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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
レイン・オア・シャイン編
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第8話 魔法少女は失意の先で。(3)

 ◆4月6日 午後7時30分◆


 夕食を取り終えたあと、私たちはベースキャンプ地である応接間へと戻り、残っている幸福感とやらなければならないという使命感の中で葛藤しながら、私は椅子に腰掛けていた。


「じゃあ、私たちは練習に戻るねー」


 夏那はハーマイオニーの手首をガッチリ掴みながらそういうと、夕食後の余韻などお構いなしといった様子で部屋を出て行こうとする。


「ええー!? も、もうですか!? もうちょっと休んでからでも……遅くないと思う……ですのー」

「ハーマイオニーちゃん! 何言ってるの!? 時間は今も動いているんだよ!? タイムイズマネー! そんなんじゃ、トップは狙えないよ!」

「いや、ぼ……私は別にそういうのは……。というかトップって……? 言ってる意味がよくわからないんだけど……?」

(一体どこで金が動いて、何のトップを目指そうというのか……)


 妹はなぜだか体育会系のスイッチが入っているため、私ですら理解できない言語を発していたため、二人のやり取りを尻目に見る程度に留めておきながら、私は目の前のことに頭を悩ませることにした。


「どれか、良さそうなものはありそうですの?」


 私の目前にあるテーブルには、集められた数十種類の植物の種が並べられており、私はその中からエゾヒ対策に使えそうなものを選定する作業に徹していた。


「う~ん……。全然、わからない。こういうのは詳しくないし」


 正直な話、なぜ私が光と花を由来とするシャイニー・レムに選ばれたのかは今以(いまも)って謎であり、当の本人である自分すらもその理由を知らずにいた。

 アニメや漫画の魔法少女となれば、実家が花屋を営んでいたり、植物や花を育てるのが好きな優しい子が選ばれることがセオリーだったりするものの、生憎(あいにく)と私には花を愛でるとか植物を育てるとか、そういう女の子らしい嗜好は持ち合わせておらず、植物を育てるという行為に関してもまったく関心が持てていなかった。


 アサガオという植物を育てながら、毎日その様子をスケッチしながら文章で綴り、その成長過程を記録するという夏休みの宿題恒例の観察日記というものがあるが、私は以前、夏休み半ばにして枯らしてしまい、後半のページは枯れゆく様を事細かに綴るという、前代未聞の枯れ観察日記を提出したことがあった。

 言わずもがな、クラスで大恥をかいたことを今でも覚えており、それ以来というもの、植物に対して苦手意識が芽生え、興味もそそられることはなく、植物を育てようなどとは思わなくなり、積極的に学ぼうともしてこなかった――そういった経緯があったが故に、植物に関してはメジャーな植物の名前がわかる程度で、まったくと言っていいくらい植物学に関して私は無知だった。


「強い心を持てー! お米食べろー!」

「いや、今さっき食べたばっかりですけど……て、あれ? それって……」


 テーブルに並べられているモノに気が付いたハーマイオニーが、ふと足を止める。


「ナツヅタにヘデラ……それにバラ? なんでこんなものを?」

「もしかして、これ全部ご存知ですの?」

「ま、まあ……それなりには」

「あっ!? わかった!! 華道だ!?」

「華道……? う~んと……まあ、芸の道という意味では同じ……?」


 外見のせいでどうにも忘れてしまいがちだったが、ハーマイオニーの中身は金髪王子(パツキンショタ)であり、園芸部に所属しているのでその辺りの知識は私と違って豊富にあり、教えを乞うには適任の人物だった。

 少々手荒い手段で引き込んだ手前があったため、頭を下げることには抵抗もあったが、この際背に腹は変えられまいと、私は尋ねる。


「ちょっと、教えて。この中で“えげつない”ものってどれ?」

「エ、エゲ……ツナイ? 面白いこと聞……仰られますわね……」


 私は植物の中で何か役に立ちそうなものはないだろうかと、様々な植物を調べていた。

 バラのように鋭利な棘があるとか、もの凄く臭いとか、強力な毒があるなど、エゾヒとの戦闘において有効に働く可能性があったため、その中でも群を抜いた特長を持つ植物があればと、私はこういう聞き方をした。

