第17話 魔法少女は口づけで。(1)
◆5月3日 午前0時45分◆
私の視界に飛び込んできたのは、懐かしくもありながら最近着た覚えもあり、細部にわたる意匠までが私の脳裏に刻まれているほどに慣れ親しんだ、ヒラヒラフリフリが満遍なくあしらわれたピンク色の衣装――つまり、シャイニー・レムの魔法少女服だった。
「…」
状況を飲み込めずに困惑しているのも束の間に、更なる急展開が私に訪れた。
こちらのことなどお構い無しとばかりに、足は前後に半歩ずつ開かれ、背筋がこれでもかとピンと伸ばされ、両手は地面に向けて斜め四十五度くらいで固定される。
ご察しというかなんというか、当然と言わんが如く、私の意志とは無関係に強制イベントが進行を始める。
それが登場時に発動する例のアレであることは経験上間違いようがなく、それはつまり抵抗する術はないのだという事実を暗黙のうちに悟った私は、抵抗することを早々に諦め、言葉通り身を任せることにした。
「光輝く、希望の花!」
私の体はクルリとターンしたあとに両足を揃え中腰になり、勢いをつけてジャンプ。
そして、やったこともないのに伸身ムーンサルトで空高く跳躍する。
そこで私は、自分の考えが早計だったことを思い知ることになった。
「…!?」
「なにが?」という疑問に答えるとするならば、もう一度言ったほうが手っ取り早い。
伸身ムーンサルトなんてやったこともないのだ。
「真の輝きに照らされて――」
音も無く、突然私の真下に巨大なリングとその穴を塞ぐガラスのようなものが出現したかと思うと、私の体はフィギュア選手のように回転しながら、そのリングの中央目掛けてドリルのように落下。
そのまま衝突するのかと覚悟し、反射的に目を閉じた。
再び瞼を開けると、ガラスのようなものは波紋を描きながら私の全身を飲み込み、やがて水中のような不思議な空間に私を放り出していた。
不測の事態に慌てて息を止めるものの、身体の自由は制限されたままで、もがくことさえ許してはくれなかった。
このまま溺れてしまうのかと一瞬頭をよぎった時、視線の先にもう一つのリングを捉え、考える間すらなくそのリングに体が引き摺りこまれるように吸い込まれる。
まるで排水されるようにそれを通り抜けると、再び別の空間へと飛ばされ――るのかと思いきや、瞼を開けるとそこは元の場所だった。
数秒間の小旅行から無事に帰還できたことに安堵したのも束の間、私の体は尚も勝手に動き、ゆっくりと立ち上がる。
その最中、自分の体に起こった変化を、視界の端で目の当たりにすることとなるものの、目まぐるしいほどに変化する状況に私がどれだけ驚き、混乱し、安堵しようとも、我関せずと言わんばかりに私の口は口上を続ける。
「――今、真実を映す鏡とならん!」
私の衣装は、謎の空間から帰還した直後から全身銀色のメタリック塗装をしたかのように謎の金属に包まれていた。
ゆっくり上げた右拳と左拳をそれぞれ横なぎに振るうと、その反動で全身のメタリック塗装は剥がれ落ち、淡いピンク色の光沢を放つ、私の知らない衣装が塗装の下から露になった。
「シャイニー・レム!」
それだけでなく、剥がれ落ちた水滴が空中で収束したかと思うと、水銀のような二つの球体が形成され、両の手をそれぞれの球体にかざすと渦を巻きながら二枚の丸鏡へと姿を変えた。
私が片足立ちで腕を交差してXを描くようなポーズを決めると、丸鏡は私の動きに同調しているかのように、光の粒子を振りまきながら舞い踊るように追従する。
そして最後に、自分でも聞きなれない言葉を私の口が発したのを、私はしっかり聞き留めた。
「――ミラ・フォーム!!」
周囲は一瞬だけ閃光に包まれ、鏡が反射するときの効果音のようなものが鳴り響き、光の粒子が空中に飛散する。
片足立ちの不安定なバランスで決めポーズのまま硬直することを強いられながら十数秒ほど経過すると、唐突に身体の自由が戻り、私は腰が砕けたように地面に尻餅をついた。
――あー…なんか、一気に疲れたー…。
臀部に走る痛みなど気にする余裕もなく、放心状態のまま空を見上げると、そこには妙に大きく感じられる満月があり、私は数秒の間、ただただそれを見つめていた。
