29 ランクアップ試験
練成師のミンさんとムンさんに弟子入りしてから1週間が経った。
その間ギルドの掲示板に張られていた溝掃除依頼を受けつつ、遺失物捜索依頼で該当したものを達成していったら、「溝掃除の人」とか「探し物係り」とか変な名前を付けられた。
俺より小さな子に「あ!溝掃除のお兄さんだ!」と言われたのはショックだった。
お兄さんなのは良かったけど!
既に溝掃除は貼り出される前に渡される始末である。
まだ受けたのは5件だけなのに、押し付けられてる感が半端ない。
どんだけ人気ないんだ溝掃除。
俺からしたらぼろ儲けなんだけどな。
追加4件で入手したのがこれだ。(明らかゴミは省く)
・報酬50貨×4=200貨
・銅貨46枚(46貨)
・大銅貨8枚(80貨)
・安物の指輪×3
・安物の髪飾り×2
・割れた腕輪×2
・そこそこの指輪×2
・錆びて欠けた短剣
・血のこびり付いた短剣×3
これだけで約10日分の生活費になった。
短剣が結構落ちているのに驚いたが、狩りをしている人が多いのだから、あっても不思議ではないなと思うことにした。
また、拾ったアクセサリーの遺失物捜索依頼では、結婚指輪が見つかったり、形見の髪飾りが見つかったり、結婚指輪が見つかったりして報酬が得られた。
この世界にも結婚指輪という習慣があることとドブに落としている人が多いことに驚いた。
この報酬がなんと全部で380貨になった。
余裕で生活できそうだ。ウハウハ。
「ソーマくん。ちょっといいですか?」
今日も今日とてギルドにやってきて依頼を物色していたら、三角メガネ子さんから声がかかった。
秘書子さんである。
え、名前?
聞いてないや。
「なんですか?また溝ですか?溝なんですか?溝なんですよね?」
やけくそである。
「違います。」
違ったらしい。
「?じゃあ何でしょう?」
「ソーマくん。そろそろランクアップしませんか?討伐経験があることが分かっているので条件的には問題ないんですよ。」
「やったー。ありがとうございます。どれだけ依頼受ければいいんだろうって思ってたんです。」
「?・・・あ!もしかして声かけられるの待ってました?ハンスさんからの推薦もあったので、すぐにでも試験受けられたんですよ?」
「え、えええーーーー!そーなんですかー?うわー。」
「あの時お誘いする前に帰ってしまったから、嫌なのかな?って思ってたりしたのですが、勘違いだったみたいですね。ごめんなさいね。」
「あ、いやいや大丈夫です。溝掃除で稼げましたし!」
「そう言って貰えるとありがたいです。じゃあ、Fランク試験について説明しますね。」
「はい。お願いします。」
「Fランクへのラックアップ試験は模擬戦か試射です。模擬戦と言っても本格的なものではなくて動きを見るだけなので、ある程度運動神経が良くて武器の打ち込みがしっかり出来るようなら合格になります。試射の方は弓か魔法の腕前を見て判断します。」
「ある程度戦う力があれば合格ってことですね。」
「そうなります。試験官はギルドの職員が務めますからちょっと待ってもらったらすぐに試験を受けられますがどうしますか?」
「じゃあ、すぐお願いします。」
「はい。承りました。」
「では試験はどうしますか?模擬戦か試射かで選べますけど。ソーマくんは魔法使いだから試射の方ですかね?」
「いえ、模擬戦でお願いします。」
「わかりました。今の時間は空いてるのですぐに準備できると思うので、ちょっと声をかけるまで待っていてくださいね。」
「はーい。」
「にゃーあ。」
特に待つこともなくギルドに併設されている訓練場に案内された。
模擬戦にしたのは、試射だと改造した魔法を見せることになりそうだったからだ。
改造していない元の魔法は使い慣れていないから、いまいち精度が悪くてストレスが溜まる。
模擬戦ならその辺りは気にしなくてもいいだろうし、動けたらいいみたいなので問題ないはずだ。
身体能力だけなら一人前レベルだと思う。
体の使い方とかがまだしっくり来ないから要訓練ではあるが。
試験官は普通の大人の男の人だった。
これといった特徴がない中肉中背で普通の大人、といった感じだ。
だが、雰囲気は武人のそれだと思う。
普通に立っているように見えて、どの方向にもすぐに動けるような重心のかけ方をしている。
というか普通に達人だ。
レベル38で槍術の才というスキルを持っている。
名前はスピカさん。
スピアと1文字違いだ。おしい。
「君がソーマくんだね。ボクが試験官のスピカだ。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「うん。ソーマくんは武器は何を使うんだい?ここにある模擬戦用のものから好きなのを選ぶといいよ。」
そう言ってスピカさんは刃の潰された模擬槍を取った。
俺は模擬ショートソードを取った。
ロングソードも持ってみたが俺の体格ではまだ扱いが難しそうだったので諦めた。
槍も使ってみたいが今日のところは剣でいこう。
「よし。じゃあちょっと打ち合ってみようか。全力で来ていいよ。」
「はい!」
よーし!やるぞー!
