15 幻猫
2mを超える炎を纏った猫が雄たけびを上げた。
「ウグゥゥガアアアァァァーーー」
「うああああーーーー」
「でけぇやなー。」
「熱そうやなー。」
「おっそろしいなー。」
「・・・。」
ゴートさんに着いて来た者の言葉である。
順番に村長の息子さん、村人ABC、俺である。
俺は声も出なかった。
見た感じやばすぎだったから。
やっべー。
「お前らは下がってろ!」
ゴートさんは叫んで、一歩前に出た。
「こんなやつ見たことねぇな。何だこいつは。つーかどうやって入り込みやがった。」
その声に俺は意識を取り戻し、気を引き締めた。
「とりあえずはだ。」
名前:ファントムキャット【変異】
レベル:15
性別:男
種族:幻猫種
属性:炎
称号:貪欲
スキル:陽炎、貪欲
説明:ファントムキャットの変異種。
「ゴートさん!そいつはファントムキャットの変異種です!」
「あん!?ファントムキャットだぁ?あれがこんなにでけぇわけが、、、ああそうか、幻影か!」
そう言うやいなやゴートさんは持っていた弓矢で魔物を射た。
だが、矢は魔物の頭をすり抜けて坑道の壁に刺さった。
「やっぱりな!」
その声と共に魔物の巨体から火の玉が飛んできた。
「うわっ」
「おっと」
俺たちが咄嗟に回避できた火球は坑道の壁にぶつかって激しく燃え上がった。
「おいおいマジかよ。」
燃え上がった炎はすぐに消えたが、坑道の壁は黒ずみ、少し融解していた。
「あれ、本物ですかね?」
「さあな。だが、偽者だとしてもあれだけリアルだと精神に作用しそうだ。」
「精神?」
「本当には傷ついていなくても痛みを感じたり、火傷を負わせたりする魔法があんだよ。」
「なるほど。どちらにしてもまずいと。」
「ああ。基本は完全回避だ。本体がどこにいるかもよくわからねぇし。」
ゴートさんでも苦戦しそうな相手みたいだ。
そもそも称号とかスキルを持ってる時点でイレギュラーだ。
普通の人や魔物は称号や特殊なスキルを普通は持っていない。
俺が言うのもなんだが、一握りの存在だけが持つものだ。
それをこの魔物は2つ持っている。
性質もよく分からない。
明らかに強敵だった。
俺とゴートさんは二手に分かれてターゲットを分散させる作戦に出た。
先ほどから飛んでくる火球は単発で速度もそれ程ではないし、火の玉を一旦作ってから飛ばすという手順が必要なようだった。
魔法とは違うようだが、タメが必要なようだ。
そのため、よく見ておけば避けることは難しくない。
ただ、火球の出現場所が毎回微妙に違うのが難点だ。
魔物の幻影の顔の前かと思えば、次はしっぽのあたり、次は足元といったように魔物の周辺ではあるが、少しずつずれている。
ゴートさんも魔物に向かって弓を射ているが、どこに当ててもすり抜けている。
どういうことだ?
本体は幻影の中じゃないのか?
「ゴートさん!魔法を使います!」
「わかった!」
俺は短い魔法を唱えた。
「●●● ・・・ スプラッシュ!」
俺が詠唱すると胸に入れていたスフィアを通して光が生まれ、光の文字が浮かび上がり水が生み出された。
生み出された水は魔物に向かって飛沫を広範囲に飛ばしていった。
この魔法に攻撃力は無い。
ウォーターボールの魔法を改造して、水を広範囲に撒く魔法を作ったものだ。
畑の水遣りのために。
魔法って便利だよね。
俺がぶちまけた水が散布されていき、魔物が生み出していた火球に当たると水蒸気が上がった。
見た目ほどの威力は無かったが、物理的に熱を持った火だったらしい。
火球に当たらなかった水が魔物本体の幻影の方に向かって通過していく。
全く手応えが無い。
幻影の中じゃない!?
どこだ?
水の散布を更に広げていく。
「そこか!!」
何も無い空間で水が弾かれている場所があった。
その場所に向けて水の飛沫を集中させた。
「ヴギャウゥーー!!」
たまらずと言った感じで魔物が姿を現した。
幻影より小さいが、1mくらいはある巨猫だ。
禍々しい角を生やして、幻影より凶悪な顔をしている。
怖い。
「ヴヴヴゥゥゥーー!!」
唸り声を上げて、俺をにらみつけてくる。
怖い。
魔物の注意が俺に向いている内にゴートさんは急接近していた。
振り上げた斧を振り下ろす。
「そらっ!!!」
避けられてしまったが、ゴートさんはかまわず連続で攻撃をしていった。
「そい!おら!!ふん!!とう!!」
悉く避けられているが、ゴートさんの攻撃も相当速い。
避けている魔物もぎりぎりで回避できているようだ。
その隙に俺は次の魔法の詠唱をする。
「◎◎◎ ■■ ・・・」
呪文を唱えると胸に入れていたスフィアを通して光が生まれる。
魔物はゴートさんの攻撃を回避しながら、複数の火球を生み出した。
単発だけではなかったらしい。
ゴートさんは回りこむように素早く動いて回避行動にでた。
火球が同時に打ち出された。
俺はその瞬間を狙ってアクティブコマンドを唱え魔法を発動した。
「エアショット!」