――パチパチパチパチ…。
拍手が耳に入ったので視線を向けると、少しだけ離れたところに屈みながら、まるでショーを観覧する客のようにパチパチと拍手をしている雹果の姿が目に留まった。
「すごい。本物みたいです」
たった一人の喝采を浴びながら、私は自分の頭をポリポリと掻きながら立ち上がり、スカートの汚れを払い落としつつ、改めて自分の姿を確認する。
「あー…まあ…そうなんだけど、そうじゃないっていうか…」
見た目の色の割合は少し白に寄った気がするが、基本デザインはそれほど変わっておらず、スカート部分や腰のリボンが金属的な光沢のある素材に変わり、各所にあしらわれた花の造形は金属で出来たように銀色に変化していた。
そして何より、目立った違いといえば、私の左右にふわふわと浮いている一対の鏡だ。
「ミラ・フォームか…。なるほど…」
その鏡は、メルティー・ミラが使っていたものに酷似していた。
恐らく、思念とか自動制御とかで複数の飛翔体を操作する類のもの――ようするに、アニメやゲームでよく見かけ、オタクの道を通ってきたら誰もが一度は憧れるであろう万能武装。
かく言う私も例に漏れず、そういったものにテンションが上がってしまう方の人間なので、「レーザーとか出ないだろうか?」などと胸を躍らせながら、堪えきれずに鏡に触れ――
「――じゃなくて!なんだよコレは!?」
私はかなり遅れ気味にノリツッコミを入れる。
危うくこの状況を受け入れそうになったが、私のツッコミとしての性分がそれを許してはくれなかった。
「ミラ・フォームってナニ!?というか、なんで私まで!?いやいやいや…そもそも、私は魔法少女卒業したはずじゃなかったのか!?」
私はその場で円を描くように歩き始める。
正直な話、私は自分の置かれた状況をまったく理解することができなかった――というより、理解しろという方が無理な話である。
つい先日に魔法少女を卒業したと思った矢先に再び変身するわ、まったく知らない姿にフォームチェンジするわで、何をどうしたらそうなるのかを誰かにきっちり説明してもらいたい。
そうは思ってみたものの、この状況を都合よく説明してくれる大賢者的なスキルは私にはない。
――もし、知っている可能性があるとすれば…。
私は思い当たった節を頼りに、私と同時に変身したもう一人の魔法少女に視線を向ける。
すると、私と同じように出現した浮遊する鏡に対し、かなり興味津々といったご様子だった。
「これは手品とかに使えそうですね。それにしても、どういった仕組みなのでしょうか?」
鏡の表面に指先を突っ込むと指先が消失し、消えたはずの指先は背後にあるもう一つの鏡から出現するというプチマジックを披露している真っ最中で、現在進行形かつ当事者でありながら慌てた様子もなく、自分の置かれている状況を楽しむ余裕すら見せていた。
つまりそれは、状況を受け入れているというだけで、状況を知り得た人間の行動とは違い、彼女が情報源に成り得ないことは明白だった。
「はあ…」
私は立ち止まって大きなため息をついたあと、自分に起きたことの一つ一つを整理しはじめる。
――一つずつ整理しよう…。
――まずは、なんで私が変身したのか、だ。
これに関しては、可能性の高い仮説が一つある。
実のところ、ここ数日、私の目は以前同様に、感情の胞子を視ることが出来ている。
それどころか、普通なら視ることのできない存在――つまり、霊体やそれに近い存在すらもハッキリと視ることができるようになっていた。
しかし、以前と違って、時と場所によって視えない場合もあり、最初は気のせいだと思っていた。
だが、度々起こるその現象について状況を整理してみたところ、一つの共通点があった。
それは、雹果が近くに居ること。
先日、私が八代神社を訪れたのは、時と場所という条件を省いた状態で雹果が近くに居るという状況を作るための検証を行うためだった。
◇
◆4月27日 午後4時30分◆
――やっぱり、ハッキリ視える…。
――というか、ここはアダ○スファミリーの屋敷か?
