21 仮身分証
「そこの石の部分に手を置いてくれ。」
ステータスの鑑定には魔法道具を使う。
衛舎の片隅に銀行のATMみたいな装置が鎮座していた。
ATMのタッチパネルの部分に手を置いて鑑定する。
どこまで鑑定されるのか内心かなりビクビクしていた。
名前:ソーマ
レベル:11
性別:男
年齢:13歳
種族:人間
職業:なし
属性:無
称号:
表示された内容を見て、一番の懸念していた種族が表示されたかった事にホッとしていると、横から声がかかった。
「うん、問題なさそうだな。名前はソーマ、で間違いないよな?」
「あ、はい、間違いないです。」
「よし。罪科もなし。その年でレベル11はすごいじゃないか。ちょっと待っててくれな。」
そう言って兵士さんは仮身分証を作ってくれた。
紙に名前やどこから来たかが簡単に書かれており、この国の紋章と作成者のサインがあった。
「こいつを持って行ってくれ。無くさないようにな。」
「はい。」
「そいつはペットかい?」
「にゃあ。」
「あ、はい。そうです。」
「ペットなら首輪か何かさせておけよ。何もつけてないと間違って駆除されることもあるから。」
「そうなんですか。わかりました。ありがとうございます。」
俺は仮身分証を受け取り、手数料として3貨を払い、衛舎を後にした。
3貨は銅貨3枚だ。
お金は行商人に作った薬を売って手に入れておいたやつだ。
衛舎から少し離れたところで俺は息をついた。
「ふう。よかったー。入れたー。」
身分確認に鑑定の魔法道具が使われるのは知っていたため、変な疑いをかけられないかが最大の懸念だったのだ。
ここの衛舎にあった鑑定道具はレベル6の鑑定道具だった。
一般の商人が持っていることの多い鑑定道具がレベル5相当で道具の品質や等級を確認するには十分な性能を誇る。
上位の商人やこういう街の入り口にはもっとレベルの高い鑑定道具が配備されていて、ここの鑑定道具のレベルが7以上だったらスキルやら説明やらが表示されてしまって面倒な事になっていただろう。
置いてあった道具も古そうなものだったので、町が小さいことやこの辺りの治安がいいことが幸いしたと思う。
「よし、まずは住む所を確保しに行こう。」
「にゃあ。」
俺はそう独りごち、シロを頭に乗せて歩き出した。
頭の上がシロの定位置だ。
まずは寝床の確保をするため、蒼穹の双牙のハンスさんに聞いた宿屋に向かう。
向かったのは中心部から少し離れた宿屋が多く並ぶ地区にある一軒だ。
少し治安の悪い地区に近いが健全な場所と聞いている。
確かに歓楽街からは離れていて健全ではある。
怪しい素材の店っぽいものの前を通過して、13歳の子供にこんな場所を勧めたハンスさんの常識を疑いつつ、目的の宿に到着した。
宿のランクは低めでそれほど安くもなく普通の値段だが、料理は旨いと評判だそうだ。
宿の1階に食堂があって、宿に泊まらない人でも利用できて、割と人気がある。
家族経営で、厳つい親父とおっとりした女将さんとその子供でやっていて、子供の方は俺と同じ年頃らしい。
ハンスさんは「根はいいこなんだよ。」と言っていた。
はあと相槌を打ったがどういう意味だろう?
辿り着いた宿は古いが割かしきれいだった。
掃除が行き届いているようで、窓もきれいに磨かれていた。
名前は見当たらないが、猫とベッドを模した絵がかかれた看板がかかっていた。
通称「猫の宿」というらしい。
猫がいるのかな?
とりあえず空いているか聞いてみよう。
「すいませーん。」
入るとカウンターがあったが人は居なかったので声をかけた。
すると奥から女の人の声がしてきた。
「はーあいー。ちょっと待ってくださいなー。」
そんな声と共に女将さんと思われる女性が出てきた。
「いらっしゃいませー。お泊りですかー?」
「あ、はい。一人と1匹なんですけど。」
頭の上のシロを指差しながら人数を告げた。
シロは小さいからカバンにでも入れておけばいいのかもしれないけど、しばらくお世話になる予定なので、黙っておいてもいづれバレると思ったので、先に言っておいた。
「あらあらー?かわいい子ねー♪白猫ちゃんねー♪なんてお名前なのかしらー?」
「こいつはシロっていいます。」
「あらあらー。そうなのー。シロちゃんねー。よろしくねー?」
「にゃあ。」
明らかにテンションをあげた女将さんに若干引きつりながら、部屋は取る事ができた。
1人1泊20貨、朝夕二食付きで+5貨、シロは無料だった。
値段的には安くはないが、それほど高いという訳でもない。
宿は清潔だし、コスパはいい方だろうと思う。たぶん。
単純な円換算はできないけど、大体1泊2000円くらいのイメージだ。
物価が全然違うから当てにはならないけど。
俺はとりあえず50貨支払い2泊分を押さえた。
「ルカちゃーん。お客さまの案内してちょーだーいー。」
「はーい。今行くねー。」
女将さん(サラさんというらしい)が呼びかけると奥からしっかりしてそうな女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ!お母さん、お部屋はどこ案内したらいい?」
「えっとー、お部屋の希望とかあるー?」
「いえ、特にないです。」
「そうー。じゃあ、2階の角部屋が空いてたからそこにしましょっかー。裏通りに面してる方だからあんまり人気ないのよ。日当たりは悪くないんだけどねー。」
「ええ、そこでいいですよ。」
「じゃあ、これねー。ルカちゃんお願いねー。」
「はーい。じゃあ、こっちの階段ですよ。あ、食事はすぐそこの食堂になるので来て下さいね。サンドイッチとか持って帰って部屋で食べてもいいですけどね。じゃあ、こっちです。」
「うん、わかった。」
俺はルカちゃんに部屋へ案内してもらった。
部屋は言っていた様に日当たりは良さそうな窓が付いていた。
窓から外を見ると少し暗い雰囲気のある通りが見えたので、こっちが裏通りなんだろう。
部屋はきれいに掃除されていて、ベッドも良さそうだ。
ぶっちゃけゴートさんの所より断然環境がいい。
お金がかかるのでしっかり稼がないといけないな。
「部屋の鍵はここに置いておきますね。宿泊中は基本的には掃除はしないんですけど、して欲しい時には扉に札をかけて置いてくださいね。食事はさっき言ったとおりで、部屋での飲食も特に自由です。あとは、部屋の備品とかは壊さないようにしてくださいね。冒険者の方とかでたまに壊しちゃう人がいて困るんですよね。」
「そうなんだ。分かったよ。」
「あとは、うーん、もうないかな?あ!そうそうお風呂とかは付いてないので、必要ならお湯を持ってきますね。1貨です!」
「あ、そうだよね。うん。わかったよ。必要なら頼むね。」
「はい!あ!あと鍵は無くさないでくださいね!出かける時はカウンターで預けて行ってもらえるといいですよ。じゃあ、ごゆっくりー。」
「ありがとう。」
なんというか嵐のような子だったな。
これから楽しくなりそうだ。




