37 16号
コードを分割する方法を思いついてから早ひと月。
水文字形成魔法は何とか形になった。
魔法文字と長いことにらめっこを続けたおかげで魔法についても発見があった。
魔法の呪文は正しくソフトウェアのプログラミングのような作り方ができることがわかった。
所謂関数の考え方が使えたのだ。
あるひとまとまりのコードを詠唱した後で、複数回同じコードを詠唱する場合には関数として呼び出して省略することができた。
C言語とかそういうソフトウェアと同じように自作で関数を作って呼び出すと言ったことができた。
これによって関数で関数を作って、更に関数を作ってとすることで複雑になったが、多少詠唱を短くすることが出来た。
正直、水文字形成魔法は短くする必要はなかったのだが、趣味である。
水文字形成魔法の目的は魔法板の文字を魔法で描くために作った魔法なので、少しずつ文字を作っていけばいい。
なので複雑なものを作る必要性は全くないのだが、趣味である。
そんなこんなで試作練成台6号の文字の書き込みが終わった。
後は練成で定着させたら完成のはずだ。
長かった。
ここまで2ヶ月かかった。
その間、狼を狩ったり、熊を狩ったり、おっきい蟹を狩ったりしたが、全部美味しかったです。
そして気付いたらEランクになってました。
美味しかったおっきい蟹が実はDランクのロックタランチュラという魔物で危険な魔物だったらく、ギルドに素材の買取をお願いしたらランクが上がった。
名前はタランチュラだが、蜘蛛ではなく蟹だ。
ロックとあるが岩のように硬いだけで岩じゃない。
名前は勘違いが定着したもののようだ。
もの悲し。
ようし。出来た。
美味しかったおっきな蟹に思いを馳せている内に試作練成台6号が完成した。
名前:練成台16号
種類:練成台、魔法道具
等級:希少級
品質:中
説明:純ミスリル製のいい練成台。
ミスリルのみで作られた贅沢な一品。
魔法記述は普通。
記述に使用されている魔法溶液は可も無く不可もなく普通。
なぜに16号!?
ロケットパンチ!?
これ試作6号なのに!?
いやいや前はこんなの入ってなかったし!!
訳分からんぞーー!!
はぁはぁはぁはぁ。
まあいい。
中品質になったし。
説明は普通普通と連呼されてて気にならなくはないけどな。
これでどこでも練成し放題だ!
「お?どうした?何か作ったのかい?見せてみなよ。」
「あ、ミンさん。はい。どうぞ。」
「こいつは練成台かい?ずいぶん綺麗だね。これはミスリルかい?」
「はい。ミスリルです。」
「ん?こいつはもしかして純ミスリルかい!?こんな質のいいミスリルどこで手に入れたんだい!?」
「あうあうあうあう。」
興奮したミンさんは俺を揺さぶる。
高レベルのミンさんがまだまだ低レベルの俺をグラングランと揺さぶる。
興奮しているからか、手加減があまりなく、首が痛いし、目が回るし、気持ち悪い。
あ、やばい。
・・・
目が覚めると俺は部屋の隅で転がっていた。
地味に痛い。
近くではミンさんとムンさんが俺が作った練成台16号に群がり、やいのやいのやっていた。
「そんなにですか?」
「おお!目を覚ましたかい!そうだよ。すごいものだよ。純ミスリル!」
「そうだぞそうだぞ!すごいぞ!純ミスリル!」
「大国や技術先進国の工房にでも行かないと高性能な精錬器なんてないからね!純ミスリル!」
「これだけの量なら1万、いや10万貨はくだらねぇ!純ミスリル!」
「はあ。」
テンションが狂って、語尾に純ミスリルと付ける様になってしまった二人を見ながら、材料しか見てくれてないなと少し悲しくなった。
「1本入ります?」
俺はそう言ってストレージに余っていたミスリルのインゴットを2本取り出した。
「「!!!!!」」
二人は声にならない声を上げて無言で手を伸ばしてきた。
幽霊みたい。
「「ハッ!!」」
二人は同時にはっとして首を横に振った。
「いやいやこんな高価なものを貰うわけにはいかないよ。」
「そうだそうだ。こんな純度の高い高品質なものを貰うわけにはいかねぇな。」
と言いつつ目は赤く血走り、凝視している。
「そういわずに。これまでも道具とか知識とか色々と数え切れないくらいに頂いているのでそのお礼と言うことで。これ拾ったものですし。」
「そうかい!悪いね!」
「そうかい!悪いな!」
二人はほぼ即答でミスリルのインゴットを抱きかかえ確保していた。
素直な人たちである。
「うへへ。これで何作ろうかなー。」
「イヒヒ。これがあればアレを作れる。」
考え方もほぼ一緒だ。
これで入手先を誤魔化せていればいいなぁ。




