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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
99/183

第19話 魔法少女は二律背反で。(2)

 ◆5月8日 午前5時◆

「♪~」

 雹果は鼻歌を奏でながら、二匹の犬を連れて先行するように歩いている。

「なんか、めっちゃご機嫌だな…」

 私はその3メートル後ろくらいを追従するように、銀色の犬と並びながら歩いていた。

「ま、今までどおり仲良くやってるみたいで良かった」

 私が隣の()()に話しかけると、すぐさま不機嫌そうに答える。

『…君の目は節穴なのか?この現状を見てどうしてそう思うのだ?どうみても以前に比べて扱いが悪くなっているではないか』

 クレーマーよろしく語るその首元には、チョーカーならぬ飼い犬用の可愛らしい赤い首輪が装着されていた。

「神様から友達になったんだからしょうがない。距離が縮まったって考えれば?」

『親しき仲にも礼儀ありということわざを知らぬのか?友達に首輪をするのかね?君は?』

 二次元の世界では往々にしてそういった需要があるものだが、現実で友達に首輪をつける機会はまず無いことだろう。

 ただし、神と友達になるなんてのはそもそも例外ケースだし、あの子が一般的な常識を持っているかといえば、残念ながら断言は出来ない。

「まあ、あの子の意図は知らないけど、その()()()首輪のお陰でカモフラージュは完璧だとは思うけど――ぷっ…」

『どうしてそこで含み笑いをするのだ…?』

 その可愛らしい見た目と、それが宇城悠人であるという事実を私は改めて認識し、そのギャップを堪えきれずに吹き出してしまった。

「き…気になるから一応聞くけど、なんで犬?」

『失敬だな、君は。これが私本来の姿だ。犬なんぞと一緒にするな』


 ――なるほど…。犬じゃなくて狐だったのか。


『とはいえ、人間から見れば犬と大差ないというのが現実なのだろうな…』

 哀愁に耽るように大きなため息を吐くと、狐姿の自分を嘆くように肩を落としていた。

 しかし、実際のところ下を向いて歩いているせいか、地面の臭いを嗅いでいる犬にしか見えないところが私の笑いのツボを再び刺激する。

『…私からも聞きたいことがあるのだが、良いか?』

「まあ、聞かれると思ってたけど…。やっぱり、気になる?」

 私は聞かれる前から、()()()()について問われることを覚悟していた。

『それはまあ、な…』

 私は先日の出来事を思い返しながら、率直に思ったことを答える。

「変わらないというより、そう振舞ってるって感じ。あとは一人だから大変そうだったかな?まあ、まさかあんなこと言われるとは思ってなかったけど…」





 ◆5月7日 午後4時5分◆

 ――コンコンコン。

「どうぞ」

 部屋の中から声がしたことを確認し、私はそろそろ見慣れてきた扉を開く。

「失礼しまーす…」

 扉を開けて中を覗き込むと、天草雪白は書類の入った大量のファイルを机に積み上げており、棚の整理をしています、といった状況だった。

 少しタイミングが悪かったかもと、気負いながらも恐る恐る足を踏み入れると、部屋の主がこちらを一瞥し、来訪者が私であることに気がつく。

「あ…」

 手に抱えていたファイルを落とし、時間が停止していたのかと思うほどの間、こちらを凝視しながらそのまま沈黙していた。

 数秒後、以前同様の蔑むような視線に変わったかと思うと、落ちたファイルをそそくさと拾いながら、しょうがないと言いたげな様子で口を開いた。

「花咲さん…でしたね。何の御用でしょうか?」

 私は既視感を覚えながらも、ひどく拍子抜けした。

 なぜなら、門前払いをくらうかもとか、何かひどい暴言を吐かれるかもしれないなどと考えていた私にとっては、以前同様の反応をされることは完全に予想外の反応だったからだ。

「実は部活のことについてなんですけど…」

 相手の窓口対応スタイルに戸惑いながらも、一般生徒として普通に接しようとすると、天草雪白は口篭る様子を見せたあと眉間に皺を寄せた。

 だがそれも一瞬のことで、小さく息を吐いたかと思うと、眉間の皺は跡形もなく消えていた。

「…その件なら話はついています。私は忙しいので、部室の場所と鍵の管理については荒井先生に伺ってください」

「う~ん…?」

 意味不明な回答に思考が追いつかず、私の口からは疑問を呈する声が自然と発せられた。

「変な人ですね…。創部申請が承認されたのですから素直に喜んだらどうです?」

「…」

 呆気にとられながらも、私はなんとか言葉を搾り出す。

「あー…マジですか…?」

 私が困惑しているのを察してか、天草雪白は大きなため息をついたあと、申請書類入れと思しき箱から一枚の紙を探し出す。

 そしてそれを、私に見せつけるように突きつけた。

「この通り、生徒会長の承認印は押されていますので、この書類に書かれていることは生徒会に正式に認められた、ということになります。信じられないというのであれば、その目で確かめてみてはいかがです?」

