隷従とはこれ如何に
3話です
満の身体に何かがぶつかったような衝撃で目を覚ました。
「なんだ!」
満が周りを見渡すと、その目に映りこんだものは人だった。
しかも、一人や数人ではなく、人、人、人ばかりだった。むしろ、人が多すぎて空間内、すべて見渡しても人だった。
「す、すいません。」
満はとりあえず、目の前の人に申し訳なさそうに謝った。
(流石に、こんだけ人がいればぶつかんのもしかたねえな。)
そう思いながら、目の前の人を見るとその異常さに気が付いた。
満の目の前に立っていた人は、微動だにしていないのだ。
常識人であれば、こちらに向き直って何かしらの反応を見せるものだが、その人は何も反応せずに遠くの方をじっと見てるようだった。
(うわぁ。なんだよ、こいつ。気持ち悪いなぁ。こっちが謝ったんだから、なんか反応しろよ。)
どこか気味の悪さを感じながら、その人の顔をしっかり見ようと目の前に回り込む。
その顔は、男とも女とも見て取れる顔で、年齢は15歳程度に見えた。身長は160cmほどで、体つきも細く、髪の毛は耳にかからない程度まで伸ばしていて、髪と眼の色が白く、着ている服も真白な上下の服だったので、そこにも気味の悪さを満は感じた。
「だ、大丈夫ですか?あの、聞こえてますか?」
勇気を出して声を掛けるが、一向に返事はなく、唯々、目の前をじっと見ているだけだった。
他の人に話しかけようと、周りの人に視線を向けると背筋が凍った。
満の目に映るすべての人が、先程話しかけた人物と瓜二つで、一様に遠くの方をじっと見ていたのだ。
(やばいやばいやばいやばい!ここマジでヤバイ。つか、何で俺ここにいんの?確か、学校に向かってたはずなんだけど……。)
満は異常事態に焦りつつも記憶を辿ろうとした時、夢の内容をはっきりと思い出した。
(あっ!そういや、変な夢、見たんだっけか。たしか、ゲームのキャラクターエディットみたいな感じの夢で、最後に転生を開始しますって文字が……。)
「おいおい、マジか。転生したってのかよ。そもそも、いつ死んだの俺。死んだ記憶自体ないんだが。」
満はそう呟きながら頭を抱え、しゃがみ込む。
(種族ランダムにしちまったよ。まあ、人だったからまだ良かったか。特性は何にしたんだっけ?)
満が特性を思い出そうとした瞬間、目の前に文字が浮かび上がった。
特性
【自己特性強化】 【因子操作】 【因子適合】 【特性看破】 【汚染吸収】 【記憶(前世)】
(ああ。確かにこんなの選んだわ。もしかして、【特性看破】の効果なのか?その前に、【祝福(初回限定)】が消えて【記憶(前世)】があるのは……。このおかげで記憶を保ったまま転生できたってことか?だとしたら、危なかったぁ。【記憶(前世)】持ってなかったらどうなってたんだか……。)
満が特性を選んだ時の自分をよくやったと褒めている時、あることに気づいた。
(まさか、あの時【祝福】を選んでいなかったら、こんな思考もできずにいたってことか。)
満の眼に映るすべての人が同じ顔で同じ体格、そして自分の目線も周りと変わらなかった。
自分の目線を下に向けると、真白な上下の服を着て裸足の状態で立っていた。
(ああ。嫌な予感がしてきた。俺は種族で【乱堕夢】を選択したせいで、身分・年齢・性別を選べなかった。年齢は周りと一緒と考えると15歳くらいで、性別は違和感もないから男で確定だけど、身分はどうだ?確か、【人族】の身分は、〈隷属種〉〈普種〉〈貴種〉〈支配種〉の4つだったはず。この状況でしっくりくんのは、〈隷属種〉なんだよなぁ。)
満の周りに広がる異様な光景は、自分の最悪な考えを肯定するようなものだ。
その光景に満の顔が歪む。
「もし、〈隷属種〉だったら誰かに従わなきゃなんねぇのか?それとも、このままここで一生過ごすとか?」
