34 ゴブリンの迷宮2
迷宮についておさらいしていたら、他のパーティは先に迷宮に足を踏み入れて行っていた。
遅ればせながら俺たちも行こう。
「じゃあ、行こうか。シロ。」
「にゃーん。」
俺たちはフラグを立てつつも迷宮を順調に進む。
ゴブリン迷宮は大きな蟻の巣のようになっている。
天然の洞窟というよりは、廃坑道といった雰囲気だ。
つまり真っ暗だ。
俺はライトボールの魔法で灯りを確保して洞窟を進む。
ライトボールはカリオ村の岩塩坑道の時にも使用した光の玉を離れた位置に発生させる魔法だ。
俺は俺たちの前方に光の玉を作り、俺たちは少し影になるように配置して進む。
ちょっとした目暗ましだ。
しないよりはいいくらいのものだ。
俺たちは俺のステータスブーストによる魔力量にものを言わせてライトボールを浮かべたまま洞窟を進んだ。
まだ何も出てこない。
寂しい。
俺たちはとりあえずまっすぐ迷宮の最深部を目指している。
今回の目標は、依頼の達成と迷宮の攻略だ。
ノートに書いてあった称号の中に迷宮を攻略することで取得できるものがあった。
100箇所の攻略が必要なので、まだまだ先は長いが何事もコツコツとやっていくのが大事だ。
まあ適当に歩くだけだと味気ないと言うのもあるが。
「にゃ。」
シロが耳元で小さく鳴いた。
どうやら敵が出たようだ。
洞窟の奥から姿を現したのは、まあゴブリンだった。
ただ5匹いた。
あれー?
ギルドで聞いた話と違うぞー?
3匹じゃないのー?
と、のんびりと考えている内にシロが生み出した炎の礫がゴブリン達に襲い掛かる。
ゴブリン達もこちらには気付いていたようだが、速攻で炎が飛んでくるとは思っていなかったようで大混乱だ。
炎の礫をモロに受けた3匹は悶えていて既に戦闘不能だろう。
俺は混乱している残りの2匹に接近して剣を二振りして首を刎ね飛ばした。
先制攻撃が決まればこんなものだ。
シロのスキル陽炎で生み出す炎は魔法と違って溜めが殆ど無い。
強い炎を生み出そうとしたら溜めは必要になるが、賢いシロは俺のエアショットを見て、小さな炎を凝縮して礫を作ることで速攻性と高威力を実現していた。
高速思考のある俺でも詠唱はまだまだ遅いので魔法の撃ち合いになるとまず勝てない。
まだ炎の礫の数が少ないため、範囲外に避けることができるので回避は可能だがレベルが上がっていったら手が付けられないのではないかと思っている。
幻影まで混ぜてきたらと思うと恐ろしいやら頼もしいやらだ。
倒したゴブリンをストレージに回収して先に進む。
ゴブリン迷宮の入り口から最奥までの地図はギルドで売られていたから買っておいた。
たったの10貨だった。
迷宮の地図ってもっと高額でふんだくられるものだと思っていたが意外と良心的だった。
ギルドとしては、討伐依頼を出さずに済むように何とか冒険者たちにゴブリン狩りをしてもらいたいという思惑があるようだ。
秘書子さんが教えてくれた。
いい人だ。
そんな事を考えつつも手を休めることなくゴブリンを倒しては進み、倒しては進みを繰り返した。
確かにゴブリンしか出ないが、数がおかしい。
3匹以下じゃなくて3匹以上だ。
先ほどのグループは8匹もいた。
この規模になると入り口で分かれた他の初心者パーティでは対処しきれないかもしれない。
俺の場合はレベル以上のステータスがあるため、まだ余裕があるがこう多いと鬱陶しい。
素材の剥ぎ取りをしないことと、まっすぐ最奥を目指していることで聞いていたよりも早く最奥が見えてきた。
地図によると次の分岐を真ん中に進めば最奥の広場に辿り着ける。
あれだけフラグを立てたのに救出イベントとかが起きなかった。
いやきっと帰りか?
うん、帰りに期待しよう。
変な期待を胸に俺たちは最奥の広場に辿り着いた。
そこにいたのは・・・
フラグを立てた冒険者がいるはずも無く、入り口の影から広場を覗き込んで見つけたのは、ただの大量のゴブリンだ。
俺たちより早く最奥に辿り着ける訳がないんだ。
分かっていたさ。
分かってはいたけど、期待してしまうものじゃないか。
テンプレじゃないか!
はい。
という事で、ゴブリンの大群です。
多分30匹はいる。
中には通常のゴブリンよりも体格のいいのもいて、ざっと見たところ最大レベルは17のゴブリンリーダーだ。
他に杖を持ったゴブリンメイジLv15に、体格の大きいホブゴブリンLv14などがいた。
まだあちらはこちらに気付いていないようなので、先制攻撃で一気に行こう。
俺は詠唱を開始し、それに気付いたゴブリン達が思い思いに叫び声をあげる。
その群れに向かってシロは陽炎の炎の玉を生み出し、ゴブリンの集団の両端に向かって飛ばす。
シロの生み出した炎の玉はゴブリンの群れに到達して激しい音と光を上げつつ、爆発した。
この爆発自体はそこまで殺傷力のあるものではないが、音と光と爆風はゴブリンを吹き飛ばし、混乱させるには十分だ。
俺は詠唱の終わった魔法を発動する。
「ラピッド エアショット!!」
陽炎の炎で団子状態になった集団の中心付近に向かってエアショットを連射する。
「ラピッド」はそのまま「連射」の意味だ。
魔力を込め続けると連射できるように改良したのだ。
気を抜くと連射しすぎてしまい、魔力欠乏を引き起こしてしまうが、何度も詠唱をしなくてもいいため高効率だ。
マシンガンの様な乱射ではなく、単発を連射するというものだ。
連続で撃ちまくるだけならラピッドでは無く、複数の弾を作るマルチだ。
俺が名づけただけだが使い分けができるようにした。
多分マルチの方は別の魔法が既存にありそうだと思っている。
少しずつ斜線を変えながら10発を放ち終えると、立っているゴブリンは残っていなかった。
エアショットは掠めただけできれいにその部分がきれいに抉られるため、殆どのゴブリンは原型を留めていた。
エアショットは点への攻撃のため、当たり所によっては高確率で生き残る。
まだ半数のゴブリンは生き残っているようだが、殆ど死に体だ。
残りをシロの炎の礫とエアショット(単発)でサクッと倒す。
一番レベルの高かったゴブリンリーダーは最初の連射で頭を撃ち抜かれていた。
出落ちである。
ゴブリンたちを倒すと奥に宝箱が出現した。
ジェリー迷宮よりは強いが低ランクの迷宮なのでそんなにいいものは出ないだろうとは思いつつも期待してしまうのは仕方ないよね。




