25 初依頼
スラムをしばらく放浪した後、大通りに無事に戻ることができた俺は、すでに傾き始めた太陽を見てお店巡りを切り上げて宿に変えることにした。
少し早めに戻ったが、昼食をまともに食べていなかった俺とシロはそのまま食堂に向かうことにした。
「ただいま戻りました。」
「あ!お帰りなさい!」
「・・・(ジーン)。」
「・・・?どうしました?」
「あ、いや、何でもないです。」
「?そうですか?」
「はい、そうです。」
「はあ。じゃあ少し早いですけど夕食にしますか?」
「お願いします。」
「にゃあ。」
「はい。じゃあちょっと待っててくださいね。」
ルカちゃんが奥に引っ込んだのを見届けた俺は昨日と同じ席に着いて夕食が来るのを待った。
注文してないけど、名物シチューがあれば後は何でもいいかと思い、気にせず静かに待つことにした。
「にゃあ。」
「ん?シロも楽しみか?」
「にゃ!」
「そうだな。シチュー美味しかったしなー。」
「にゃあー。」
「いやいや。今日は泣かないよ。」
「にゃあ?」
「昨日は久々に美味しいものを食べたから、こみ上げてくるものがあっただけだよ。毎日ああはならないさ。」
「にゃあ。」
「そんなもんだよ。」
シロの泣き声に適当に話をつなげてみた。
ぶっちゃけ独り言である。
でもシロが相槌の如く鳴いてくれるから、独り言に聞こえない。不思議だ。
そんな漫才みたいなことをしていたら、サラさんが料理を持ってきてくれた。
「あらあらー。おかえりなさいー。どうぞー。」
「あ、ありがとうございます。」
今日のメニューは名物シチューと何かの炒め物と黒パンだった。
うん。満足だ。
シロもシチューを貰っていた。
シチューの中に大き目の肉塊が見えた気がするが気にしない。
気にしないったら気にしない。
なぜならもう既にシロの胃袋の中だからだ。
置かれた瞬間消えていた。不思議だ。
心なしかシロが膨れている気がする。
いざ俺も料理を食べようとしたら、まだ目の前にサラさんがいた。
じーっと見られている。
「え、えっと、何でしょうか?」
「いいのよー。気にせずに召し上がれー?」
「はぁ。じゃあ、えっと、いただきます。」
「どうぞー。」
サラさんの視線を気にしつつもおなかが空いていた俺は料理を食べ始めた。
うん。うまい。
「あらあらー。今日は泣かないのー?」
がくっ
「い、いや、泣かないですよ。昨日は久々に美味しいものを食べたから、こみ上げてくるものがあっただけですよ。」
「あらあらー。そうなのー?泣いてもいいのよー?」
「いえ、だから、泣かないですってばー。」
「うふふー。」
どうやらからかわれているらしい。
他にお客もいない時間だから、余裕があるのだろうが、何だか居心地が微妙に悪いぞ。
「にゃー。」
「あらあらー。シロちゃんもう食べたのー?おかわりいるー?それともお肉食べるー?」
「にゃーにゃー。」
どっちもおかわりじゃないのか?
ていうかシロよ。お前のどこにそんなに入るんだ?
サラさんは一度厨房の方に下がってから、焼き肉塊を持ってすぐに戻ってきた。
どう考えても時間が合わない。
しっかり焼かれていそうなのに、すぐに出てきた。これ如何に。
「にゃー♪アグアグアグアグ・・・・」
シロは喜びの声を上げて焼き肉塊にかぶり付き、あっという間に食べきった。
最後にケプッと満腹を表現してその場で丸くなった。
それを見たサラさんもご満悦の表情だ。
まあ、満足ならいいんだけど。
俺は何だか釈然としない思考を何とか押さえ込み、食事を終えて部屋に戻った。
シロは寝てしまったので抱っこである。
いいご身分である。
次の日、朝食にサンドイッチを食べて冒険者ギルドに向かう。
ちなみにこのサンドイッチ。黒パンで作っていたのに固過ぎず、程よい固さだった。
一体どうやって作っているのか不思議である。
そういえばサラさんの旦那さんには未だ合ったことがない。
普段は厨房の奥に居るらしいのだが、無口であまり表に出てこないらしい。
今度会ったら聞いてみよう。
今日は朝早めの時間にギルドに向かったので、他の冒険者も多く集まっていた。
掲示板を見ている者、受付に並んでいる者、これから出発しようとしている者と様々だが活気に溢れていた。
そんな中で俺は自分のランクに見合った依頼を見ていた。
Fランクでも受けられる作業依頼だ。
『依頼札』
ランク制限:なし
種別:作業
内容:倉庫の整理
依頼元:薬屋トッポ
保証金:3貨
報酬:30貨
期限:本日
備考:
細かい作業が多いので丁寧な人を希望。
1日の生活費がぎりぎり稼げるだけの依頼だが、薬屋というのがいい。
鑑定が捗るぜ!
