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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
72/183

第14話 魔法少女は七不思議で。(2)

 ◆4月25日 午後4時◆

 屋上前の踊場に集まる、三人の人影がある。

「…で、なんで私が呼ばれたわけ?」

「あーちゃんならこういうの得意そうだなって思って。はい、これ」

 私は有無を言わさず、スマホがセットされた、ごてごてのコントローラーを手渡す。

「私、こんなのやったことないんだけど…?チーがやればいいんじゃないの?ゲーム得意だったじゃん?」

「ゲームをひと括りにしない。それと、これはゲームじゃない。あーちゃんの手に未来が掛かっているんだ」

 私は臆面もなく、もっともらしく言い放つ。

「未来って…。コレで?」

「私、レーシングゲームとかは苦手なんだ。あーちゃんは器用そうだし、分身を操るようなもんだから出来るかなと思って」

「ん~…まあ、似てるっていえば似てるけど…」

 複数の分身を同時に遠隔操作出来る雨なら、こんなおもちゃの操作くらいお手のものだろう。

「なんか雨が降りそうだから、その前にちゃちゃっとお願い。そこに座って」

「そういう変なとこに信頼置かれても困るんだけど…しょうがないなー…」

 雨は疑惑の目を向けながら床に座る。

 そして私は、すかさずその股の間に収まるように座り込む。

「…って!何食わぬ顔をして、どこに座ってるんだよ!?」

「私が画面見ないと意味ないし。操作はあーちゃんで、見るのは私」

 収まってみると、適度な閉鎖感と背中のクッションのお陰で、意外と快適なコックピットだった。

「まったく…」

「あー!そ、それ…!私もやってみたいですの!!」

 芽衣は鼻息を荒げながら、手を上げる。

「あー…これが終わったらなー…」

 芽衣がやりたいのは、コレの操作ではなく私と密着することだということは明白だったので、私は適当に誤魔化すように相槌を打つ。

「まあ、それはともかく…芽衣。宜しく」

「はいですの」

 芽衣は屋上の小窓を開け、そこから紐で括られたドローンをゆっくり外に落とす。


 …


「な~る…。操作方法は大体理解した。結構面白いね、コレ」

 雨は数分もすると、慣れた手つきでドローンを縦横無尽に飛ばせるようになった。

 毎度の事ながら、雨の飲み込みの速さと順応力には驚かされる。

「…てか、今更だけど、これってよく考えたらマズくない…?ドローンを学校に持ってきた挙句に屋上で飛ばすとか、生徒会とか先生たちが黙ってないんじゃ…」

「大丈夫。私たちは遊んではいない」

 これは(れっき)とした学習である。

 などと言っても教師連中が納得するはずもないので、私は既に保険を掛けておいた。

「…そりゃそうだけど、傍から見れば遊んでるようにしか見えないと思うし。普通に屋上に入らせてくれってお願いすれば良かったんじゃない?」

「お願いしたけど駄目だった。はじめから、そっちは期待してない」

「…だから、こんなものがここにあるワケか」

 黒髪書記に、屋上の調査をするから鍵を開けて欲しいと直談判したところ、七不思議を調べることと屋上に生徒を入れることは別のことと正論を言われ、呆気なく却下された。

 当然、その返答は想定の上だったので、私は興味本意で買ったまま放置されていたドローンを家から持参し、次の作戦に移ったわけだ。

「慣れてきたなら、とりあえずフェンスをぐるっと回るように飛ばしてみて」

「りょーかい」

 手元の画面に映された映像には、人一人すらも通すことを許さないとばかりに高々とそびえ立つフェンスが、監獄の壁の如く、ただただ連なっていた。

 近付いて念入りに観察してみても、穴の開いた部分や開きそうな場所は見当たらなかった。

「うーん…。やっぱり、外からの進入は無理そうか…。じゃあ、次は屋上全体が見えるようにお願い」

 ドローンの映像は急上昇し、教室棟を真上から見た衛星写真のような映像になった。

「これでどう?」

「うん。良い感じ」

 上空でドローンをホバリングをさせ、画面の隅々を観察する。

「…ん?なんか地面に描かれてない?絵みたいな…」

 色が落ちていて判りづらいが、屋上の地面全体を覆うように、円のようなものが確認できた。

「…ヘリポートでしょうか?」

「いや…これはたぶん魔法陣」

 ――なんでこんなところに…?

