26 魔法道具屋
昼過ぎには倉庫整理依頼を終えた俺はギルドに戻る前に練成台を見に行くことにした。
練成台は魔法道具の一種なので、魔法道具屋に置いてある。
薬屋トッポの近くにもあったので立ち寄ってみようと思う。
鑑定鑑定!
立ち寄った魔法道具屋クラインは周りの他の店舗に比べて造りがしっかりした建物だった。
扱っている商品がものだけに防犯にも気を使っているのだろう。
店内には所狭しとモノが置いてあった。
気を使っているはずなのだが、なんだか雑然としている。
「いらっしゃいませー!」
元気な声が聞こえた。
「少し見させて欲しいんですけどいいですか?」
「あ、いいよいいよ、暇だから。」
だそうだ。
暇らしい。
店内に置いてあるものは、その殆どが見た目からは用途不明だった。
屋台市場で見た変な置物と同じ様な感じで、くねくねと変な形をしているものもあったり、ただの木箱のようなものもあった。
いくつか鑑定してみたが、性能的にも意味不明なものが多かった。
名前:魔法のランタン
種類:魔法道具
等級:普通
品質:低
説明:魔力を込めると光りを発するランタン。
使用者が魔力を込め続ける必要がある。
燃費は悪い。
価格:1000貨
名前:奇妙なオブジェ
種類:魔法道具
等級:普通
品質:普通
属性:光
説明:魔石を嵌めると奇妙に光る。
価格:3000貨
名前:魔法の箱
種類:箱
等級:普通
品質:普通
説明:入れたものが消える不思議な箱。
カラクリ箱。もう一度開くと出てくる。
価格:1500貨
名前:氷箱
種類:魔法道具
等級:普通
品質:普通
属性:水
説明:魔石を嵌めると氷が生成される箱。
魔石を嵌めたまま放っておくと氷が生成され続けて破裂する。
価格:5000貨
名前:浮遊板
種類:魔法道具
等級:普通
品質:低
属性:無
説明:気持ち浮く板。
物を載せたら浮かなくなる。
価格:500貨
どれも微妙である。
しかも非常に高い。
最低でも500貨以上はする。
使えない道具の癖に、庶民には手が出ない値段だ。
分解してコードを拝見することも気軽にできない。
浮遊板だけはコードが丸見えだったけど、真新しい発見は無かった。
ちょっとだけ知っていた種類のコードの補完ができた程度だ。
方向制御系のコードだな。
ここは練成台の値段だけ見て退散するかな。
この分だとべらぼうに高そうだ。
「すいません。練成台か練成器って置いてないですか?」
「あるよ!こっちです!」
無駄に元気がいい。
暇つぶしができてうれしいのだろうか。
「今、うちに置いてるのはこの2つだ。」
名前:練成台(小)
種類:魔法道具、練成器
等級:普通
品質:低
説明:練成を補助するための台。
価格:2500貨
名前:練成台(大)
種類:魔法道具、練成器
等級:普通
品質:普通
説明:練成を補助するための台。
価格:20000貨
おお、高い。
練成台が置いてあったのは、店の奥だった。
そこには表よりも実用性の高そうなものが置いてあった。
魔石動力の魔法のランタンとか、火を発生させる道具とか、給水器のようなものとか。
まあ値段も中々のものだった。
肝心の練成台だが、他の魔法道具に比べると安いように感じた。
練成台(大)の20000貨は高いが、サイズや用途から考えると安いのでは?とも思った。
大のサイズは約1m×2m、小のサイズは約20cm×20cmくらいだ。
最低価格とかがあるのかもしれないが、どうなんだろう。
この価格が高いのか安いのかよく分からない。
小の方の2500貨ならまだ手が届くかもしれない。
今は全然無理だけど薬を売ったり、最悪ルームにあったインゴットを売れば余裕で稼げる。
出所が怪しいから慎重にしないとまずいだろうけど。
「これって他の魔法道具より安いような気がするんですけど、何でですか?」
「ああ。練成台って使うやつが限られてるし、使う人間も増やしたいし、っていう国の思惑があって、値段を低めにしなくちゃいけないんですよ。まあそれでも高いけどね。」
「そういうことか。」
「これから勉強しようかってところかい?」