私は援交兎の肩辺りに居る謎の女性や、部屋を走り回る不可思議なそれらにチラチラと視線を向ける。
「私のこと、ずっとつけてたでしょ?」
「なんで私があなたを…?」
援交兎は臆面も無く答える。
だが、ひどく動揺しているのはこの目で確認できている。
「理由は知らない。けど、そうしていたという確証はある」
私は手のひらを差し出し、無言で待ったをかける。
「あーでも、いい。答えなくて。別にそれが知りたくてここに来たわけじゃない。さっきも言ったけど、用事はもう済んでる」
私は出されたお茶を一口だけ啜り、緊張でカラカラになった口内を潤す。
周りに居るそれらを触発しないよう、音を立てないように湯呑みをそっと置く。
「ただ、一つだけあなたに言っておかなくちゃいけないことがある」
余計なものが気にならないよう、援交兎をまっすぐに見つめる。
すると援交兎は前髪をいじりながら、その隙間から覗いていた眼球をキョロキョロさせながら視線を逸らす。
「…5月2日の深夜。私は七不思議の謎を解き明かす」
「そう…ですか」
その瞬間、援交兎は思い詰めるような、どこか物悲しい顔を見せた。
だが、私が瞼を閉じた一瞬の間に、援交兎の顔はいつもの無表情に戻っていた。
「…言うことも言ったし、そろそろ帰る」
正直、長居は無用というより、この場に居ると私の神経が持ちそうになかった。
「…!」
お茶を飲み干してから立ち上がろうとすると、援交兎も慌てたように立ち上がる。
「げ…玄関にて……待て!」
「あ…えっ?は…はい…」
…
言われたとおり、忠犬のように玄関で待っていると、長く続く廊下の奥から援交兎の姿が現れた。
「お…お待たせしました」
「これから買い物…ってわけじゃないよな…。旅にでも出るのか…?」
戻ってきた援交兎は、なぜか巨大なリュックサックを抱えていた。
私がそれを不思議に思っていると、援交兎はそれを私の腕へ落とすように乗せた。
「おぅ…!?」
突然掛かったその荷重に耐え切れず、私の腕はすぐさま悲鳴を上げはじめる。
「お…お貸しします。学校に居る子は皆おとなしい子ばかりですが、気性の荒い子も居ます。持ってるだけで近寄ってはこないと思います」
――おとなしい子?気性の荒い子?どういう意味だ…?
私は疑問符を浮かべながら、渡されたリュックサックを開ける。
すると、そこには神社で見掛けるものをフルコンプしたかのような道具が、ありったけと言わんばかりにぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「あー…なるほど…。有難く使わせてもらうよ。ありがとう」
「いえ…」
「それじゃあ、また」
私は少しだけ重く感じる玄関の扉を開ける。
巨大なリュックを背負いながらあの階段を下ることを想像し、心が折れそうな気分に打ちひしがれていると、背後から呼び止められた。
「待って…!」
というより、リュックを引っ張って物理的に引き止めていた。
「ま、まだ何かあるのか…?」
さすがの私も、これ以上の威圧感と荷重に耐えられる自信は持ち合わせていないので、さっさとこの場を離れたい気持ちで一杯だった。
「…さっきの答えがまだでした」
「さっきの…答え?」
「私があなたのことを尾行していたのは、あなたのことをもっと知りたかったから…です」
援交兎は顔を伏せながら、モジモジとしていた。
「それと…。ま…また来れば良い…と思う」
その時、私は理解した。
この八代雹果という人間は、他人を避けたり嫌っていたりするわけではなく、ただ感情表現が苦手なだけ。
それ故、周囲の人間には誤解され、近寄り難い印象を与えてしまいやすい。
つまり、この子は紛うことなき“クーデレ”なのだ。
◇
◆5月3日 午前0時49分◆
あの日、雹果が何らかの特殊な力を有しており、その力が私に影響を与えていることはこの目で確認した。
とは言え、その時点ではそれがどういった力なのか、というところまでは判ってはいなかった。
だが、先ほどの天草雪白の話から、雹果は他人との縁を繋げる力を持っているということまで判り、私は概ね納得していた。
雹果は巫女であり、霊の類が視えている。
だとすれば、私が雹果の縁を繋げる力によって共鳴し、霊が視えるようになったと考えれば十分過ぎるほどに理屈が通るし、ミラ・フォームと言うぐらいだから、メルティー・ミラを発生源としているものであることはほぼ間違いないということも、この説を後押しする根拠になる。
つまり、天草雪白のスマホを使って雹果がメルティー・ミラに変身したことを引き金に、私に同様の現象が発生して私も変身してしまった、という仮説が成り立つのだ。
しかし、この仮説には一つ大きな疑問が残る。
それは、魔法少女では無かったはずの私が、なぜ雹果と共鳴したのか、ということ。
元魔法少女、半身不随、一年遅れ、願いを打ち消した等々、過去に様々なフラグを立てまくった自分には思い当たる節がありすぎるため、何が要因であるかを特定することは不可能に近かった。
故に、考えることを早々に諦め、私は次の考察に移る。
――“ミラ・フォーム”ってなんなんだ…?