 すると、ハーマイオニーは数十種類ある中で、私が一番普通だと感じていたそれを迷わず指差した。


「う~ん、そうですわね……。それでしたらダントツでコチラがよろしくてよ」

「ナツヅタ……ですの?」

「ヘクソカズラでもあったらそちらを選び遊ばせたのですけれど、こちらの中でしたらやっぱりナツヅタですわ」

「……一応聞くけど、理由は?」


 着々と迷走し始めている口調にはあえて触れず、私はその根拠を聞き返す。

 なぜなら、これだけある中から迷わずに選ぶのであれば、服用すると死に至らしめる猛毒があるとか、棘が刺さると象すらも動けなくなるとか、よほどの理由があるに違いない――などと勝手な想像を膨らませていた私だったが、その答えは至って普通でありながらも意外なものだった。


「ええっと……しぶといから?」

「しぶとい……? それだけ?」

「それはもう、()()()()()くらいに」

「お話終わったー? それじゃあ、行くよ。ハーマイオニーちゃん」

「ええ!? もうですの!?」


 ハーマイオニーは、まるで子供に引きずられるぬいぐるみのように連行され、私は合掌しながらそれを見送った。


「しぶとい、か……」


 どことなく共感を得た私は、それからナツヅタについて調べることにした。



◇◇◇



 ◆4月7日 午後4時47分◆


「今日の朝、私がナツヅタ種を蒔いておいた」


 ナツヅタは近くにあるものに巻きつき、吸盤で張り付きながら這い上がるように成長し、さらには繁殖力が非常に強いため、枝分かれしながら横にも広がり、それはやがて壁面全体を覆い、最終的には古い民家や建物でよく見かけるような、緑色のお化け屋敷のようになる――というのが、昨夜、私が調べ上げた情報だった。

 当然ながら、通常の環境下では簡単には成長せず、良くて一日1センチ程度ではあるのだが、それでは実戦で使い物にならないため、私は魔法の力を用いることにした。


 光を由来とする魔法であるシャイニー・ライトには光の力が宿っているため、植物に使用すると急成長するという特性がある――つまり、シャイニー・ライトを封じた聖水は、ナツヅタの驚異的な繁殖力とベストマッチであると考え、そこで思いついたのが、このナツヅタの種と聖水を組み合わせた捕縛トラップなのだった。


「ナツヅタの種を地面に埋め、聖水を入れたポリ袋を重みで破裂させてナツヅタの種を発芽させ、急成長したナツヅタの蔦で絡めとり、敵の動きを封じるという作戦――名付けて、アイヴィー・バインドッ!!」

「はぁ……ある意味関心するわ。よくこんな物騒な罠、思い付くもんだわ……」

「あ。今はあまり近寄らないように。貞操とかの責任は取れないから」

「て、ていそう……? あの、植物と何の関係が……?」


 貞操の意味は知っていても、触手との因果関係についてまではピンとこなかったらしく、芽衣は大きく首を傾げていたのだが、私から改めて説明するのも少しばかり気恥ずかしかったので、そこは適当に誤魔化すことにした。


「まあ……その、なんだ…。体に毒だから気をつけようって話」

「ああ、なるほど! そういうことでしたの! 勉強になりましたの!」

(よくもまあ、ここまで箱入り娘に育ったものだ……。親の顔が見てみたい)

「そんなことよりさ……あれ……マズくない?」


 エゾヒは絡みついてくる蔦を、文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いで全て切り裂いており、「川で鮭を捕っている熊みたいだ、すげー」などと一瞬でも考えてしまった私は、すぐさま考えを改める。


