10 魔法
カリオ村に行商人がやってきて起きた変化はまだある。
魔法関係の変化だ。
正直なところ回復薬よりこっちの方がテンションが上がる。
元々生活魔法レベルのものは使えたのだが、攻撃魔法は術式を全く知らなかったから使えなかった。
神レベルのスフィアがあるのに宝の持ち腐れもいいところだ。
だが、俺は大魔道士への第1歩を踏み出した。フハハ。
俺のユニークスキル【全言語理解】
これがいい仕事をしている。
俺は全ての言語を理解できるのだ。
ところで魔法は呪文を詠唱することで発動する術だ。
その呪文は普通の言葉とは全く違う魔法語と呼ばれるもので覚えるのもましてや理解するのも困難な代物だ。
「語」だ。
つまり俺には理解できる。言葉の意味するところが分かるのだ。
これは非常に強い。
理解できればそれを応用して新しい魔法を作れるのだ。夢が広がる。
魔法の呪文は、魔法語列(マジックコードorコード)と呼ばれものだ。
種族によって魔法語にも色々な種類があるらしいと聞いたことがある。
ただ全言語理解スキルにも制限があった。
聞いたり、見たりした言葉でないと分からないのだ。
これは思っていたスキルと違う。
当初このスキルと見た時は、全ての言葉を翻訳できるスキルだと思っていたが、実際には分かるだけで自動翻訳のようなことをしてくれるわけではないのだ。
つまり、英語を聞くことは出来るが話すことは出来ないということだ。
ただ、理解することはすぐにできるから、言語の習得は早そうだ。
魔法語についても同様で、作りたい魔法があってもそれを構成するためのワードが無ければ作れないのだ。
だから俺は魔法語を集めることにした。
前回来た行商人には護衛が帯同していた。
その護衛の一人が下級の攻撃魔法ファイアボールが使えたから見せてもらった。
俺は村の子供たち(5人しかいないが)を引き連れてその護衛さんに声をかけた。
「立派な杖ですね!魔法使いさんなんですか!!?」
「おにーちゃん魔法使えるの?」
「すごーい!」
「見たーい!」
「みたーい」
「ほえー」
「なんだ?魔法に興味あるのか?」
「お?村の子供たちか?」
「そうみたいだな。」
「見せてやったらどうだ?こんな村じゃ娯楽も無いだろうし。どうせ今はすること無いしな。」
「まあ少しならいいが、ここじゃあな。」
「じゃああっちに広場があるから、あっちに行きましょー。」
「おにーちゃん行こー?」
「行こー!行こー!」
「いこー」
「ほえー」
「じゃあやるぞ?▼▼▼ ◆◆◆ ■■■ ・・・ ファイアボール!」
護衛さんの呪文の詠唱と同時に、その目の前に魔法語のコードが浮かび上がる。
初級魔法のコードとは比べ物にならないほど長いコードだ。
初級魔法はコードというか殆ど単語だ。長くても単語3つだ。
それに比べて1分くらい詠唱していたんじゃないだろうか。
戦闘中ではないから急いでやる必要もないためゆっくり詠唱したのだろうが長いな。
発動命令によって浮かんでいたコードが集まり、火の玉が発現した。
現れた火の玉はすぐさま的として用意した積上げた薪に向かってまっすぐ飛んでいき炎を上げて燃え上がった。
「「「お、おおおーーー!」」」
「「「すごーーーい」」」
見ていた子供たちから歓声が上がった。
俺も歓声を上げていた。
初級魔法とは比べ物にならない迫力がそこにはあった。
初級魔法で発生させられる火は焚き火が燃えるような弱い火でしかない。
攻撃するための魔法ならではの迫力があった。
それとは別に俺はひと目でその魔法がどんな魔法なのか理解できた。
俺は頭をフル回転させて記憶し、ほくそ笑んだ。
もっと見たいと護衛さんに纏わり付いている子供たちをあまり無理を言うもんじゃないと引き剥がし、感謝を伝えてその場はお開きとなった。
子供たちは見た魔法によほど興奮したのか、魔法の真似事をして遊ぶのがしばらく流行ったのだった。
その場を離れた俺は理解し覚えた魔法をとりあえず試してみることにした。
「▼▼▼ ◆◆◆ ■■■ ・・・ ファイアボール!」
呪文を唱えると胸に入れていたスフィアを通して光が生まれ、魔法が発動した。
先ほど見た魔法よりも大きな火の玉が生まれ、飛び出した。
ファイアボールは的にした岩で爆発し、黒く焦げ付いた跡を残して炎は消えた。
ファイアボールには燃やすだけでなく、物理的な爆発の効果もあったらしい。
おそらくステータスの差だろう。
称号効果万歳である。
それはさておき攻撃魔法が使えた。
はじめての攻撃魔法だ。しかも結構な威力だ。
岩を少し焦がす程度の威力だし、詠唱にも時間がかかるから使いどころに困るが詠唱時間は演習すれば短くすることはできるだろう。
それより重要なのは全言語理解スキルの効果である。
このスキルの効果によって俺はファイアボールのコードが理解できた。
おまけに高速思考スキルによって記憶力と演算能力も上がっている。
俺は手始めにファイアボールのコードを読み解き、元々知っていた初級魔法と組み合わせて派生魔法を使ってみることにした。
まずは、火のコードを水に変えてみる。
「●●● ◆◆◆ □□□ ・・・ ウォーターボール!」
ファイアボールと同じように呪文を唱えると胸に入れていたスフィアを通して光が生まれる。
俺の目の前に詠唱と共にコードが浮かび上がり、水の玉を生み出した。
飛び出した水がファイアボールと同じように岩にあたり、水飛沫を上げて飛び散った。
「おおー。できるもんだなー。」
素直におどろいた。
火を水に変えただけで新しく魔法を使えた。
今試したのは簡単な変更だったから他の人にもできるだろうとは思うが俺ならもっと複雑な改造もできるだろう。
これは夢が広がるなー。
まあまだ改造できるほど魔法語を覚えられてないから、高度な改造は難しいがゆくゆくは、と考えなくもないな。
と、まだまだ先のことと思っていた矢先、俺は新たな発見をした。