奇しくもというかなんというか、私はこのパターンを知っていた。
新しい武器や装備を手に入れたり、眠れる力が覚醒したり、新しい力を他者から譲り受けて強くなるというイベントは、大半の王道モノに存在している。
そして、そういったものは大抵の場合、唐突にそのタイミングが訪れる。
私の体が勝手に動いたことや、自分自身でミラ・フォームと名乗ったことも踏まえると、今回のコレはそのケースである可能性が高いと言わざるをえない。
だが――。
「もし、それが本当だとしたら…」
『――おい!聞いてんのかっ!?』
私は頭を抱えながらその場に蹲る。
勿論、唐突に偏頭痛に襲われたとかではない。
そう仮定すると、私はとある事実を自分自身で認めることになってしまうからだ。
「遅咲きにもほどがあるだろー…私ー…」
現状をありのままに説明すると、私は魔法少女を辞めたあとに覚醒した、ということになる。
RPGで例えるなら、苦戦苦闘の末にラスボスを倒したあと、帰りの道中で最強奥義を会得した、という状態に近い。
「う、ん…?けど…だとしたら…」
私はあることが引っ掛かり、思わず首を傾げる。
私たちシャイニー・レムリィは、ノワという妖精によって創られた存在ではあるが、ご存知のとおり、雨の願いを叶えるためだけにでっちあげられた、偽りの魔法少女である。
そんな私たちに、別のフォームに変身するなどという凝った機能が搭載されていることは些か不可解ではあるし、数年経った今になってこの機能が判明したというのも気に掛かる。
「成長に合わせて力を解放していくつもりだった…?つまり、私たちの実力が足りていなかったから、ノワが隠していた…?」
『――おい、てめえら!』
クリア後にしか手に入らない武器や技、限界突破や隠しステージなんておまけ要素はゲームではよく見かけるが、それはクリアという条件を満たして実力が証明されたことによって、更なる高みへのステップアップとして用意されたゲームバランス調整によるところが大きい。
それと同じと捉えるなら、当時の私たちに実力が伴わず、ノワが意図的にフォームチェンジの機能を隠していたという可能性は十分考えられるし、それであれば一切文句は無い。
だが、こうも考えられた。
「披露する機会を失っていた…?それとも…」
いずれ私たちにこの機能を明かすつもりだったが、何らかの理由でその機会が訪れなかったと仮定した場合、パターンは二つ考えられた。
一つは、雹果達に出会うこと自体はノワの描いたシナリオに元々あったが、何らかの理由で出会うきっかけが失われ、そのシナリオは削除された。
そしてもう一つは、ノワの描いたシナリオはまだ終わっていない、という可能性。
「まさか…な…」
『――おい!チビガキと変態巫女!!』
「誰がチビガキか!!」
私は条件反射で空に向けてツッコミを入れたあと、後ろを振り向く。
すると、私の背後で腕を組みながら、あからさまな不機嫌を露にしているトウガの姿があった。
『てめえら、俺様のことどんだけ無視してんだよ!?』
「あー、ゴメン。存在感無いからすっかり忘れてたー」
意図的に無視していたことを棚に上げつつ、私はすっとぼけながら頭を掻く。
『チビ。てめえに聞きたいことがある。その力どこで手に入れた?』
チビという言葉に再度引っ掛かりつつも、その感情を押し殺しながら、その質問に首を傾げる。
「どこでって…自称・流れ星の妖精から…?」
その瞬間、乾いた夜風が音を立てながら流れ去っていった。
『流れ星の妖精…だぁ?かははは…!』
自分の言葉を復唱すると、私はトウガが笑ったその意味に気付き、何故か恥ずかしさが込み上げてきた。
『んなもん居るわけねーだろーが?もしかして、中身もお子様なのか?かはは!』
「じ…事実!事実だから仕方ないだろ!?というか誰がお子様か!自称・神様に言われたくないわ!」
『だ、誰が自称だ!そういや、てめえには名乗ってなかったな…。俺様は…』
――どうやら、雹果の言ったように、この神様には躾が必要そうだ。
「八尾の狐…でしょ?」
私のその言葉を聞いた途端、トウガは高笑いをピタリと止めた。
そして、私に睨みを利かせたあと、ニヤリと笑った。
『口には気をつけろよ?人間?』
次の瞬間、トウガは一気に距離を詰め、私の顔面目掛けて鋭い爪を突き立てる。
『!?』
「…なるほど。こうやって使うのですね」
だが、それは鏡の中の幻影であって、私の実体ではなかった。
――これは…鏡像?天草雪白が私達に使った技か…?