 一般的には、魔法で何かを封印したり、別の世界から何かを召喚したりするために描くものだが、高校生にもなって真面目にこんなものを描くのは、オカルト研究会か黒魔術研究会、もしくは中二病を拗らせた人間くらいしか思い付かない。

 魔法陣などと名前がついてはいるが、私のような元・魔法少女であっても、魔法陣を実際に描いて魔法を使うことなんてなかったため、魔法陣についての知識はほぼゼロである。

「あれ…?春希さん。今、この辺りで何か光りましたの」

 芽衣にそう言われて画面の端に注視すると、確かにそこに何かがあることは確認できた。

「…ちょっと、この辺に近づいてみてくれない?」

 私は画面を指差し、雨に指示を告げる。

「おっけー」

 ドローンは急降下を開始し、画面に写っていたモノに接近する。

「これは…」

 スマホの画面に映し出されたのは、ドローンが飛んでいる姿だった。

「なんでこんなところに鏡?」

「これ…教室棟の大鏡と似ていますの。同じものでしょうか?」

「貴方たち!何をしているのですか!?」

 私たちが鏡の存在に首を傾けた直後、階下から姿を現したのは、息を切らした黒髪書記だった。

「ほーら、言わんこっちゃない…。一番マズい人が来ちゃったよ…」





 ◆4月25日 午後6時◆

 ちょうど学校を出た頃、私たちの状況を表現するかのような豪雨に見舞われ、地面はまたたく間に水浸しになっていた。

「雨…結構降りますね…」

「…酷い目に逢ったから、早いところ帰りたい」

 私はうな垂れるように歩きながら呟く。

「これは完全に目を付けられたわ。前途多難だねー」

 あの後、私たちは散々な目にあった。

 私の持参したドローンは当然の如く没収され、こっぴどく叱られた挙句、反省文をこんな時間まで書かされていた。

 だが、部活の創設に関わるようなことはしていないと証明できたため、最悪の状況だけは免れていた。

「しっかし…よくも私をネタに使ってくれたな。これを用意してたってことは、はじめからこうするつもりだったんだろ?」

 雨は持っている野球のボールを放り投げてはキャッチしてを繰り返している。

()()サインボール。役に立ったでしょ?」

 その野球のボールには私の直筆で書かれた、“五月雨”という文字が記されていた。

「いや…これじゃ、私が怪力女みたいじゃないか…」

「間違ってないから、それほど問題ない」

 雨の強肩によって放り投げられたボールが屋上に入り、それを確保するためドローンを使った、という子供が思いつきそうな言い訳は、私が予め屋上の小窓から放り投げておいた、このサインボールによって証明され、虚構の事実となった。

「けど、芽衣にも迷惑掛けちゃった。悪い」

「私は構いませんの。春希さんとの思い出が一つ増えましたから!」

「いや、それは黒歴史って言うんだぞー…」

「てーか、私には謝罪ナシかよ…」

「鞄持ってあげてるから、そこはチャラで宜しく」

「黒歴史が鞄一つって…割に合わないだろ」

 学校前の大通りから外れて裏通りに入ると、街灯だけが点々と灯る、暗闇の道が続いていた。

「でもさ。あれだけやって成果ナシってのは納得いかないわ」

「結局、別の進入口は見当たりませんでしたの。やっぱり、鍵を開けて誰かが侵入したのでしょうか?」

「屋上を使う可能性がある部活としては天文部くらい。天文部が天体観測をしていたっていう可能性は否定できないけど、肝試しに来た生徒に毎度毎度目撃されるとも思えないし、それなら正体はもっと前にハッキリしているはず。それに…」