保証金と言うのは、依頼を受ける時に必要になる。
信用を金で買うようなものだ。
ランクの高い依頼には無い場合も多いが、失敗した時のペナルティが厳しかったりする。
ペナルティは色々らしいが、最悪命を取られることもあるとかないとか。
普通はそこまで考える必要はない。
普通にやって失敗したからと言ってペナルティがつくことも無い。
モラルに反したことをやった場合の話だ。
受けたのに無断で中断したり、やったと見せかけてやってなかったりとかそんな感じだ。
倉庫整理の依頼札を持って受付の列に並ぶ。
中には俺よりも小さい子も何人かいた。
俺と似たような雑用系の依頼を受けるのだろう。
俺の持っている倉庫整理依頼はフリーの依頼にしては報酬がいい。
俺は宿屋に泊まっているからぎりぎり1日の生活費だが、町中に住んでいる地元民なら数日分の生活費になる。
にもかかわらず、引く手が無かったのは何かしら問題があるのだろうとは思ったが、俺はお金より薬屋で得られる知識を取った。
いつ同じ様な依頼が出るか分からないから、受けられる時に受けるべきだろうと考えたからだ。
そんな事を考えていたら、俺の番が来た。
受付さんは昨日の人とは違って、もっと若い人だった。
見た目も・・・。
「依頼を受けるだが?」
おっと予想外だ。
「あ、はい。これをお願いします。」
「ちょっどまづでな。」
言いたい事は分かるが、かなり言葉に訛りがある。
いや訛りなのか?わからん。
しかもちょっと素っ気無い。
いや忙しいから仕方ないのか?
隣の受付には昨日の秘書子さんがいて、結構丁寧に対応していた。
うん。やっぱり人によるな。
次はあっちにしよう。
「ギルドガードど保証ぎんを用意じでくろ。」
「はい。」
「ちょっどまづでな。」
「はいどうぞ。ギルドガードも返すでな。札もって依頼人の所に行っでぐれな。」
「わかりました。」
聞き取り難い!
とりあえず引き受けることができたから、薬屋へ行こう。
そして依頼は完了した。
特に変わったイベントはなかった。
内容は、依頼札にあったように倉庫の在庫整理だった。
色々な薬に触れて鑑定ができたおかげで色々とレシピを増やすことができた。
調剤系でない魔法薬のレシピの入手してホクホクだ。
依頼的には特に変わったことはなかったが、しいて言えば依頼人のトッポさんがせっかちで話好きでうるさかったことだ。
トッポさんの性格を知っていれば大抵の人はこの依頼は受けないだろうなと思うくらいにはうるさかった。
俺としては色々聞けてよかったが、少し日を置きたいの確かだ。
今回の依頼で入手したレシピと情報をメモしておこう。
レシピ
・調剤魔力回復薬
・下級ポーション
・下級魔力ポーション
・解毒剤(弱毒)
・解毒剤(痺れ)
・気付け薬
・下級解毒ポーション(万能)
・契約補助剤
・目薬
・痺れ薬
・栄養剤(動物用) 強力
・興奮剤(動物用) 強力
・鎮静剤(動物用) 強力
作成不能レシピ
・中級ポーション
・中級魔力ポーション
・中級解毒ポーション 万能
・魔法薬の作成には練成台と練成魔法の習得が必要。
・薬屋の薬は町の薬剤師や練成師が作っている。
・中級ポーションは【薬師】が作っている。
・俺の作った普通品質調剤回復薬は4貨で売れた。瓶が粗末。
・空の小瓶は2個1貨で買えた。
・トッポさんはリコの実が好み。
・隣の服屋がうるさい。(お相子)
・魔獣調教師という職業があり、獣に対して契約魔法を使う。
・契約補助剤は血を混ぜて使う。
・魔術書店の店主は偏屈じじい。
・トッポさんはガテン系が好み。
大分情報収集ができた。
一部どうでもいい情報もあるが概ねオッケーだ。
昨日見た契約魔法の時のインクは契約補助剤というものだろう。
テイマー用に普通に売られている薬だった。
調剤魔力回復薬も村周辺の森で採取した薬草の中に材料があったので作成は可能だった。
調剤系の薬よりも魔法薬の方が高く売れ、効果も高いので練成魔法と練成台を早く入手したいものだ。




