16 エアショット
俺はアクティブコマンドを唱え魔法を発動した。
「エアショット!」
俺が呪文を唱えた瞬間、俺と魔物の間に空気の渦が巻いた。
空気が圧縮されて出来た弾丸が魔物に向かって射出されたのだ。
射出された弾丸は魔物の体を貫通して、奥の壁に弾痕を残していた。
この魔法は現時点での俺の最強魔法だ。
改良に改良を重ねて作った。
コンセプトは、「早く速く」である。
詠唱は出来るだけ短く、威力は速度と貫通力で生み出すようにした。
収束と回転のコードを工夫することで、護衛さんのファイアボールよりも短い詠唱で高威力を実現した。
速度も高いので回避も難しいのだ。
いい出来だと思う。
動きを止めていた魔物の体が傾き、倒れた。
「やったか?」
フラグのようなことをつい呟いてしまった。
『「[貪欲]の瘴珠」を取得』
それが原因ではないだろうが、何かが目の前に表れた。
ポップアップしたと言うのが近しい表現だ。
ゲームみたいに空中にウィンドウのようなものが現れて表示された。
なんだこれ?
「あんな風穴をど真ん中に空けられたら流石に大丈夫だろ。すごいじゃないか!ガハハ」
バンッと俺の肩を叩いて豪快に笑うゴートさんだ。
「いつの間にそんな魔法を覚えやがったんだ!?こいつは俺よりかもしれんな!!ガハハ」
バンバンとまだ叩いているが、本気で質問をしているわけではないみたいだ。
そんなに褒められると照れる。
あまり褒められることが無かったからな。
「いや流石にまだまだゴートさんにはかないませんよ。あの連続攻撃が無かったら当てられなかったですし、俺じゃあの攻撃は避けられなかったかもしれませんし。」
「ガハハ。あれくらいお前ならすぐ出来るようになるさ!」
「そ、そうですかね。へへ。」
やっぱり照れる。
実際のところ、やっぱりゴートさんにはまだ敵わない。
魔物の火球はぎりぎり避けられたかもしれないが、ゴートさんの連続攻撃を捌くのは今の俺には不可能だ。
体を壊したとは思えないくらいフットワークが軽いから、距離を取るのも無理がある。
つまり、斧をくらって終了である。
それでも褒められるとうれしいものだ。
と油断していたら、魔物の死体から火の手が上がった。
真っ赤な火が燃え上がり、激しい炎を生み出して死体全体を包み込んだ。
「「!!?」」
「フラグ立てるんじゃなかったー!」
「何わけわかんねぇこと言ってんだよ。あれは大丈夫だ。びっくりしたがな。」
「へ?」
「ファントムキャットって魔物は死んだら勝手に燃え尽きるんだよ。で、生まれるんだ。」
「???」
「だから、燃えたら生まれるんだよ。」
「???」
「まあ、見てればわかる。」
ファントムキャットを包み込んだ炎は煌々と燃え上がり、そして燃え尽きた。
後に残ったのはファントムキャットの灰の山だ。
その灰の山が動いた。
灰の中から小さな猫?が這い出してきた。
灰まみれで真っ黒だ。
「にゃー。」
うん。かわいい。灰まみれだけど。
名前:ファントムキャット
レベル:1
性別:男
種族:幻猫種
属性:炎
称号:なし
スキル:陽炎
説明:ファントムキャットの子供。
死を迎えると同時に新たな命が生まれる幻獣の一種。
記憶や知識は受け継がれないが、生まれたばかりでも幻影を使い身を守る。
普段は森の奥でひっそりと暮らしているが、時たま人里に下りてきては人々に幻を見せて遊ぶ。
どうやらゴートさんの言う燃えたら生まれるというのは、死んでも生まれ変わるという意味だったらしい。
「こいつ大人しいですね。」
「ファントムキャットって魔物は基本的には大人しいやつなんだ。滅多に人を襲ったりはしないんだが、何かの拍子に変異しちまったんだろうな。」
「そうなんですか。」
子猫は俺に抱っこされても大人しくしていた。
「にゃーご。」
あらやだかわいい。
「懐かれたみたいだな。大人しいとは言え一応は魔物なんだがなぁ。テイマーの素養でもあるのかね?」
「どうですかね?動物とか飼っていたこともないので分からないですね。うわっ、こら舐めるな。」
「にゃー。」
どうやら懐かれたらしい。普通の子猫のようにころころしている。
毛は短めで灰色だ。
大きさは両手の掌くらいのサイズで、生まれたばかりなのに元気に俺の肩や頭に上ったりしている。
爪も立てないので、痛くも無いし、賢いのかもしれない。
俺は言わば親の仇みたいなものなのだが、こんなに懐いていいのだろうか?
一体、何を考えているのか。いや考えていないのか?
まあ敵意はなさそうなので、とりあえずはいいのかもしれない。
周囲を見回してみると至るところが黒く焦げ付いていたが、最初に見えていたような融解したような箇所は無かった。
どうやらあれも幻だったようだ。
この坑道の中は殆ど岩塩なので、見えていたような金属が融解したような光景なんておきるはずも無いと今更ながらに思いついた。
咄嗟の判断と言うのは難しい。
あの幻術は幻と言うのが分かっても当たったらやばかったかもしれないから気付いても意味なかったかも知れないけどな。
退避していた村人たちを呼び、撒き散らした水分(犯人は俺)を乾燥させて、早速岩塩の採掘が開始された。
乾燥したのは魔法です。
一般に普及している生活魔法で、そのまんま水分を乾燥させる魔法だ。
乾燥スピードは魔力によるが天日干しよりは早いし、熱を使うわけではないから便利だ。
生活魔法にしてはコードが少し複雑だから使える人は非常に少ない。
俺は騎士学校時代に必須だったので覚えていた。
ただ、魔力の使いすぎで疲れたので、少し外で休憩だ。
もっと魔力が欲しいな。




