第1話 魔法少女は高校生で。(4)
◆4月2日 午前12時15分◆
この黒い子猫は、今の私と似ているのだろう。
子供の頃は持て囃され、大人になれば蔑まれ、知らぬ者からは好奇の目に映り、知る者からは煙たがられ、生きる目的も無いのに、ただ生きるためだけに必死に足掻くことしかできない――きっと、挙げればもっとあるのだろう。
私はそうして神経衰弱のように共通点を探しながら、数分と掛からずして近場の公園へと辿り着く。
「早くしないとな……」
数分前よりも雨足が強くなっていることを悟り、雨を凌げながら子猫を埋葬ができそうな木陰をすぐに選び、私はそこに陣取るようにしゃがみ込む。
そして、手近にあった木片で手早く土を掘り進め、猫の亡骸を埋葬しようと手を動かす。
しかしながら、思いのほか土は固く、その作業は早速難航の兆しを見せていた。
それでもなお、私は無心で土を掘り続けた。
(もし、私があのとき死んでいたとしたら、こうして抱え上げて弔ってくれるような奇特な人は居たのだろうか。たとえ、世界が守れなかったとしても……)
「――それ、猫?」
「――!?」
またしても唐突に、それも超近距離から急に声をかけられ、私の体は条件反射のようにビクリと反応する。
恐る恐る横目で確認してみると、フリルの付いた黒い日傘、金髪ツインテール、青い瞳、さらにはゴスロリファッションにその身を包んている私よりもらしい身なりをしている女の子が、いつの間にやら隣にしゃがみ込んでいた。
私と同じ背格好くらいであることから「きっと小学生なのだろう」と考え至った瞬間、自分に近い背格好=小学生という結論を出した自分の思考回路に、怒りのような呆れのような複雑な感情が込み上げると同時に、自分自身のブーメランによって心を抉られる結果となった。
「この子死んでるの? かわいそう……。それじゃあ、私も埋めるの手伝ってあげる!」
《仮称・黒幼女》はこちらの意志などまったく訊きもせずに話を進め、どこから取り出したのか、小さなスコップ片手に掘削作業を開始していた。
私としても有力な助っ人の申し出を断る理由もなかったので、その行く末を素直に見守ることにした。
………
「こんな感じでいいかな? 結構いい感じに出来たね♪」
スコップという文明の利器があったことに加えて、雨で地面が湿って柔らかくなったことで、思いのほか以降の作業は捗り、黒幼女の助力によって、ものの数分という短時間で子猫の墓は完成した。
「じゃあ、私帰るね。またね、ち……ちっちゃいお姉さん♪」
黒幼女は、去り際にとんでもなく失礼なセリフを残していったものの、私が反論する間もなく、彼女は降りしきる雨の中を慌てたように全速力で走り去っていった。
「……なるほど。あれが世にいう小悪魔という生物……。まったく憎めない……」
そんなことを思いつつ、私は子猫に別れを告げ、カバンを傘代わりにしながらダッシュで帰宅の途に着いた。
◇◇◇
◆4月2日 午前12時30分◆
家に着くなり、私は湯船に直行することになった。
ビショ濡れ&泥まみれになってしまった新品の制服を見た母が私を見るなり激昂し、散々叱られた挙句に衣服を強引に脱がされ、全裸にされて湯船に放り込まれた次第である。
私に落ち度があるとはいえ、仮にも高校生になったばかりの娘に対してこのような仕打ちは、些か不満の残る対応ではあったものの、そんな不満でさえ湯船に浸かってしまえばすっかりすっきりと消えてしまうのだから、人間というのは斯くも単純な生物であると私は思う。
「……」
振り返ってみれば、天使のような顔をした変態に出会い、小悪魔救世主幼女に出会い、かつての友に再会したりと、大変な一日だった。
「……あの頃から、何も変わってない、か」
その言葉を私は否定できなかった。
なぜなら、見た目に関しても行動に関しても、それを否定するだけの材料を私は持ち合わせておらず、魔法少女として戦っていたあの頃から何も変わっていないというのは、疑いようもない事実だったから。