「はい、そうです。まだ練成魔法も使えませんけど。先立つものが無くて・・・。」
「そうかい。そうかい。・・・」
「でも魔法薬とか作れるようになったら、生活もしやすくなるかなって思うので。一応魔法は使えるので。」
「・・・、なんなら知り合いの練成師を紹介してあげようか?」
「いいんですか?あ、でも俺って制作系の才能が無いみたいですぐクビになっちゃくかも知れないですけど。」
「?どういうことだい?」
「調剤回復薬って知ってますか?」
「ああ、材料さえ入手できれば誰でも、は言いすぎだが、作れる回復薬だな。」
「それ作ってるんですけど、品質のいい材料を使ってもあまりいい品質の薬が作れないんですよ。丁寧にやってるんですけど、なぜか出来が良くなくて。ヘタクソだなってよく言われてました。」
「ははは。まあ慣れが足りないんじゃないか?とりあえず紹介してやるから試してみなよ。この業界っていつも人手不足だから素人からでもやる気さえあれば歓迎されるよ。」
「はあ。そうなんですか。じゃあお言葉に甘えさせてください。」
「ああ。いいよ。さっきトッポさんのところに居ただろ?見かけたんだ。」
「はい。」
「あの人に付き合ってられる人は根気があるやつだけだから、大丈夫だ。」
「あははは・・・。」
確かに。
練成師を紹介してもらった俺は魔法道具屋を後にして、まずはギルドに戻った。
依頼の完了報告がまだだったからだ。
まだ夕方と言うには早い時間だったためか、ギルド内にいる人の数は少なめだった。
俺は受付に行って完了報告をした。
受付は秘書子さんだ。
「依頼完了しました。お願いします。」
「はい。受け付けます。ちょっと待っててね。」
ちょっと待つ。
うん。話しやすい。大事なことだ。
「はい。問題ありません。これが報酬です。初報酬ですね。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「にゃー。」
アルバイトや社会人をやっていたから、そこまで感慨も湧かないかと思ったのだが、久しぶりに稼いだお金だったからかちょっとうれしかった。
「あそうだ。ちょっと聞きたいんですけど、討伐証明受付と魔石の買取ってどこですればいいんですか?町に来る途中で倒したやつを持ってるんですけど。」
「もう討伐の経験があるんですね。一人で討伐したんですか?」
「いえ、行商隊と一緒だったので、護衛の蒼穹の双牙のパーティの人たちと一緒でした。」
「ハンスさんが言ってたすごい魔法使いの子ってソーマくんだったんですね。」
「え、えっとたぶんそうです。すごくはないですけど。」
「でも十分戦えるってことでしょ?それはすごいことですよ。」
「はあ。」
「あ、買取と討伐証明でしたね。どちらもここでできますよ。量が多い場合とか大きいものの場合は奥にも専用の受付があるのでそっちでも大丈夫ですよ。」
「そうですか。じゃあ今日はこれをお願いします。」
俺は袋に手を入れてストレージから取り出したゴブリンの魔石と角を取り出した。
先日戦ったゴブリンをハンスさんに聞きながら解体したものだ。
残った死体は森の中に埋めておいた。
解体に使ったのが下位地竜の爪だったのだが、切れ味が凄すぎて驚かれてしまった。
拾った魔物の爪だと説明したが、いいもの拾ったな!と言われただけで追求は無かった。
いい人である。
ゴブリンの魔石と角を2個ずつで3貨になった。安い。
1食分くらいだ。
ただ、1日6匹倒せば1日の食費分くらいは稼げるから、生活する分には困らないレベルかと思う。
贅沢はできないけど。
討伐証明と魔石の報酬3貨を受け取った俺はとりあえず帰る前に掲示板を見ていくことにした。
明日の仕事を決められたら取っておこうと考えたからだ。
効率のいい仕事でなくても報酬の良さそうなものであればと思ったからだ。
練成師を紹介してもらったが、現在お財布中身が寂しい状態なので、冒険者ランクを上げて討伐依頼を受けられるようにしたい。
仕事の後に時間が余ったら行ってみるくらいの気持ちでいこうと思う。
そういう目論見なので報酬が良くて、あまり人気のなさそうな依頼を見繕ってから帰宅した。