俺の体裁きなんてど素人だ。
なんてったって型なんて知らないからな!
なので俺はブーストされたステータスに任せて剣を振りかぶり、力一杯踏み出した。
「は!」
「!!!」
ガキン!!!!
俺の振り下ろした剣とスピカさんの構えた槍が大きな音と火花をあげてぶつかった。
俺に出来るのはただ剣を振り回すだけだ。
型なんてない。
ただスピカさんに向かって全力で振り切る。
と見せかけて、途中で強引に軌道を変えてみたりもした。
最初は俺の速さに驚いたようだが、流石は高レベルな達人だった。
俺が手を変え品を変えして打ち込んでも、時には受けられ、時には流され、時には避けられ、完全に捌かれていた。
俺もこんな風に出来るのだろうかと高速思考を巡らせた。
冬の間も剣を振り続けたことで多少は動きが分かった気でいたがやはり対人戦は別物だった。
高速思考によって確実に動きをモノにしつつ、色々な動きを試すことが出来た。
そして、俺は、
力尽きて倒れた。
「ぜー、ぜー、ぜー、はー、はー・・・」
「うん。中々驚いたよ。ソーマくん、かなり動けるね。魔法使いだって聞いていたんだけど、鍛えれば前線でも十分やっていけそうだね。でも動きがまだまだ素人だね。師匠とかいないのかい?打ち合いの中で段々と動きが良くなっていっていたから飲み込みも早そうだね。すごいよ。神童ってやつかな?」
「ぜー、ぜー、ぜー、はー、はー・・・」
俺がぜーぜー言っている横でスピカさんはケロッとした顔で講評をしてくれていた。
高速思考のおかげで聞き漏らすこともなく、ごもっともな意見を聞いていた。
まだ息が整わないけどな。
「師匠がいないならどこかの道場に通うか、もしくは週一でギルド主催で開いてる訓練日に参加してみるといいと思うよ。」
「はー、はー、訓練日、ですか?はー・・・」
「ああ。ギルドが主催していて参加は無料でギルドメンバーが集まって合同で訓練を行っているんだ。道場や師匠を請うと金銭がかかったり、時間に縛られたりするからね。一方で対人の訓練をしようと思うと相手が必要だからね。そういった人たちを集めて訓練会を開いているんだ。」
「へー。勉強になりそうです。」
「そうだね。色々な武器を持った人がいるからそういう訓練にもなるしね。」
「そうなんですね。次はいつなんですか?」
「明後日だね。」
「それには参加してみようかな。」
「うんうん。それがいいよ。それはさておき、試験の方は合格だよ。おねでとう。」
「はい!ありがとうございます。」
「じゃあ手続きに戻ろうか。」
俺たちは秘書子さんのところに戻り、俺はランクの上がったギルドカードを手に入れた。
見た目は一緒で書かれたランクがFになっただけだ。
金綺羅になったりはしないらしい。
ちょっと残念だ。




