30 錬成
無事にFランクにランクアップできた俺は上機嫌でギルドを後にした。
スピカさんとの模擬戦で体力をほぼ全て使ったため、今日はもう依頼を受ける気がなくなったため、いつもより早いがミンさんのところに行くことにした。
練成師としての修行は、まだ本格的な練成には入っていない。
この1週間は一般的な薬の勉強と薬草や鉱物、生物素材の基本的な加工方法を教えてもらっていた。
ほとんど見よう見真似だったが、本職の練成師の作業を手本に出来たのでかなり身についたと思う。
「こんにちはー。」
「にゃあー。」
「あいよー。あれ?もう来たのかい?今日は早いじゃないか。」
「実はさっき冒険者ランクがFに上がったんです。今日は試験だけ受けて依頼は受けなかったんで。」
「おお!そうなのかい!よかったねぇー!」
バシッ!バシッ!
いつものようにミンさんは俺の肩を力強く叩いてきた。
模擬戦で体力を使い果たしてまだ回復しきっていなかった俺はいつもより多めによろけてしまった。
「なんだい?情けないねぇ、これくらいでよろけてたら魔物にやられちまうよ!」
「ちょっと模擬戦で限界まで体力を使ってしまって。へへ。」
「おいおい。体力使い切ったからって魔物は待ってくれないよ。気をつけなよ。」
「わかってますって。だから何も依頼を受けなかった訳ですし、模擬戦でなかったらここまで体力を使い切ることもしなかったですよ。やばそうなら逃げます。」キリッ
「なんだい。分かってるんだね!うんうん。いいことだ!」
「イヒヒ。ミンの一撃は魔物より強いから気をつけな。イヒヒ。」
そんなことをいいながら奥の工房からムンさんがやってきた。
「ああん?なんだってー!?」
「おお怖い。イッヒッヒ。」
「まったく。
そうだ。じゃあお祝いでもしようかね。」
「え!?いや悪いですよ。」
「お、珍しい。ミンがそんなことを言うなんて。イヒヒ。」
「そうだろそうだろ。崇めろ!ということで昼からは練成やってみるかい?」
「なんだそっちか。でもまあそろそろやってみてもいいかもしれねぇなぁ。イヒヒ。」
「!いいんですか!?やりたいです!」
「にゃあ。」
「うんうん。じゃあとりあえずは昼ご飯かね。ソーマも食べな!すぐ出来るから。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
という訳でミンさんに昼ご飯をご馳走になって午後から初めての練成をすることになった。
お昼はステーキとパンだった。
何の肉かは分からなかったが、脂が多めで500gくらいある豪快なものだった。
正直多い。
ミンさんとムンさんは大体いつもこれくらいらしい。
ぺロリと平らげていた。
ちなみにシロもペロリだった。
みんな一体どこにそんなに入っているんだろう。
ちょっと胸焼けがした。
「じゃあまずは普通に下級ポーションを作ってみるかね。」
「はい!」
「材料は傷薬と一緒だね。性能に色を付けたりするのに添加物を入れたりもするけど、初めては最低限の素材だけでやってみるよ。」
「はい!」
「じゃあ途中までは一緒だからやってみな。」
俺は教えてもらった手順に沿って作業をしていった。
薬草をすり潰して適量の水で煮ていく。
十分煮詰めたら一度ろ過する。
「よし。じゃあいよいよだね。」
「はい。」
「今回はこれを使うよ。」
ミンさんが指したのはミンさんがよく使っている練成台だ。
サイズは直径30cm程度の円柱のような形をしている。
魔法道具屋クラインで見た練成台(小)より一回り大きく、使い込まれてはいるがしっかりと磨かれてきれいな台だ。
掃除しているのはもっぱらムンさんらしい。
綺麗好きで掃除好きなんだそうだ。
ろ過して得られた溶液(ほぼ傷薬)を練成台の上に置き、両手で練成台を触る。
そして教えてもらった練成術の呪文を唱える。
「□□ ** %% ●●# ・・・ ピュア。」
呪文を唱えると胸に入れていたスフィアを通して光が生まれる。
いつもは目の前に現れるコードが練成台に吸い込まれていき、練成台に光が灯る。
コマンドによって発動した魔法の効果で溶液が仄かに光を放ち、しばらくして消えた。
「いい感じだね。」
「おおー。これで完成ですか?」
「そうだね。瓶詰めしたら完成だよ。」
「やったー!」
「出来は、・・・普通だね。」
「普通だな。」
「普通ですか。」
「ああ、普通だ。やったな普通。よかったな普通。イヒヒ。」
「そんな普通普通言わないでくださいよ。」
「いいじゃないか普通。普通なら店に売れるぞ。品質良すぎると扱いに困るからな。よかったな普通で。」
「そうなんですか。」
「そうなんだ。」
「へー。」
「ほー。」
「アホなことやってないで次行くよ!」
「「はーい。」」
さっき使った魔法ピュアは錬成魔法である。
ピュアは薬効を引き出すための魔法で、強化魔法の一種だ。
下級ポーションなどの魔法薬を作る場合はこのピュアの魔法でできるらしい。
ただ、中級以上の物を作るには【薬師】のスキルが必要らしい。
ピュアは【薬師】スキルの代わりとして開発されたものでまだスキルの代用には至っていないそうだ。
ちなみにカルポの町で【薬師】スキルを持っているのはミンさんだけらしい。
何気に重要人物だ。
【薬師】スキルの発現条件は薬効を引き出すことで、ピュアの魔法を使ったら才能がある者であればまず間違いなく取得できるらしい。
取得できなかった俺は才能なしということだ。
...悲しくなってきた。
その後、下級魔力ポーションや下級解毒ポーション、筋力増強剤などを作った。
全部安定の普通品質だ。
普通の何が悪い!
ミンさんは、手際もいいし、充分だと言ってくれている。
充分だ。
今日の最後に少しだけムンさんが魔法道具の作り方についてレクチャーしてくれた。
魔法道具の核は魔法板だ。
板と言っているが板状でなくてもいい。
作りやすいのは板状だが、リング状でも球状でも棒状でもいい。
要は魔法コードが刻めればいいのだ。
魔法板の素材には様々なものを使う。
木材でもいいらしいが、一般的には魔法金属が使われる。
それよりも重要な素材はコードを刻む文字部分だ。
この文字にはスフィアと魔石の粉末と、魔法金属や魔物素材などの魔力と親和性の高い素材の粉末が使われる。
これらの粉末を錬成魔法を駆使して溶液にして、魔法板に焼き付けて作る。
この溶液の調合比は各錬成師の秘密なんだそうだ。
教えてはもらえなかった。
自分の調合比を見つけるのも修行の一環で、それを見つけるのが一人前の錬成師の証だそうだ。
もちろん基本の調合は教えてくれるそうだ。
試行錯誤だな。