 私はその書類を流れのままに受け取ると、上から下まで事細かに目を通す。

 以前は空白だった承認印を押すべき場所にも、綺麗な朱印が並んでおり、大きくて仰々しい“承認”と書かれた印が紙面の内容に太鼓判を押すように、上から押されていた。

「マジ…なのか…」

「まあ、私にはこの承認印を押した記憶はないのですけど」

「押した記憶がない…か。なるほど」

 私はその言葉の意味をすぐに理解した。

 承認印を押すことが出来る人物に心当たりもあるし、あの人ならやりかねない。

 ひとつ気になるとすれば、承認されるにしても早すぎるということで、それをいつ押したのかということも引っかかりはする。

 だが、私が最も困惑していた理由は、そんな些細なことではない。

「しかし、まさか入れ違いになるとは…」

「入れ…違い…?それはどういう…?」

 私は返答に困りあぐね、笑って誤魔化しながら答える。

「実は私がここに来たのは、創部申請を取り下げてもらおうと思ったからなんですよねー…ははは」

「申請を取り下げる…?どうして…?」

 ここを訪れる前から理由を問われるであろうことは承知していたが、自分からその理由を口にすることに関して、なんとなく躊躇(ためら)われた。

 だが、そうしていても話は進まないと腹をくくり、私はその決断に至った経緯を打ち明ける。

「…口にするのも恥ずかしい話ですけど、結局自己満足だったって気付いたんです」





 ◆5月3日 午後2時5分◆

「ちょっと調子に乗りすぎたか…」

 ツインテール三人衆は遅めの昼食を仲良く済ませ、食堂から部屋に戻るその道中、私だけが遅れて戻ることになった。

 その理由を語ることさえ(はばか)られるが、ようするに食べ過ぎたという単純な理由だった。


 ――クマゴローが太ったのも頷ける…。

 

 そんなことを考えながらも、ここの料理が美味し過ぎるのがいけないのだと、私は自分のことを棚に上げて責任転嫁する。

「それにしても、何度も来ているとはいえ、さすがにこの距離だけは慣れないな…」

 誰も歩いていない広大な廊下を、私は一人歩き続ける。

 御手洗いまでのその道のりは存外長く、私たちが現在入り浸っている衣裳部屋からの距離は目算で100メートルはある。

 急に便意を催したりしたらどうするのだろうかとも考えはしたが、きっとそこに答えは無く、“我慢する”という根性論の一言で片付けられるのだろう。

 そんなどうでもいいことを考えながら足を進めていると、ようやく目的の扉の前に到着する。

 そして、ドアノブに触れようとした瞬間、部屋の中から話し声が漏れ聞こえ、私はその手を止めた。


 ――そういえば、あの二人って普段どんな会話してるんだ…?


 雹果が部屋の外から聞き耳を立てていた気持ちをようやっと理解しながら、興味本意に従うかのように扉に耳を当て、息を殺しながら中の会話に聞き耳を立てる。

「雨さん。お加減は大丈夫ですの?ご無理はなさらないほうが…?」

「だいじょぶだいじょぶ。おかげさんでこのとーり」

「それにしても驚きましたの。まさか、お二人とも倒れられるなんて…」

 私はその瞬間、自分の知らなかった情報を耳にして少しばかり驚く。

「色々面倒掛けたみたいで悪い。でもまあ、お陰さまで確信が持てたわ」

「確信…。もしかして、それは…」

「ああ…。あの話、信じるよ。そんでもって、私なりの覚悟も決まった」

 ――確信…?覚悟…?一体、二人は何の話をしているんだ?

