32 錬成台
今日も今日とて練成だ。
冒険者ランクを上げてから、討伐系や採集系の依頼を受けて外出する日と練成修行をする日を交互にすることにした。
どちらもできることが増えてきて楽しくなってきたので平等だ。
昨日はイノシシ退治をしてきた。
近くの畑に最近毎日のようにやってきては土を掘り返したりと害をなしていたらしく依頼が出された。
イノシシと言っても鍛えていない一般人では危険な相手で駆け出し冒険者でもその突撃をくらったら、最悪死に至る。
ボアという名前でレベルは14もあった。
ゴブリンより明らかに強い。
エアショットで長距離から狙撃したら一撃だったけど。
隠れていない相手なんて楽勝だね。
出てくるまで待っている間、農家の人に新鮮な野菜を食べさせてもらった。
美味しかったから、ちょっと貰っておいた。
そんな訳で今日は練成の日だ。
最近もまだ薬系ばかり作っている。
薬は消耗品なので毎日一定の需要があって、卸先からの催促がいつも来るそうだ。
練成には魔力を消耗するので日に大量に作ると言うのも難しい。
ミンさんムンさんでもポーションを20本も作れたらいい方らしい。
魔力ポーションや解毒ポーションなどになると更に魔力を消費するし、作業工程も多いため、もっと少なくなる。
普通にレシピの完成している薬だけを作っている訳では無く、品質向上や性能向上、新薬開発など他にもすることはある。
魔法板の研究もあって、やることはいくらでもあるが、魔力は有限であるため、そこまで一気には進まない。
製造も開発もコツコツ地道な積み重ねが大事なのだ。
もっとチートがよかったよー。
今日のノルマの生産を済ませたら、俺は魔法道具の研究をしている。
基本的な魔法道具の作り方はムンさんに教えてもらったが今の俺には道具がない。
そう練成台だ。
魔法道具の核である魔法板の練成にも練成台を使用する。
魔法道具屋で見た練成台(小)で2500貨もする。
今の俺には買えない値段だ。
根無し草は辛い。
生産作業にはミンさんのところで練成台を借りているが、個人的な研究にはやはり自分の練成台が欲しい。
なので自作できないかと思っている。
幸い工房にはミンさんとムンさんの練成台があるため、コードの解析は容易だ。
2台ある練成台のコードにはほとんど差は無く、サイズが違うくらいだった。
だがその性能は異なっていた。
それは練成台の材質と形状の影響だろう。
コードが発生させる影響力を無駄なく使うにはミンさんの使っている練成台のような円形がいいらしい。
ただ材質がよく分からない。
魔法金属が使われていることは分かるのだが、単一の金属では無く、混ざり物が入っているようでそれが性能を大きく向上させていそうだと言うのは分かった。
その混ざり物がどんな物なのかが分からない。
俺の鑑定さんの力でも流石にそこまでは分からなかった。
仕方ないので材料を集めて作ってみるしかない。
作ってみるしかないが、どうやって作ろう?
練成台は魔法金属の台だ。
金属の台を作れるのは、鍛冶か?
「そうだ。鍛冶屋に行こう。」
「にゃー。」
「どうしたんだい?急に。」
「金属の台を作りに鍛冶屋に行こうと思います。」
「そんなもん何に使うんだい?」
「練成台の素体にしようかと。」
「練成台を作る気かい!?」
「はい。」
「そりゃまた無茶だね。」
「無茶ですか?魔法板のコードは分かっているので素体さえあれば作れそうかと思ったんですけど。」
「その素体が問題さね。こんな量の魔法金属を用意するのも困難だし、練成台に使われている添加物も公開されてないから研究が必要だしね。」
「材料は何とかしますし、添加物も魔力と親和性の高い素材を試してみようかと。」
「何とかって・・・。まあやってみないと始まらないけどねぇ。じゃあ、自分で小さいのから作ってみたらどうだい?工房の奥にムンが使ってた炉が残ってるから。」
「炉、ですか?」
「そうさ。自分の魔力で動かす古いやつがあったはずだよ。最近は魔石動力の炉を使ってるからしまってあったはずさ。」
「おお。そんなのがあるんですね。」
「自分の魔力を使うから長時間は使えないけどね。」
「いいですいいです。十分です。」
「ちょっと待ってな。」
工房の奥にあった炉で実験開始だ。
まず魔法金属を取り出します。
ルームの倉庫に入っていたインゴットである。
今回使う魔法金属はミスリルだ。
この世界でも一番よく知られている魔法金属だ。
炉に突っ込んで、魔力を流していく。
この炉すごいな。
あまり熱くないのに金属が融けていっている。
どういう仕組みだ?