満の思考は、どんどん悪い方向へと進み、不安が募る。
その時、錆びついた扉を開くような音が聞こえ、直後に男の声が響き渡った。
「150番から160番!ついてこい!」
(なんだなんだ!まともな人もいんじゃねえか。)
満が声の方を見ると、そこには、薄汚い恰好をした男が立っていた。
そして、その男に向かっていく人が見えた。
「お、おーい!俺も連れてってくれ!気づいたらここにいたんだ!」
そう満が声を掛けると男がこちらに気づいたようでこちらに向かってくる。
そうすると、その男が持っているものに目が向いた。
(おいおい、勘弁してくれ!こいつ、刃物持ってやがる。)
男が持っていたのは幅広の剣で曲刀のように曲がっていた。その剣はしっかり手入れされていないのか、少し錆びついていた。
男は、剣を満に向けながら問いかけてきた。
「なんだ、お前は?どっから入ってきやがった?答えろ!」
「い、いや。ほんとにじ、自分でも分からないんですよ。だ、だから、殺さないでください!」
男に剣を向けられた満は、恐怖で混乱しながらも命乞いの言葉を口にした。
その情けない言葉を聞いても警戒は解かずに、尚、剣を満の前に突き出す。
「分からないだと!じゃあ、お前は何者だ!自発的に言葉を発するなら、隷従でもないだろ。どうなんだ?」
この時も、パニックに陥った満の頭でも言葉が口から出てきた。
「わ、私は、182番の隷従です。」
満は自分の口から出てきた言葉に一瞬、思考が止まった。
男の方は、驚いたように目を見開き、言葉を発した。
「お前、隷従なのに自我があるのか?」
「れ、隷従というものは分かりませんが、自分の意識はあります。」
満の言葉を聞いた男は、口の端を吊り上げて嗤った。
「こいつは、オレにも運が回ってきたかもな。よし、182番もついてこい。」
「わかりました。」
(やばいぞ、これは。隷従ってのは、つまり〈隷属種〉だってことだよな。嫌な予感が当たっちまった。)
満の足は勝手に男を追うように動き始めていた。
そして、満と同じように周りの150番から160番だと思われる隷従が男に付き従い、歩いていた。
(体が勝手に動くってことは、もう隷属してるってことかね。最悪だ……。何かできることは……。この状況を打破できる何かは……。【特性看破】でこの男の特性を知るしかねえな。てめえの中身を覗き見てやる。)
満が【特性看破】を使うと、目の前に文字が浮かんできた。
特性
【血統因子(隷属支配)】 【汚染耐性】
(特性少なすぎだろ。【血統因子(隷属支配)】か……。絶対、これのせいだろ。俺が持ってる【因子操作】でどうにかなんねえかな。)
満は男が持っている特性の【血統因子(隷属支配)】を消すために、【因子操作】を使うと、目の前に文字が映った。
【操作できる因子がありません。】
その後、【因子操作】や【因子適合】を使おうとするも、まったく反応がなかった。
試行錯誤を繰り返しているうちに、全員の足が止まった。
満の目に映る景色は気づかないうちに変わっており、薄暗い部屋に立っていた。
そして、男率いる隷従の集団の前には受付の様なものが設置してあり、そこに受付嬢らしき女性が立っていた。
「ラズベルト様、お待ちしておりました。この度は、隷従11体のお買い上げでよろしかったでしょうか?」
「ああ、それでいい。一括で払う。」
「承知しました。それでは、11000ラディになります。」
「口座から落としといてくれ。」
「かしこまりました。またのお越しをお待ちしております。」
満達、隷従を買ったラズベルトは、会話を終えると部屋から出ていく。
満はそれに追従する形で、不安を感じながらもどうしようもない現実に目を背け、一歩を踏み出した。