28 普通の薬
出て来た女の子に強引に家の中に引きずり込まれたへたれな俺。
もう認めるよ。
「あんたがクライン坊の言っていたソーマって子だろ?」
「えっとはい、ソーマです。こっちはシロです。」
「うんうん。聞いてるよ。あたしはミンだ。小人族だからこんななりだがあんたより年上だよ。敬いな!」
ミンさんは冗談めかしてそんな事を言ってきた。
俺を家に引きずり込んだのはこの家の主である練成師のミンさんだった。
怖い人ではない。
この辺りでは珍しい小人族の女性で見た目は女の子だが、俺より大分年上だ。
年齢は聞いたわけでは無くて鑑定した。
女性に年齢を聞くのはマナー違反だよね。
「どうした?お客か?」
「ああそうだよ。昨日クラインの坊主が言ってた子だよ。あれはうちの旦那のムンだよ。」
「ああ、言ってたやつか。そいつはご愁傷様だ。イヒヒ。」
「ああん!?」
「おれぁムンだ。よろしくな。イヒヒ。(ゴンッ!)痛てー・・・」
「余計なこと言うからだよ!」
「へいへい。」
すごい騒がしい人たちだ。
はじめて見た小人族に感動する暇もない。
見た目は俺よりも少し下くらいの10歳程度に見えるが、俺よりかなり大人だ。
合法ロリショタですね。
一部には受けそうである。
小人族は手先が器用な者が多く、全てではないが細工師や薬師や彫金師を多く排出している。
その中でも魔力を持つ者は練成師になることが多く、ミンさんとムンさんも例に漏れず、魔力があったから練成師になったらしい。
出身はこの町ではなく、別の町だそうだ。
この町に練成師が少ないことから仕事に事欠かないと言うことで住み着いたらしい。
練成師ならどこに行っても引く手数多だと思うが、この町ののんびりした雰囲気が好きなんだそうだ。
閑話休題。
俺は俺の事情として、練成の技術は学びたいが、本格的な練成師には不器用的な理由から成れないだろうことと、冒険者として身を立てて行きたいことを伝えた。
自分で言うのもなんだが、俺の不器用レベルは半端じゃない。
調剤なんて丁寧に測って作ってもかなり失敗した。
呪いにでも掛かっているかのごとくだ。
嫌になる。
そのことを伝えると、
「あはははは。」
「イヒヒヒヒ。」
「ぐぬぬ。」
「にゃぁ。」
「そんな笑われるとなんかイラっとします。」
「あははは、いや悪い悪い。でもそんなん聞いたことないからさ。」
「イヒヒヒ、天才?ブッ。イヒヒヒ。」
「ぐぬぬ。」
「まあ、一度やって見せてみなよ。何かが間違ってたのかもしれないしさ。」
「フー。そうそう。薬師の才能がないだけで、練成は別かもしれねぇしな。」
やっと笑いが落ち着いた二人が慰めてくれたが、直前まで笑っていた二人なので含み笑いが残ってる。
でも暗い雰囲気にはならず、俺も素直になれたのだから、この人たちの人となりも分かると言うものだ。
ということで俺は村を出てから久しぶりに薬の作成をしてみることにした。
材料はミンさんが用意してくれた工房にあった余り素材だ。
工房は家の奥にあって表からは見えない位置にあった。
レシピは普通の調剤系の傷薬だ。
魔力素材は使わないためポーションほどの効果は無いが子供がこけたりした時の擦り傷なんかにはよく使われる普通の傷薬だ。
適当に切ったメディケ草を水を入れた鍋に入れて火にかけようとしたところでダメ出しが入った。
「はい、ダメー。薬草はちゃんとすり潰さないと薬効成分がちゃんと抽出できないよ。」
「!!!」
「こりゃ基本的なやり方が出来てないね。誰に習ったんだい?」
「独学というか見よう見まねというか。」
「それだから微妙な出来だったんじゃないかね?まあその辺は学べば済む話だから簡単に直せるだろう。とりあえずはこれですり潰してみな。」
「はい!」
な、なんて盲点!
いやちょっと考えたら当たり前なのかもしれないけど、完全に抜けてた。
高速思考スキルも発想力という観点ではその優位性が発揮できていない領域だ。
俺の場合、元々発想力は並以下で、学校の成績表にも型にはまったことについてはすごい力を発揮するが独創性が足りない、とよく書かれていた。
転生しても発想力は伸びていないようで、俺は不足を補う為にも色々な知識を吸収する必要がありそうだ。
独創性に対抗するために、経験を積むのだ!
思いを新たにゴリゴリゴリゴリ。
すり鉢でゴリゴリゴリゴリ。
薬草をゴリゴリゴリゴリ。
適度にすり潰したところで煮て傷薬を作っていった。
名前:傷薬
等級:普通
品質:普通
おおー。
普通に出来たー!!
すげー!!
普通になった!!
やったー!!
うぴょー!!
俺のテンションが変になっているのには理由がある。
俺が前に作った傷薬はこんな感じだ。
名前:傷薬
等級:普通
品質:粗悪
そう。粗悪品質である。
粗悪である。
それが今日作ったら普通品質になったんだ!
快挙だ!
2段階特進だ!
違うけどー!
そんな俺のハイテンションを余所に。
「普通だね。」
「普通だな。」
「普通でいいじゃないですか!」
「まあそうだね。作業も丁寧だったし、問題なさそうで良かったよ。で、どうする?うちで働いてみるかい?」
「仕事はいくらでもあるからな。まともな手が増えるなら歓迎だなぁ。道具作りも仕込んでやるぜぇ。イヒヒ。」
「お願いします!」
「うんうん。元気でよろしい!」
バシッ!
結構な強さで肩を叩かれてよろけてしまった。
俺のステータスは普通の人の2.6倍になっているからかなり高いはずなんだけど、レベル差があるとやっぱり太刀打ちできない部分はある。
二人ともレベル30を超えた猛者だ。
この町でなくても一流の冒険者並の強さだ。
何でこんな田舎町にいるのか不思議だが人に歴史ありだろう。
そんなこんなで明日からは練成師の修行(手伝い)の加わって忙しくなるぞ!