後で見てみよう。
参考になるかもしれない。
「あ。」
融かしてから気がついたが、型がない。
意味がない。
急いで型を作った。
型はただの土だ。
円柱の形状に型を作って、再度炉に魔力を流す。
融けた金属を型に流し込む。
うむ。
冷えたかどうかはどうやって確かめればいいのだろう?
分からないのでとりあえず放置して、コード用の溶液を作る。
材料は最低限だ。
スフィアと魔石と森で採取した素材だ。
地竜の素材も考えたが、粉末にすることが現状できないので、その辺で入手したものでとりあえずは作ってみる。
素材を粉末にして混ぜ合わせて溶液化の練成魔法で溶液にする。
この練成魔法はやばい能力だと思ったが、素材にスフィアと魔石が指定されていて、この関連文字を抜くと意味のないコードになってしまうというニッチな魔法だった。
実質コード用溶液の作成にしか使えない魔法だ。
便利だが、なんだか腑に落ちない。
スフィアと魔石以外の素材はどうなっているのか。
見た目は全て液体になっている様に見えるが、粉末のままなのか?
よく分からない。
とにかくこれでコード用の魔法溶液ができた。
溶液を作っている間に素体の台座の方は冷えて固まった。
次はこの溶液でコードを書いていく。
溶液をインクとして、筆で書いていく。
ムンさんもこの方法で魔法板を作っているらしいので、これが一般的な記述方法なのだろう。
筆って。
ちょっと文字が曲がったり、変なところに溶液が付いたりしたらやり直しだ。
集中してやろう。
「遅くなってきたし、そろそろ切り上げろや。」
「え?あれ、もう夕方ですか。」
「おう。もう夕方だぞ。」
「あー、でももうちょっとなんで最後までやっておきます。」
「そうかい。まあ根を詰め過ぎるなよ。人のことは言えねぇけどな。イヒヒ。」
「はーい。気をつけます。」
集中してたら長い時間かかっていたみたいだ。
もうちょっとだ。
書ききってしまおう。
最後の記述を書き終わって、一通りの確認を終えた。
「よし。あとは焼き付けたら完成だ。」
最後は焼付けだ。
実際に焼いている訳ではないが、焼付けと呼ばれている。
正しく魔法言語を理解するなら定着という意味になる。
仮書きした文字を素体に定着させる工程だ。
定着の練成魔法を唱え、素体となったミスリル台にかけた。
定着の魔法をかけた台には俺が書いた文字が定着し、拭き取ろうとしても取れなかった。
ここまでは上手くいった。
これでちゃんと練成ができれば成功だが。
早速、下級ポーションを作ってみる。
練成前のものを用意していたので、すぐだ。
試作練成台に試薬を置き、練成魔法ピュアを唱える。
光が試作練成台に吸い込まれ、輝きを放つ。
試作練成台から試薬に光が移り、光が段々と収まっていく。
・・・成功か?
できた下級ポーション(?)を鑑定してみる。
名前:下級ポーション
種類:ポーション
等級:普通
品質:低
うん。できた。
一応成功した。
品質が低だけど、成功は成功だ。
うん。俺すごい。
試作練成台を鑑定してみる。
名前:練成台
種類:練成台、魔法道具
等級:希少級
品質:粗悪
説明:純ミスリル製の素体はいい練成台。
ミスリルのみで作られた贅沢な一品。
魔法記述の品質が悪く、全てを台無しにしている。
記述に使用されている魔法溶液は可も無く不可もなく普通。
おいっ!鑑定さん。酷評過ぎない!?
一応形は成しているんだから全てではないでしょ!?
時々鑑定さんの説明書きに悪意を感じる。
まあいい。
手書きのコードには限界を感じたのも事実だし、何か方法を考えよう。