「雨さんはこのままで良いんですの…?もしこのままいけば…」

「いーからいーから。そっから先の話はナーシ。言ったでしょ?覚悟は決まったって――」

 私はその場に座り込み、盗み聞くのをやめた。


 二人に悪意が無いのは理解している。

 きっと、私がそれを知ることで、私に不利益が生じるという二人の共通見解があるからこそ、私に何かしらの隠し事をしているのだろう。

 だが、二人が善意でやっていることに対して、私は少なからず裏切られたような気持ちを抱いてしまった。

 今の私には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 …


 それから数秒か、数分程度の時間を置いた後、何食わぬ顔で扉を開けた。

「お?やっと戻ってきた。遅かったけど、道に迷ってたとか?それとも大きいほう?」

「…子供扱い禁止。あと、下品な発言も禁止」

 二人が私に打ち明けてくれるその日まで、私は先ほどの会話については触れないことを心に決めた。

 だが、それとは別にやっておかなければいけないことが出来た。

「二人に話がある」

「私たちに…ですの?」

「なんだよ?改まって…?あ…倒れる直前に言ってた相談ってやつ?」

 私はゆっくりと頷く。


 ――本当の意味で信じられていなかったのは私のほうだった。

 嘘や隠し事の無い関係なんて、ありはしない。

 それを含めて信じられることこそが、本当の意味で“信じる”ことだと、今の私は思っている。

 それが希望的観測であり、理論的でないことも理解はしている。

 だが、それでも私は、私を信じてくれる人を信じたい。

 だからこそ私は、()()()()()()()()()()を打ち明けるべきだと悟った。


「実は…部活を創るのやめようと思って」

 数秒の間の後、雨は案の定の反応を示す。

「は…はあ?いきなりなんで…?あれだけ苦労して駆け回ったのに?」

 雨の言うとおり、ここ数日間は部活を作るために担任探しやら七不思議の解明やらに費やしてきた。

 ここまできて取り止めるには、それ相応に理由が必要だろう。

 だが、(もと)を正せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そもそも、部活を創ろうと思ったのは、私から二人が離れられない理由をつけて、一緒の時間を過ごしたかったから。その口実に部活を利用しただけ」

 あの時の私は、再び孤独になることを恐れていた。

 雨や芽衣との関係がこのまま続くとは限らないと感じていた私は、二人が離れることの出来ない口実を自ら作り出すことで、それを回避しようとしていた。

 同じ部に所属していれば、一緒の時間を共有することも自然と多くなり、その間は今の関係性を保てる。

 つまり、部活動という場は居場所と口実を兼ねており、利用するには都合の良いものだった。

「チーが…?」

「私たち…と…?」

 唖然とする二人から視線を逸らしたあと、私は頭を下げる。

「今回の件で二人にはいっぱい迷惑掛けた…。ゴメン。だから部活は――」

 私のその独善的で安易な考えによって、結果的に二人を騒動に巻き込み、大きな迷惑を掛けることとなった。

 それが愚かな行為だったと自省している。

 だが、二人の反応は私の想定していたものとは明らかに違った。

「まったく…馬鹿じゃないのか?チーは?」

 私が言い終えて間もなく、雨がソファーから立ち上がり、私の目の前まで急接近する。

 そして、ニッコリと微笑んだ。

「部活創ろうが創らなかろうが、私たちの()()()ってやつが消えるわけじゃない。私は一生チーと一緒だっつーの。うりゃー」

 そう言いながら、雨は私の頭を鷲掴みにし、ツインテールを解きほぐす。

「ちょ!?やめ…――」

 だが、その表情はどこか嬉しそうだった。

「春希さんがそう仰るのであれば、私は何も言いませんの。ただ――」

 芽衣は私の右手を取り、両手で強く握り締める。

「私は部活動じゃなくても、ず~っと一緒に居るつもりですので、そこはご安心をですの!!」

 そう言うと、こちらもまたニッコリと微笑む。

「そ…それはそれで…困る…」

 私の髪を解し終えた雨は、私の左手を掴んで部屋の奥へと引っ張る。

「あ…!?ちょ…!?」

「さあさ。次の準備出来てるからな。行くぞー」

「どんな髪型にしましょうか♪迷いますのー♪」

 私は二人に手を引かれるようにして連行され、再び椅子に座らされた。





 ◆5月7日 午後4時15分◆

「――私自身が自分に都合の良い居場所が欲しかっただけで、部活動はその居場所を作る口実にちょうど良かった。それだけだったんです」

 天草雪白は無表情のまま黙り込み、私の話に耳を傾けていた。

「でも、最近になって気付かされました。人の居場所って、誰かと誰かの繋がりによって自然と出来上がるもので、場所とか肩書きなんて関係ないんじゃないかって」

 あれほどの迷惑を掛けた上、二人との関係を維持するために部活動を創ろうとしたことを打ち明けてもなお、二人は笑ってそれを許し、今でも連れ添ってくれている。

 その優しさに気付いたとき、私はそのことを悟った。

「私の居場所は、もうあるって気付いたんです」

 その言葉を聞き終えると、天草雪白は背を向けた。

「…判りました。せっかくの話ではありますが、貴方が言うのであれば仕方ありませんね。荒井先生には私から手違いだったと謝罪をしておきます」

「ほんとスミマセン。ありがとうございます」

 私が深々とお辞儀をすると、こちらを一瞥しながら警戒するように眉をひそめた。

「…どういうわけか、貴方から素直に感謝されると釈然としませんね」

「先輩の私のイメージは一体どうなってるんですか…」

 私はそのまま扉に向かい、生徒会室をすぐに後にする――わけもなく、机に置かれていた書類を持ち上げ、それを棚まで運ぶ。

「これ、ここに入れれば良いんですか?」

「何をしているんです…?」

「ついでです。ひとりじゃ大変でしょうし、二人でやったほうが早く終わります」

「ひとり…」

 そう言い掛けると、天草雪白は何気なく生徒会長席に視線を移す。

 まるで思い詰めるような表情を一瞬だけ見せたかと思うと、すぐにいつも通りの高圧的な態度に戻った。

「人手が多いに越したことはありません。そちらの書類を端から順に持ってきて貰えますか?」

 だが、その言葉には今までのようなトゲトゲしさは感じられず、私は不思議と悪い気がしなかった。

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