『舐めたまねしやがって…!!』
トウガは振り返りざまに、雹果目掛けてハンドベルを打ち出す。
「――シルト!!」
私が高らかに叫ぶと、周囲を浮いていた二枚の鏡がそれに反応し、その攻撃を阻む。
――天草雪白の戦い方を見ておいて良かったー…。
「ありがとう…ございます…」
「そっちこそナイス、雹果――いや、もうメルティー・ミラと呼んだほうが良いか」
「…?」
雹果はキョロキョロと後ろを見回したあと、眉をハの字に曲げながら振り返る。
私は大きくため息をついたあと、仕方なくメルティー・ミラこと雹果を指差すと、自分が何者なのかをやっと理解したらしく、納得したという様子で小槌を打つ。
「なるほど…。私は“めるてぃみら”というのですね。覚えました」
その滑舌や言い回しに違和感を覚えながらも、私は敢えてスルーする。
『てめえら…揃いも揃ってよくもまあ、この俺様をコケにしてくれたもんだぜ…』
「降参してその子を解放してくれたら見逃してあげる。こっちは良く解らないけどパワーアップしたみたいだし、神様でも今の私達には勝てないと思うけど?」
形勢的に言えば、私の力は未知数としても、雹果が居る以上有利であることに変わりは無い。
故に私は堂々と虎の威を借り、威勢を張る。
「それは困ります。私、あの子が欲しいので」
雹果からのまさかの異論に、私はツッコミを入れる。
「子供か!そんなこと言ってる場合じゃ…――っ!?」
私は突然、支えを失って地面に強く叩きつけられる。
すぐさま上半身を起こし、何が起きたのかを確認すると、私の左足にチェーンが巻きついているのが目に留まった。
『かはは…!悪いな。そいつを使った戦い方はもう攻略済みなんだよ!!』
そこで私は、自分の大きな間違いに気が付いた。
相手は既にメルティー・ミラと交戦しており、戦闘経験を積んでいる。
それに対して、こちらはまだ変身したばかりで手探りの状態。
つまり、経験としてはトウガのほうが私達よりも一歩先に居る。
私は経験こそが自分の力だと言いながらも、そのことを失念していたのだ。
私はまるで釣られた魚のように地面を滑りながら引き寄せられ、数秒もしないうちにトウガの足元に到着する。
トウガはそのまま私に覆い被さるようにマウントをとる。
『俺様には力が必要なんだ…。力の出所がどこだろうと関係ねえ…』
言い終えると、トウガはわざと音を立てるように舌舐めずりをした。
――こ、こいつまさか…!?
私は身の危険を感じて顔面を守ろうと腕を交差させて守ろうとするものの、トウガの腕がそれを強引に引き剥がし、地面に固定する。
「くっ…!?」
『てめえの持ってる力、全部俺様が戴くぜ?』
トウガはゆっくりゆっくりと、私の唇目掛けて接近する。
『おっと、動くなよ変態巫女。少しでも動いたらこいつの腕が二度と使い物にならなくなるぜ?』
「…」
雹果は黙ったまま立ち尽くしている――というよりもただただ静観しているといったほうが近い。
私のファーストキスを守るためというわけではないが、この状況においては、天草雪白のようにトウガに力を奪われることだけはなんとしても避けなければいけなかった。
そこで私は一か八かの賭けに出る。
「…私の力を奪って、千年経っても叶わなかったことを実現したいのか?」
『…!』
トウガの動きがピタリと止まり、私のことを驚いた表情で見つめ返す。
「あなたは封印された腹いせに暴れているわけじゃないし、何かの要因で荒魂になった訳でもない。あなたには明確な目的がある。そうでしょ?」
トウガは黙したまま、私のことをジッと睨み付ける。
「あなたが焦る気持ち、私にも判る。神様になった代償として失ったものがあることも知ってる」
『知ったような口を…。てめえに何が判るってんだよ…!』
自分が立ち止まっている間に、周りが自分を置いて先に行ってしまう。
このトウガという神様は、私と同じような気持ちを数百、数千年という途方も無く長い間、味わってきたのだろう。
そして、それはこれからも終わらない。
「わかるよ。当ててあげようか?あなたが荒魂に裏返ってまで暴れている理由を?」
『…』
「神という肩書きを捨て、妖怪としての本質に戻り、自分のコンプレックスを解消すること。それはつまり、九尾の狐になること」