「確かに……マズいかも……」


 私が想定していたよりも、発芽しているナツヅタの数や成長速度は遅く、このままいけばエゾヒを拘束するまでもなく、ナツヅタは全て切り裂かれてしまう――そうなってしまえば、エゾヒの動きを止める手段などもはや無くなり、私の試みは失敗に終わり、エゾヒを救うことは出来なくなる。


「……まったく、仕方ないね。種を育てるには、まずは土に十分な栄養を与えないと」


 そう言いながら、リインは()()()()()()()()()()()()を取り出し、それをナツヅタの生えている一帯へと振りまく。

 すると程なくして、ナツヅタとそれが生えている地面一帯は淡く発光しはじめ、地面に無数の小さな山がボコボコと出来上がった。

 そしてその直後、太く、大きい、先ほどとは比にならない量のナツヅタが出現し、それらは爆発的な成長を続けながらエゾヒの体を侵食するかの如く絡みつき、その体を緑色に染め上げていった――それはまるで、植物の成長過程を早送りで再生しているような光景だった。


『グワアァア!!』


 四肢を封じられれば、大抵の動物は身動きがとれなくなる……エゾヒに関してもその法則が適応されるかどうかは定かではなかったものの、如何に力が強くて俊敏なエゾヒであろうとそれは例外では無かったようで、程なくしてエゾヒは足をすくわれるように、ドスンという激しい地響きを立てながら倒れ込み、地面に(はりつけ)にされるかのように縛り付けられた。


(結果的にはなんとかなったし、状況も味方している……。けど、今回は完全にリインに助けられた……)


 エゾヒを罠に掛けるためには、罠が仕掛けられていることを悟られないことこそが重要かつ最大の難題だと私は想定していたのだが、幸か不幸か、怒りの感情に支配されているエゾヒに罠を悟られる可能性は皆無であり、それはあっさりとクリアすることができた。

 しかしながら、種から発芽させる条件に必要なのは、土の中にある栄養と水分であり、光は必ずしも必要ではないという、小学校でも習いそうな初歩的なことを失念していたことに、私は自らの無学ぶりを恥じる結果となった。


「……で、これからどうすんの?」

「確かめたいことがある。あそこに登るの手伝って」


 自分を恥じる暇など今は無いと後回しにして、私は迷うことなく、地面に磔にされているエゾヒを指差した。


「は……? あそこって……エゾヒに登るって!? 正気!?」

「チャンスは今しかない! いいから早く!」


 動きを完全に封じているとはいえ、ナツヅタによる拘束がどれだけ持つかは判らず、恐らくこれがエゾヒに接近することができるラストチャンスであることは間違いなかったため、行動する以外の選択肢が残されていない私はすぐさまエゾヒへと駆け寄った。


「わ、私も手伝いますの!」


 全身が悲鳴を上げる中でその痛みをなんとか堪えながら、リインの支えと芽衣の肩を借り、なんとかエゾヒの背中をよじ登った私は、四つん這いになりながらエゾヒの背中を隈なく捜す。

 その甲斐あって、私はようやく“怒り”の発生源を視認することに成功した。


「枝……? でも、間違いない……。コレだ……」


 怒りの胞子を放出する小さな木の枝が、エゾヒの背中からひょっこりと顔を覗かせており、黒毛に覆われたその根元を掻き分けると、エゾヒの背中を突き破ったかのように十センチほどの枝を生やし、背中を覆うようにその根を張っていた。


『シャイニー・レム』


 突然聞こえたその声に、私は動揺するとともに体が硬直した。

 その声は私の真下から、振動とともに聞こえてきた――つまり、エゾヒの声だった。


『聞け。我に残された時間は残り少ない……』


 既に正気を取り戻すことはないと思っていたため、私は驚きながらも攻撃に備えて身構える。

 だが、そんな心配は必要なかった。


『我を今すぐに殺せ』

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