 私は、あの魔法陣のことが少し気に掛かっていた。

 どうしても、誰かが面白半分で描いただけだとは、私には到底思えなかった。

「…とすると見間違えか、もしかするとホンモノのゆうれ…」

 芽衣がそこまで口走ると、雨がすかさず止めに入る。

「ス…ストップ!それ以上は言わないで!」

 まあ、屋上に現われるのが本物の幽霊だとすると、私たちはそれを証明しなくてはいけなくなる。

 もし、証明とするとなれば、私たちが仲良さそうにピースしている写真の後ろに、幽霊が顔でも覗かせていなければ納得してもらえないのだろう。

「ん…?」

 私は立ち止まり、後ろを振り返る。

「どうしましたの?春希さん?」

「あ…いや。何でもない」


 …


 会話を交わしながら道なりに進むと、十字路に差し掛かり、私たちは立ち止まる。

「あれ?なんか家から連絡があったみたい」

 私は雨に鞄を返し、ポケットからスマホを取り出す。

「私、妹に買い物頼まれたから、ここでお別れ」

「あ、私もちょっと…用事が」

「そうなの?じゃあ、二人ともまた明日ー」

 私たちは手を振り、それぞれが別々の道へと別れる。


 …


 闇夜に浸った夜道を、ひとり進む。

 そして、私の靴音とリズムを合わせるように、背後からピチャピチャという水たまりを踏みしめる靴音が僅かに聞こえる。

 ――やっぱり私か…。

 私は立ち止まり、一呼吸したあと、意を決して声を上げる。

「…そこに隠れてるのは誰?」

 私が振り向くと、人影は闇の中から姿を現わした。

 街灯の光が当たっていないため、顔ははっきりと見えない。

 だが、赤と白を基調としたパーティードレスのような格好をしていることは判った。

『…あの件から、手を引きなさい』

 その声と見た目から、女性であることは判った。

 相手が三歩ほど歩みを進めると、その姿が街灯の明かりに照らし出された。

 ドレス姿などではなく、パッと見では二次元キャラのコスプレのようだった。

 ノースリーブのワンピースのようだが、巫女服の袖のようなものついており、まるで巫女装束とパーティードレスを掛け合わせたような奇抜なデザインだった。

 スカートは幾重にも重なったフリルが足元まで続き、足元に覗く足はハイヒールのような形をした赤茶色のブーツに、紋章のような白線が刻まれている。

 百歩譲ってコスプレイベント帰りのお嬢さんということで説明は出来そうだが、顔を覆い隠している赤い狐のお面と、雨に打たれてずぶ濡れになっている様が、その存在が異質であることを際立たせている。

 ――熊の次は狐か。

 春先になると変な人が増えると言うが、どうしてこう私の前にばかり現れるのだろうか。

()()()って、なんのこと?」

『…あなたがやろうとしていることは、皆を不幸にします』

「あなたの都合が悪くなるってこと?例えば、七不思議を解かれることで、大切なモノを失う…とか」

『…』

 私が少し探りをいれると、《仮称・赤狐面(せきこめん)》は押し黙った。

 表情は窺えないが、どうやら図星のようだった。

『あなたにその気が無いのなら、私はあなたに容赦なく危害を加えます』

 赤狐面は、スケッチブックくらいある丸鏡をどこからともなく取り出す。

 そして、それをそっと宙に放り投げる。

「っ!?」

 その鏡は、何故か空中に浮かんだまま静止した。

 ――これは、まさか。

 私が驚愕している間にも、私は目を疑う光景を何度も目の当たりにすることになった。

 赤狐面が鏡に手を突っ込むと、鏡の中から何かが引っ張り出される。

 それは、一張りの弓と一本の矢だった。

 赤狐面は取り出された弓を構え、その矢先をまっすぐ私に向ける。

『動かないでください。当たり所が悪いと死にます』

「何を言って…」

 ――フォン!

 私が口を開いた瞬間、何かが空を切る音が鳴った。

 目を動かして確認する。

 赤狐面の放った矢は私の左足をかすめ、アスファルトの地面をもろともせずに突き刺さっていた。

『動かないで、と言ったはずです。喋ることも許しません。私にはあなたを殺める理由はありません。しかし、あなたに動いてもらっては困るので、死なない程度の怪我を負わせます』

「…」

 ――とんだサイコパスだな。コイツ。

 つまり、私が逃げることや許しを請うことさえ許さず、矢で射抜いて病院送りにすると言っている。

 赤狐面は再び鏡に手を突っ込み、矢を引き抜く。

『次は…そうですね…』

 そういうと、矢の先端を私の足に向ける。

『歩けなくなれば動くことも難しくなるでしょう…』

 弓の弦がキリキリと音を鳴らしながら、限界まで張り詰めてゆく。

「…」

 私はというと、動くことも、声を上げることすらも許されないまま、自分の足を射ぬかんとする相手を睨み返すことしか出来ない。

 しかし、私だってただやられるのを待っていたわけではない。

 ――ヒュン!

 次の瞬間。

 赤狐面の真横を豪速球が通過する。

「…!?」

 赤狐面はすぐさま振り返り、野球の球が飛んできた方向へと矢尻を向ける。

「やっぱ私、隠れたり援護する方が向いてるのかも」

 暗闇の中から姿を現したのは雨だった。

『なぜ…ここに?』

「仲間のピンチに仲間が駆けつけるのは、ヒーローモノじゃ当たり前でしょ?」

 雨は傘を放り投げ、ドヤ顔で言い放つ。

 だが、赤狐面が聞きたかったのはそういうことじゃないだろうなと思い、私は補足を入れる。

「…私たちはあなたの存在に気がついていた。だから、別々の道に帰るフリをして、隙を窺ってた。そういうこと」

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