第15話
まぶしい…
めをあける…
まどからのひざし…
あさ…?
「お、目が覚めたんだな。…と、まだちょっとボンヤリしてるか?」
目の前に、女の人…
白衣…お医者、さん…?
「おはよう、パンデロー。あたしの名前はミント。これでも、エスペーシア王室の専属医師だ」
男勝りの口調…性格、なのか…?
ショートヘアがよく似合う女医さん…
「目覚めたばかりでよくわからないだろうが、何か身体の調子が悪いとか、具合が悪いとか、そういうのがあったら遠慮なく言ってくれな」
あたりを見回すと…ベッドがたくさん並んでいた。
どうやら…医務室らしい。
「…ありゃりゃ、こりゃだいぶ重症だな。おーい、聞こえてるかー? 具合どうだー?」
視界に男勝りの女医さんが飛び込んでくる…
何か、喋らなければ…
「ええっと、そう、れすね…なんろなく、かららじゅうがみしみしするんれす。うごくのがおっくうというか…あろ、あたまがもーろーとひて、くちがおもらいれす。したがまわらなくて、うまくしゃべれません」
「…あはは、なるほど。確かに聞き取りにくいな。…まぁ、三日も寝たきりじゃ、だれでもそうなるさ。安心しな、ちょっと時間がかかるけど、すぐにいつもの状態に戻るだろうから」
「そうれすか…」
………ん!?
「み、みみみっか? わ、私は三日もここに…」
「ああ。王子様誘拐事件が解決したのは三日前だからな。パンデローは突然ぶっ倒れてここに運ばれたんだが、すぐに疲労が原因だって判明したんで、放っておいたのさ」
「ひ、疲労、れすか…」
「長旅の話は、カステーラ博士から聞いたよ。精神的な問題もあるだろうけど、ろくに睡眠も取らずにいたら倒れるのも当たり前だな。でも…その歳で三日は眠りすぎだ」
…恥ずかしすぎて、一気に目が覚めた。
「…す、すみません…」
「謝らなくたっていいよ、面白いなぁ、パンデローは」
ミント先生はクスクス笑うと、チラリと医務室の扉へ目を向けた。
何かあるのかと見てみたが、特に変わった様子はない。
しばらくして、ミント先生は小さく息を吐くと、
「あたしは、ちょっと用事を済ませてくる。パンデローは頭と口を動かして、三日間眠っていたリハビリでもしておくといい」
「え、ひとりれ、れすか?」
回らない口で尋ねると、ミント先生は医務室の扉に手をかけ、
「こいつらと、だ」
勢いよく開け放った。
その途端「むぎゅう」という情けない声とともに、私のよく知る四人がその場に積み上がった。
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ミント先生がいなくなった医務室では、私を取り囲むように叔父とバクリッコさん、そしてクミンさんとコリアンダー騎士団長が見舞客用の丸椅子に腰掛けていた。
ちなみに、三人の下敷きになって額を強かに打ちつけたバクリッコさんは「余計な仕事を増やしやがって」と不機嫌になったミント先生に手荒い応急処置をされ、絆創膏を雑に貼られていた。
そんなバクリッコさんが目を覚まさない私を前にパニックを起こし、もう長くはないという噂を立てて城内が一時騒然としたという話もあったが、見舞客たちはそれを笑い話として紹介してくれた。
私は、コリアンダー騎士団長が噂を真に受けて大号泣をしていたという話を、クミンさんが剥いてくれたリンゴを食べながら聞いていた。
瑞々しいリンゴは乾いた喉を潤してくれる。
おかげで、滑舌もだいぶ良くなってきた。
そして四人は、誘拐事件が解決してからのことをかいつまんで説明してくれた。
エスペーシア王国にてウェントゥルス教北風派による一連の事件を企てたボッコとザンギの二人組は、城内での協議の結果、国外追放となった。
当初は公開処刑にすべきだという血の気の多い意見もあったそうだが、最終的にターメリック王子の主張する国外追放に決定したという。
「…心優しい王子様のことだから、二人に罪はないとかおっしゃるに違いないと思ってたんだよ、オレは。だから、命は取らないまでも追放っていうのは珍しかったな」
「あら、わたしが王子様に理由をお尋ねしたら『ときには一国の王子らしく振る舞わないといけないんだ』とおっしゃっていましたよ。なんでも、パンデロー君にそうするよう言われたとか…」
「そ、そうだったのか! 素晴らしい! ありがとう、パンデロー君!」
「い、いえ…あのときは、もうどうにでもなれと思って、王子様にきつい物言いを…」
「それが良かったのさ。おかげで、オレたちも王子様の優しさに甘え過ぎていたことに気づけたんだ。…変わらなきゃいけないのは、王子様だけじゃない。そういうことだって」
「俺も、すっかりこの国の雰囲気に馴染みすぎてしまっていたみたいだ。甥っ子、ありがとう。君の勇気ある言動に感謝する。…なんてな、さすがは俺の甥っ子だ! エライ!」
「…なんだよ、珍しく真面目だと思ったのに、結局いつもの博士じゃないか」
「なんだと?」
「…ふふっ」
叔父とバクリッコさんのやり取りに、思わず吹き出してしまった。
そういえば、久し振りに笑ったような気がする。
最後に笑ったのは…いや、無理に思い出さなくていい。
大切なのは、今、なのだから。
「…おや、もうこんな時間だ。そろそろお暇したほうがいいな。俺は研究所に戻らないといけないし、三人とも無断で持ち場を離れているわけだし?」
叔父が不敵な笑みを浮かべると、城内で働く三人は、あたふたと丸椅子を片付け始めた。
「うわわ、怒られるー」
「まったくお前は…いつものことだろうが」
「コリさんも、たまには一緒に怒られません?」
「それはクミンに言ってやれ。じゃ、お先に失礼!」
「騎士団長ひどい! わたしだって怒られたくないですよぅ!」
三人がバタバタと走り回る中、丸椅子を片付けた叔父が、
「そうそう、甥っ子の荷物を預かっていたんだ」
忘れるところだったと、叔父は私の鞄を取り出した。
「大切なものが入っているから、ここには置いておけなくてね」
「…あっ!!」
そうだった…!
「大地のローブ! まだお返ししていません!」
私は立ち上がろうとしたが、ひどい目眩に襲われてベッドに座り込んでしまった。
「落ち着けって、パンデロー。なんも心配ねぇって。大丈夫だからさぁ!」
バクリッコさんが立ち去り際かけてくれた言葉…何が「大丈夫」なのか、私にはよくわからなかった。




