ノーフェイス
幸いオートガードが発動して背中ごしに双剣をクロスしてカインの大剣を受け止めていた…
いや、カインがこんな事をする筈がない!短い付き合いだったが、この世界に来てから会った人間の中では一番マトモな奴だったからだ。
「お前は一体誰だ?」
双剣で相手の大剣を弾き返し、振り向いて武器を構えて聞く。
「フフフ…完全に隙を突いたつもりだったんだけどなあ、やっぱりB級…いやA級になったばかりだったかな?の攻撃じゃ通用しそうにないね」
と言うと大剣を投げ捨て、カインの顔、いや覆面を自らはぎ取った。
格好はそのままのカインの装備だ赤い皮鎧に赤いマント…
「カイン、いやカインとアベルをどこにやった?」
フフフと、その黒髪黒目の美少年は笑うと
「カインならさっき会ったでしょう?アベルなら…」
と言うと、どこからともなく取り出した一枚のお面を被る。
「ケンシンさん、お久しぶりです。アベルですよ」
と声も姿もアベルになった。
「何のつもりだ?今はモノマネや冗談を楽しむ余裕はない、もう一度聞くぞ、カインとアベルをどこにやった?」
「ふう…だから言ってるじゃないですか?カインとアベルはここにいるんですよ」
そう言ってアベルの偽物は、見た目には普通の大きめの革のバックを取り出し、アベルのお面を取り外し入れた。
どういう事だ?まさか…
「ああ、もしかして、元のカインとアベルの死体の事ですか?それなら、顔だけはい…」
「死ね外道!」
キィン!
相手が言い終わる前に俺が放った双剣の攻撃は敵の取り出した2本のナイフで受け止められた。
「まだ途中なのに…」
「うるさい、黙れ!クイック!」
俺は千倍の速度で相手の両太ももに双剣を突き立て離れる。まずは逃げられないように相手の動きを止める!
「痛いですよ…聞かれたから、答えただけなのに」
怪我をしているにも関わらず、黒髪黒目は余裕の表情を崩さない、素早くお面を被るとアベルになり、水の聖霊術ヒーリングウォーターを唱え両太ももの傷を回復させた。
「僕はお面を被った相手の物語をスキルや能力を含めてトレースする事が出来るんです…ノーフェイスと呼ばれています、以後お見知りおきを」
と言ってアベルのお面を外し、恭しくお辞儀をする。
ただのモノマネじゃ無いって事か?アベルやカイン以外にも能力を持っているとなると厄介だな…
ならば早めに決着をつけるだけ!
「だが、俺の攻撃はかわせまい!クイック!」
そう、千倍の速度で動く俺の攻撃を見切れる訳がない!俺は奴の首を目掛けて左右から双剣を横凪ぎにして斬りつけた!
キキィン!
俺の双剣の攻撃は敵の赤黒い2本の短剣によって防がれてしまう。
「なに!?」
馬鹿な?なぜ?
「あなたは、馬鹿な?なぜ?と思ったんでしょ?」
なぜ、それを?
「フフフ、その顔は図星ですね…僕はね顔を集めて行く内に相手の表情やちょっとした仕草から、何を考えているか次にどういう行動をとるか読める様になったんですよ」
「なんだと?」
それでは、俺の攻撃は奴には通じないって事か?
「そうですよ、貴方の攻撃は僕には通じません…大人しくしていれば苦しませずに殺してあげますよ、その後で顔だけは頂きますがね」
くそ、こうなったら奥の手を使う!
「絶対王者の時間」
俺は時間を止めて再び奴の首を目掛けて左右から双剣を振るう、クイックによってスピードと威力が上がった為か何の手応えも感じずに、時が動き出すと同時にノーフェイスの首が飛んで行った…スプラッタ映画の様に。
終わった…そう思って砦へ向かおうとした時だった
ガシッと音がして地面から出てきた手に足が掴まれている、そして足に気をとられている間に木の枝がグローブの形になり俺を拘束する。
土の聖霊術アースハンドと木の聖霊術レッツマングローブだ。
振り向くと、シワシワの老人のお面を被ったノーフェイスがいた!
「ハハハ、言い忘れていましたが、僕はインキュバスと人間のハーフなんですよ!」