1 死んだ?
「え?」
目を覚ますとそこは、そこだった。
そう、底だ。
うん、意味が分からない。
「ここ、どこだ?、、、うん?俺、誰だ、、、?」
俺は混乱している。
落ち着け俺。
「落ち着け落ち着けもち着けぺったん!」
「よし。落ち着いた。」
落ち着いたところで、現状確認だ。
整理と言えば、5W1Hだな。
When今はいつ? 2019年5月4日だ。いや2の月1の4日だ。ん?
Whereここはどこ? 谷の底だ。
Who私は誰? 俺は新場相馬だ。いやソラクスだ。ん?
What何があった? 車に轢かれて死んだ。いや魔物にぶっ刺されて死んだ。ん?
Whyなぜここにいる? わからん。いや崖から落ちたから。ん?
Howこれからどうしたらいい? わからん。うん。
はい。わからん。
まず、名前が2つある。
次に、死因が2つある。
そして俺は生きています。
はい。わからん。
これは転生ってやつか?
でも死んだよな?
「ん?」
俺は目線を落として、自分の服装を見た。
腹のところに大きな穴が空いていた。
血もどっちゃり付いていた。
「え?死んだ?」
目の前が真っ黒になった。
眩暈がするぜ。
俺に一体、何が起きたんだ。
簡潔にはまとめられそうにない。
そもそも俺まとめるの苦手だったわ。
順を追って考えていこう。
まず、この血だ。
べっとり付いているが、腹に傷はない。
まったく無いが、服の腹に穴が空いているから俺の血だろう。
でも、俺は生きています。
不思議だ。
もういいや。不思議で片付けよう。
次だ次。
俺は新場相馬だ。
そして、ソラクスだ。
まず、新場相馬。
社会人4年目、周りからはできる人と見られがちだが、実際は手抜きしまくり、サボりまくりの平凡な社員だ。
26歳、彼女なし、交際経験なし。
大型連休中に家でゲーム三昧していて、息抜きがてらコンビニに行ったときに車に轢かれた。
たぶん死んだ。
うん。えらいあっさりしているが、まとめるとこんなもんだ。
味けねぇなあ。
次に、ソラクス。
12歳、兵士だ。というか荷物運びだ。
襲撃を受けて、崖から落ちて、たぶん死んだ。
おお。更にあっさりしている。
俺もまとめる力がついてきたのかな?
ないか。
そういえば、相馬で死ぬ前にスキルを取得って目の前に出てた気がするな。
スキルってゲームみたいだな。
ん?
もしかして転生ってやつ?
ここゲーム世界ってやつ?
おー、すげー。
こんなこともあるんだな。
不思議だな。
よくある創作だと直前までやっていたやつとか、はまってたやつとかのゲーム世界に異世界転生って言うのがテンプレだよな。
あれ?でもマジックキングダムと同じ国名なんて聞いたことないぞ?
ていうかスキルなんてシステムは無かったはずだ。
谷底ステージなんてのも無かったはずだ。
迷宮なんてものも無かったはずだ。
あ、この世界には迷宮なんてのもあるらしい。
というか選択肢の分岐でストーリーを進めるだけのゲームだったから、システムなんてほぼない。
描写で魔法が合ったくらいだ。
ここがゲーム世界だとしても何の役にも立たないな。
ゲーム世界だとは思わないでおこう。
とにかく、俺は転生したらしい。
転生というか、こっちでも死んだんだから復活というか。
少しずつ混乱から回復してきている頭を回転させると、どうやらこの体の中に2つの人格が混ざり合っているらしい。
主人格はどちらかというと相馬かな。
社会人やってたし、26歳だしな。人生経験の差だろう。年齢だけの話だが。
よし、ここまで分かったなら次だ。
分かってないけど次だ。
えっと、何があったんだっけ。
何で谷の底にいるんだっけ。
まずはそこからだな。
俺は、9歳で孤児になった。
生まれは山間の小さな集落だったが、3年前に滅ぼされてしまった。
そこで一人生き残ってしまった俺は国の騎士学校へ放り込まれた。
騎士っていうか兵士養成所だ。
この国はナンブラ王国という小国で、周辺国との戦争が絶えない国だ。
周辺にはニードラ王国、ヌーバラ王国、ネンドラ王国、ノロブラ王国がいる。
ラが好きらしい。
どの国も隣国との小競り合いが絶えず、国交は崩壊している。
そんな訳で兵士がいつでも不足気味だから、孤児はほとんど兵士になるために養成所行きだ。
戦争は多いし、盗賊は多いし、最悪だ。
騎士学校に放り込まれた俺は毎日とくに気力も無く過ごしていた。
人と関わるのも億劫、というか臆病になっていて、浮いていた。
有体に言って、いじめられていた。
殴る蹴るは当たり前、影で罵られ、面と向かっても罵られる。
そんな日々だ。
そんな無為な日々を過ごしていたとき、突然の補給任務命令が下った。
騎士学校の人間は基本的には15歳から戦場に駆り出されていたため、他の人たちも不平不満を漏らしていたが、命令には逆らえない。
補給任務だから戦闘には巻き込まれないと、渋々命令に従っていた。
俺はそもそも逆らっていない。どうでもよかったから。
俺達は補給物資を馬車に載せて、戦線に向けて出発した。
指揮官などの仕官は馬だが、俺達は徒歩だ。移動には時間がかかる。
1日では付くはずも無い。5日間の道程の予定だった。
出発から3日目の夜、今夜の野営地に到着した。
地竜の深谷と呼ばれる危険地帯の近くの開けた場所だった。
地竜の深谷は竜の巣の1つでその名の通り地竜が住んでいる。
とは言っても野営地は谷の上、近くに谷への崖があるだけで、地竜が住んでいる場所ではないし、地竜は基本的に谷の底が生活圏だ。
そのため、谷の上で地竜に襲われたなんて話は聞いたことは無い。
あったとしたら大騒ぎだ。
簡易陣地の構築を行い、夕食も終わり、後は見張りを立てて休むだけとなったそんな時にそれは起きた。
最初に声をあげたのは見張りだった。
「敵襲ーーーーー!!!!!」
とっさに動き出せたのは同行していた現役の兵士と一部の下仕官だけだった。
指揮官やその周辺は、いつの間にかその陣地から消えていた。
人員の殆ど全てを訓練生で構成していた輜重隊がまともに戦える筈も無くどんどん殺されていった。
派手な火の魔法が飛び交い、至るところで火事が起きていた。
正に阿鼻叫喚。
どこかで一際大きな爆発が起きた。
中級か、もしかしたら上級の爆発魔法相当の大爆発だ。
俺や周囲に居たやつらも一緒に爆風で吹っ飛ばされた。
「ぐっ、な、何が起きた?」
遠くに見えたシルエットは、大きなトカゲ。
それは敵味方関係なく吹き飛ばし、暴れまわっていた。
誰かがヒステリックな声を上げた。
「ち、地竜だーーーー!!!!!!」
その声で地竜はこっちを向いてしまった。
俺は内心、うわー、こえーな。と思った。
恐怖が一周して壊れてしまったようだ。
それがこっちへ一直線に向かってきた。
俺は内心、うわー、こえーな。と思った。
ボキャブラリーに乏しいようだ。
「ソクラス!囮になれ!!」
俺は誰かにそれの方に突き飛ばされてしまった。
ボーとしていた俺は何の抵抗もできずに転げてしまい、正面に来てしまった。
俺は地竜の角を腹で受けた。
崖の下に吹っ飛ばされ、そして、俺は崖から落ちた。
「--------。」