第13話 魔法少女はソウカツで。(1)
◆4月23日 午後3時50分◆
「納得いかない!」
私は声を荒げる。
「ちゃんと部活創設の条件は満たしてる!なんの文句があるんだ!?」
私は生徒会長席に座る男に詰め寄る。
だが、その男は腕を組み、未だ口を噤んだままだった。
すると、窓の外を眺めていた黒髪書記が口を開く。
「…まさか、この短期間で条件を揃えてくるとは思っていませんでした。本当に厄介な人を連れてきてくれましたね。雹果」
黒髪書記は私を一瞥したあと、私の連れに視線を向ける。
「…」
八代雹果は私たちのやりとりを眺めながら、口を固く閉ざしている。
「貴方方について調べさせて頂きました。新入生三人と二年生の部活掛け持ちが二人。つまり、実質二人はただの名義貸し。ただの仲良し同士の集まりに部室も予算も出せない、と言っているのです」
中々痛いところ突くが、それは想定の内。
「兼部が禁止とは校則には書かれていない。名義貸しだろうがなんだろうが、条件は満たしている」
「…そもそも活動内容が不明瞭過ぎます。この部は何をする部活なのです?」
「ぼ、ボランティアみたいなもの…」
黒髪書記は嘲笑交じりのため息をつく。
「貴方がボランティア?笑わせますね。聞くところによると、貴方はコミュニケーション能力に問題があると伺っていますが、そんな人がボランティアなんて出来るのでしょうか?」
「で…出来るか出来ないかは、やってみないと判らない」
「貴方は見た目どおりの子供ですか?出来るか出来ないか判らないことに、学校のお金を動かすことは出来ません、と言っているのです」
「み、見た目は関係ない!」
平行線を辿る私たちの会話を見兼ねたのか、これまで沈黙を貫いていた男が口を開く。
「…天草君。そこまでだ。確かに彼女の言っていることは筋が通っている」
「宇城先輩…!?」
「無下に断っているだけでは、我々生徒会の信用問題にも関わる」
その言葉に、天草と呼ばれた黒髪美女は驚きの表情を見せた。
「だからこうしよう。ここは我々の出す条件をクリア出来たら話を聞く、というのはどうだろうか?」
その場に居合わせた全員が、その言葉に眉をひそめる。
「例えば…この学園の七不思議を解き明かすとか、ね?」
◇
◆4月16日 午後1時◆
芽衣と雨を含めた私たち三人は、中庭の木の下で昼食をとっていた。
「…ソウカツをしようと思う」
「え…なに?唐突に?ソウカツ?なにそれ?」
雨は持参の弁当を口に運びながら、疑問の言葉を返す。
「私が入れそうな部活はない。だから、自分で部活を作ろうと思って」
「創設活動だからソウカツ…ですの?」
私はあんぱんを食みながら、小さく頷く。
実を言うと、芽衣に付き添ってもらいながら一週間ほど体験入部をしようと部活を回っていた。
だが、それぞれの部活のガチさに圧倒されて、一つたりとも体験を行うことはしなかった。
「ソレって、単にチーが馴染めそうな部活が無いってだけでしょ?」
雨は私を蔑むような目で一瞥する。
「そうとも言う。だから、それならいっそのこと自分で作った方が早くね?みたいな」
「部活作るって言ったって…それなりに人数が必要でしょ?コミュ障のチーにそんなことできんの?」
自分から言うのは気にならないが、コミュ障だと人から言われると少し癇に障る。
だからといって、事実なので強くも否定もできないというジレンマがなんとももどかしい。
「安心して下さい!私は春希さんにお供しますの!」
「ありがとう、芽衣。これで部活設立に一歩近づいた…というわけで、あーちゃんにお願いがある」
「私にその部活に入れって?」
私は小さく頷く。
「…私もう部活入ってるんだけど?」
「知ってる。テニス部でしょ?似合わない」
「一言多いわ!」
「なんで剣道とか柔道にしなかったの?」
「…まあ色々ねー。ストレス発散にもなるし良いかなって?あっ!てか、それだったらチーもテニス部入れば良いじゃん。すばしっこいから向いてるかもよ?」
「すばしっこいは余計。それにそれは無理。あんな短いスカート穿いて運動なんて絶対無理」
弁当を全て平らげると、雨はすっくと立ち上がる。
「ま、私のことはともかく、チーが作る部活には興味があるし、とりあえず兼部で良ければ入っても良いよ」
「ありがと」
「部活の創設には最低五人の部員が必要らしいですから、あと二人ですの」
覗き込むと、芽衣は学校支給のスマホにプリインストールされた専用アプリから、部活創設についてのページを読んでいた。
「あー…いや…?あと一人かも…?ほら、ちょうど良さそうなのがそこに」
雨が指差した先には、学校の花壇とそこに咲く花々に水を散水する小さな人影があった。
「あ。なるほど」
私は視界に入った、その人影を大声で呼ぶことにした。
「おーい!ハーマイオニーちゃーん!」
「は!?はい!?なんですのー!?…て、あっ…!」
私は腹を抱えて笑った。
すぐさま、その人影は私たちの元に全速力で走り寄ってきた。
「は、はは、花咲さん!が、学校ではその名前で呼ばないでください!!」
私の特訓が身に染み付いたようで、どうやら条件反射的に返事をしてしまうらしい。
「いやー…ははは。それは無理。私、ハーマイオニーちゃんの本名知らないし。まあ、知ってても呼ばないだろうけど」
「そんなぁ…あ、雨さんもなんとか言ってくださいよ~?」
「…悪い。なんか、不思議と私もアンタがハーマイオニーな気がしてきた」
「えーっ!?僕の尊厳がぁ…」
「じゃあ、ハーマイオニーちゃんは入部決定ってことで」
「入部…?な、何勝手に決めてるんですか!?僕はもう園芸部だし…」
私はすぐさまスマホを取り出し、動画リストを表示する。
「良いの?この場であの動画を雨に見せても?」
私のスマホには、あの恥ずかしい動画が残っている。
「それだけは勘弁してください」
ハーマイオニーは目にも留まらぬ速さで土下座した。
「あの動画…?何ソレ?」
「こここ、こっちの話!さ、五月さんは気にしなくていいから!」
「交渉成立。この紙に名前書いて」
私は懐から取り出した入部届とペンをハーマイオニーに手渡した。
「準備早!?そういうとこだけ手回しが早いな」
「な、何度も言うけど、僕は園芸部に入ってるから兼部だからね?部活に参加しなくても文句言わないでよ?」
「わかってる。悪いようにはしない」
私は嘘つきの常套句で相槌を打つ。
「本当かな…って?あの~…これ、部活の名前なんて書けば…?」
「それは後で私が書いておく。どんな部活に入るかは入ってからのお楽しみ」
私は悪魔のようににっこり微笑む。
「か、カワイイ感じで言っても、それってようするに詐欺だよね!?」
――さすがのチョロマイオニーでも気付いたか。
「いいから書く。お前に選択肢はない」
私はさっさと書くように、ジェスチャーで促す。
ハーマイオニーは渋々ながらも、渡した紙にペンを走らせる。
「わかりましたよ…まったく…。はい、書いておいたよ!さ、先に言っておくけど、あんな恥ずかしい格好はもう二度としないからね!?」
「おー…!ああいうのがツンデレっていうんだぞ。あーちゃん」




