13 魔法のしゃもじ
冬に入る前に訪れた行商人から作った回復薬と交換で普通よりちょっとだけいいショートソードとナイフと防具を貰い、毎日振っていた。
正直まったく型など知らないし、ゴートさんは弓や斧を使っていたらしく門外漢だったため、自己流だ。
とりあえず振っているだけだが、剣はそこそこの重さがあるため筋力はついてきたと思う。
防具は薄い革の胸当てと脚甲だ。
正直ないよりはマシというぐらいの性能だが、駆け出し冒険者ならこれくらいらしい。
装備を手に入れた俺がやったのは、ルーム経由で地竜の深谷での探索だった。
気配を殺して、谷に出現する魔物を観察していったのだが、さっぱり勝てる気がしなかった。
俺はレベル8の一人前以下のステータスで、地竜の深谷に出現する魔物の多くはレベル25以上のイビルワームとこのワームを捕食するレベル35以上の地竜種たちだ。
俺なんか一撃で死んでしまう。
イビルワームですら罠を張っても無理がある。
ステータス2.1倍があっても無理なものは無理である。
が、この谷にも例外がいる。
谷にいたとき、周囲には何もいないのに音がしていた。
静かにしていたら聞こえるシーンという音ではない。
蚊や蝿が飛んでいる様なブーンという音だ。
サクセスノートにその音の正体が書かれていた。あ、英雄さんの雑学ノートだ。
目をよくよく凝らせば、何かが飛んでいるのが見えた。
しかもいっぱい。
名称:アースピコドラゴン
レベル:10
種族:フライドラゴン
属性:地
説明:極小サイズのドラゴン。ほぼ蚊。
ドラゴンらしく魔法耐性は高く、そこそこ素早い。
主食は魔素。攻撃方法は体当たり。
群れる。
ノートにもその音の正体が書かれていた。
そして倒した時のメリットもだ。
倒した時のメリットは、称号が手に入る。
神級称号[竜殺し]
ドラゴン種を1万体倒したものに送られる
スキル【竜殺し】、ステータスアップの特典がある。
これが結構な効果らしく絶対取得すべきとあった。
ただ、普通にドラゴン種を1万体倒そうと思うと途方も無い困難がある。
そこでノートに書いてあったのがピコドラゴンの乱伐である。
ピコドラゴンはドラゴン種ではあるがステータスも低く、他のドラゴンに比べて倒しやすい。
しかし、鑑定結果にもあったように、ピコドラゴンは魔法耐性が高く、魔法では倒しにくい。
素早さも高く、剣を振り回しても倒せない。そもそも剣を当てるのは無理がある。
板状のものではスピード不足で当たらないし、当たったとしても攻撃力不足になってしまう。
英雄さんは高出力の極大魔法で一網打尽にするという力業で取得したらしい。
今の俺では難しい方法である。
とりあえず俺は色々試してみることにした。
ノートでダメだと書いてあったことも試してみたし、魔法も試してみた。
結果は予想通りダメだったが、それで分かったこともある。
魔法については耐性で耐えているようで避けるそぶりも見せないが、剣や板を振り回したら、素早く回避するのが分かった。
近づいてくるのを見て回避しているような動きをしていたので、目に見えない物理攻撃なら比較的簡単に当てられるのではないかと思った。
そう考えたら1つのアイデアが浮かんだ。
魔法のしゃもじだ。
こんな名前だが立派に武器にもなるはずである。
試しに振り回してみたら、予想通りピコドラゴンは避けなかった。
魔法のしゃもじは質量がないため、振った力だけが攻撃力になるが、物質ではないため空気抵抗がない。
つまり、結構な速度で振れるのだ。
伊達に剣の素振りを毎日していないのだ。
面白いように倒せてあっという間に称号を取得した。
名前:ソーマ
レベル:10
性別:男
年齢:13歳
種族:人間(魔人)
職業:なし
属性:無
罪科:なし
称号:(無敵無双)、(挑戦王)、(竜殺し)
スキル:
鑑定Lv10 max
鑑定眼Lv7
エクストラスキル
竜殺し
ユニークスキル
1回強くてニューゲーム-使用済
高速思考
全言語理解
夢見がち
説明:
享年12歳(仮)。スキルにより復活を果たすと同時に前世の記憶が蘇える。
英雄に認められた次代の英雄候補。
魔人の血が入るも未覚醒状態。血の提供者は■■■■
取得した称号[竜殺し]の効果は、スキル【竜殺し】の取得と、ステータスアップだ。
称号[挑戦王]の時と同じく、垂直跳びで検証した結果、今回の伸び率は1.5倍だ。
取得した3つの称号分の倍率を合わせると2.6倍にもなる。
ステータスだけなら現状でもかなり強くなったと思う。
レベル25と同じレベルか?
いやステータスの伸びがレベルに比例するとは限らないから、単純計算は危険だ。
基本はレベル差10以下を目安に戦闘は行う方針だ。
安全は大事である。
地竜の深谷での探索は、称号[竜殺し]の取得だけではない。
周囲に気を配りつつ、谷底に落ちている地竜の鱗や爪、牙などを拾った。
そういった素材を拾い、鑑定しているとこの谷にいる地竜には劣等地竜、下級地竜、地竜と3種類の地竜がいることが分かった。
谷の上で陣地を襲った地竜は下級地竜で、谷底で出会ったのは地竜だったようだ。
鱗のサイズが一回り以上違ったため、区別が簡単についた。
鱗の強度は地竜がはやり高く、下級の地竜の牙や爪ではうっすら傷が付く程度だった。
ちなみに地竜の牙や爪は見つからなかった。
この谷では地竜が食物連鎖の頂点にいるのだろう。
見つけた地竜の鱗を防具の裏に仕込んでみた。
中々上手くは加工できなくて、ちょっと歪んでしまっているが、無いよりは防御力は上がっているだろう。
地竜だしな。
下級地竜の爪は持ち手を作ればそのままナイフもどきに出来た。
行商人に貰ったナイフよりも切れ味抜群だ。
持ち手は不細工だが。
こういった素材は本格的な冬になる前に集められるだけ集めておいた。
上手く加工すれば最上級の装備になるだろうし、資金源にもなるからだ。
その内、誰かに加工を頼もう。
地竜の素材以外にも谷底の石とか岩とか鉱石とかを適当にストレージに放り込んである。
どれだけ入るかを確かめる意図もあって大量に入れているのだが、まだまだ入りそうだ。
石も何かに使えるかもしれないので無駄にはならないし、谷底の石なので色々含まれているみたいで、ストレージの表示が「地竜の深谷の石」と村の近くで拾った石とは区別されていた。
鉱石の精錬なんか出来ないので、これまた誰かに加工を頼もう。
自分、不器用なもので。




