだ。やばい。
その後に収入が無ければ、2,3日で所持金が尽きるくらいだった。
しかし、このおかげで強化系の魔法やウォール系の魔法が増えて魔法の幅が非常に広がった。
他の魔法使いたちは得意な1属性か、多くても2属性しか覚えないが、俺は無属性なので属性には拘らず、使い勝手で選ぶ。
攻撃としてはエアショットが一番使いやすいけど、範囲攻撃は考え中だ。
魔法道具や魔法の開発だけでなく、ちゃんと冒険者としても活動している。
目的が練成用の素材探しを兼ねていたから、ちゃんとしていたとは言えないかもしれないけど。
大きかったのがオークの討伐だ。
この辺りでは滅多に出現しないが、一般的には忌み嫌われているのがオークだ。
この世界のオークはファンタジーのテンプレ通り、醜悪な二足歩行の豚で、多種族の女性を苗床にする最低な魔物だ。
獣人にも豚獣人と言うのがいるらしいのだが、オークは全く話が通じない。
邪悪で、気性が荒く、力が強く、生命力が高く、美味しい。
そう美味しいのだ。
オーク肉が美味しいのはファンタジーのテンプレだよね。
この世界ではこのテンプレが守られている。
一般的には嫌われているが、食材としては好まれているのがオークだ。
「見つけたら狩り尽せ」が冒険者の間での合言葉だ。
俺も見つけたら積極的に狩っている。
ストレージには既に10匹分のオーク肉各種がストックされている。
正直、消費しきれない。
その内の半数と同時に遭遇してしまった時は死ぬかと思った。
先にも言ったが、オークは生命力が高い。
それはつまり中々死なないってことで、攻撃が掠っただけでは全く止まらないのだ。
腹を貫かれようと、腕を焼かれようと、残った体で襲い掛かってくる。
剣は刺さらないくらい皮膚が頑丈で攻撃手段がエアショットだけだった。
シロの炎は皮膚は焼けたが行動不能にするほどではなかった。
その時は何とか脳天にぶち込んで倒しきったが、シロと二人でもっと強くなろうと誓い合った。(と思っている)
この半年で金欠になりもしたが、概ね安定した生活を送れるようになってきた、と思う。
安定した生活が送れるように、これからもがんばっていこう。
と、決意を新たにしていたのだが、安定とはかけ離れた光景が目の前にはあった。
ていうか絶体絶命だ。




